[M-TT37] 稠密多点GNSS観測が切り拓く地球科学の新展開

[MTT37-P02] 稠密GNSS観測網に基づく2024年能登半島地震のすべり分布の推定

*山田 太介¹、太田 雄策¹、西村 卓也²、平松 良浩³ (1.国立大学法人東北大学理学研究科、2.京都大学防災研究所、3.金沢大学)

キーワード：2024年能登半島地震、GNSS、すべり分布推定、ベイズ逆解析、ハミルトニアンモンテカルロ

近年，地球科学の諸領域においてその展開・活用が進む稠密GNSS観測網によって，地震時の震源域におけるより詳細な地殻変動場を獲得することができる．そのデータの活用によって，複雑な幾何を許した断層モデリングや震源断層上でのより詳細なすべり分布モデルの構築が，データに依拠した形で実現されることが期待される．
本発表では，令和6年能登半島地震を対象に稠密観測網にもとづく静的すべり分布推定を実施した．同地域では活発な群発地震活動が2020年末頃より継続し，一昨年，昨年にはそれぞれMw 5.2, 6.2の地震が発生した背景もあり，臨時観測点も含む震源近傍の稠密な観測網の利用が可能である．解析には国土地理院による電子基準点および京都大学・金沢大学による臨時GNSS観測点により得られた地表変位データに加え，ソフトバンク株式会社の設置したGNSS観測点により震源近傍で獲得された変位データを用いた．震源断層として2枚の矩形断層を余震分布や既知の断層セグメントにおよそ合致するよう能登半島北部およびその北東の海域直下に配置し，それらのすべり分布をベイズ逆解析により推定した．
同解析の結果，右横すべりをやや含む逆断層すべりが卓越した2–3のピークを持つすべり分布が推定された (Mw~7.5)．能登半島北部全体をカバーする南西側の断層では，珠洲市および輪島市の北側沿岸部直下にかけて顕著なすべり域が推定された．これはSAR解析や各現地調査から示唆される，両地域での顕著な隆起に対応する．一方，北東側の断層でも2 m 程度の小さい逆断層すべりが推定された．ただし，同断層は南西側の断層と比較して陸上観測網による感度が乏しく， 事後分布の信用区間が大きい (60%信用区間で5 m以上) ことに留意が必要である．
加えて本発表では，ソフトバンクによる観測点の有無がモデル推定に及ぼす影響を評価するため，電子基準点および臨時観測網のみを使用した推定も実施した．その結果，大局的な特徴は一致するものの，南西側断層の西部ですべりが低減したモデルを獲得した．これは，同領域において観測網の密度が小さいことに起因すると考えられる．また，同時に推定したすべりの空間平滑化の強度が増加するとともに，断層全体においてすべり量の事後分布の信用区間が増加した．これらの結果は，地震時すべりの特徴を詳細かつ不確実性小さく把握するために，稠密かつ均一なGNSS観測網が重要な役割を果たすことを示唆している．

謝辞：本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは，「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じて，ソフトバンク株式会社および ALES株式会社より提供を受けたものを使用しました.