日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT37] 稠密多点GNSS観測が切り拓く地球科学の新展開

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、西村 卓也(京都大学防災研究所)、大塚 雄一(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、藤田 実季子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[MTT37-P04] 九州北部における稠密GNSS観測による火山性地殻変動検出

*大倉 敬宏1成田 翔平2 (1.京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター、2.東京工業大学科学技術創成研究院 多元レジリエンス研究センター火山・地震部門)

キーワード:GNSS、火山性地殻変動、阿蘇

火山噴火のポテンシャル評価のためには、火山体下に存在するマグマ溜まりでのマグマ蓄積量を正確に見積もることが重要である。そのためには、マグマ溜まりの体積増減にともなう地殻変動を検出することが必要となる。
九州北部には、雲仙、阿蘇、九重、由布、鶴見・伽藍岳が存在し、特に阿蘇火山では有史以降数多くの噴火が発生してきた。これらの火山は、いわゆる別府島原地溝帯内に存在していると考えられている。この地溝帯は、東西方向の正断層群と南北伸長場、 負のブーゲー重力異常などで特徴づけられ、 また日本列島で最も活動的な火山地帯のひとつである(町田・他、 2001) 。さらにこの地域の東沖には豊後水道を始めとするフィリピン海プレートの沈み込み域が存在し、プレート間固着や周期的に発生するスロースリップが、地溝帯の変動にも重畳している。また、2016年には熊本地震が発生し、その余効変動が観測されている。したがって、この地域の地殻変動は非常に複雑であることが予想され、火山起源の地殻変動を正確に抽出するためには、稠密な観測網が必要となる。
この地域には、GEONETやV-netの常設GNSS観測網が存在し、九州大学、鹿児島大学、京都大学も独自のGNSS観測点を設置してきた。そこで我々は、近年に整備されたソフトバンク独自基準点が加わり、非常に稠密となった同地域のGNSS観測点網のデータを用いて、火山性地殻変動の抽出と火山活動との対応評価をするFeasibility Studyを開始した。
熊本県〜大分県に存在するGEONET、V-net、各大学、ソフトバンクのGNSS観測点で2021年1月1日から2022年12月31日の間に得られたRINEXファイルをGIPSY OASYS 6.4のバイアス整数化精密単独測位法で予備的に解析し、日々の座標値を得た。解析の際には、衛星暦・時計情報としてIGS精密暦が、大気遅延量推定のためのマッピング関数としてVMF1が用いられている.また、海洋潮汐加重変形と電離層遅延高次補正も考慮されている。
ソフトバンク独自基準点の中には、得られた座標値のばらつきが大きく、地殻変動検出に資さない点がいくつかあったが、大多数の基準点では近傍のGEONET、V-netと比較しても遜色の無い座標再現率であった。
データ解析を行った期間内では、2021年10月に阿蘇火山で水蒸気噴火が発生した。また、大分県の伽藍岳において2022年7月8日に地震活動が活発化し、噴火警戒レベル2に引き上げられた。このレベル引き上げは2016年7月の噴火警戒レベル運用開始後初めてのことであった。
阿蘇カルデラ内にはソフトバンク独自基準点が3箇所に存在しており、そのいずれの観測点でも再現性の高い座標値が得られている。それらの座標値を用いて中央火口丘を挟む基線間の距離変化を求めたところ、噴火前から噴火後にかけて山体膨張をしめす基線の伸びが認められた。これらの伸びは既存の観測点間でも見られているものではあるが、観測点がより稠密となったことで、今後マグマ溜まりの位置や変動量の推定精度が向上することが期待できる。
一方、伽藍岳周辺では火山活動に対応するような基線長変化が得られなかった。2022年7月に活発化した地震活動はすぐに収まり、7月27日には噴火警戒レベルも1に引き下げられたことから、火山体深部の地殻変動源に火山活動の活発化の度合は非常に小さかったと推測される。変化の現れない基線が多くなったことで、ソフトバンク独自基準点の整備は、火山活動活発化の評価の精度向上に貢献していると考えられる。

【謝辞】 本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは「ソフトバンク独自基準点のデータの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じて、ソフトバンク株式会社およびALES株式会社より提供を受けたものを使用しました。また、本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けています。