日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT38] インフラサウンド及び関連波動が繋ぐ多圏融合地球物理学の新描像

2024年5月29日(水) 15:30 〜 16:45 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山本 真行(高知工科大学 システム工学群)、西川 泰弘(高知工科大学 システム工学群)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、乙津 孝之(一般財団法人 日本気象協会)、座長:西川 泰弘(高知工科大学 システム工学群)、乙津 孝之(一般財団法人 日本気象協会)

15:45 〜 16:00

[MTT38-02] 気圧観測のインバージョンによる津波源域の大気ラム波初期振幅の推定

*今田 衣美1中島 健介2 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:逆問題、大気ラム波、津波、微気圧観測

研究の背景
津波発生時には大気ラム波が励起され,地表面に捕捉されてほぼ音速で遠方まで伝わる気圧変動として観測される(例えばArai et al.2011).そのため,十分多くの地点で大気ラム波の気圧変動が得られれば,原理的には津波源におけるラム波の気圧分布の復元が可能である.さらに,大気ラム波の振幅と津波源の波高には直接的な関係がある(Nakajima2018).そこで本研究では,逆問題として大気ラム波の気圧による観測データから津波発生時刻における津波源領域の気圧分布を推定する手法を検討する.

津波源領域の初期気圧推定の逆問題
本研究では,推定変数の数を減らすため,津波源領域を複数の小領域に分割する.そして,津波発生時刻における津波源領域の気圧分布をそれぞれの小領域における単位気圧偏差の重ね合わせと考える.小領域の形状は正方形,スケールは9km×9kmに設定した.簡単のため,津波と大気ラム波の発生時刻は同じで,一瞬で形成されると仮定する.また,形成時刻は何らかの他の方法で既に求まっているものとする.このとき,津波源領域の初期気圧分布を求めることは,それぞれの小領域において,単位気圧偏差がどのような係数で重ね合わせられているかを求めることに対応する.この係数ベクトルをvとし,観測データをwとすると,両者の関係はMv=w の形でかける.Mは各小領域での単位気圧偏差を初期値とする大気ラム波の波動方程式(線形で水平2次元)の解から定まり,ここではスペクトル法を用いてあらかじめ計算しておく.

逆問題の解法
wからvを求める問題は一般にw の次元とv の次元が違うため普通の意味で解けない.そこで,ここでは,特異値解析を使って残差を最小化する解を求めることにする.観測の時空間的分布が適切であるときMの特異値は全て非零で,逆問題は優決定となり,最小二乗解が求まる.しかし典型的には観測データが多くてもMの特異値にゼロが現れ,逆問題は混合決定問題となる.すなわち,vはwから定まらない成分(ヌル空間)を含む.ここでは,ヌル空間に属する成分をゼロとする(自然な解).

模擬観測実験
前述の小領域モデルで表現できる波源域の初期気圧分布を仮定し,大気ラム波の方程式を解いて任意の観測点における模擬観測データを作成し,これらから初期気圧分布が復元できるかを調べた.その結果,推定可能性はM の特異値にゼロが含まれるかどうかで判定できることがわかった.すなわち,Mの全ての特異値がゼロでない場合は気圧初期分布を完全に復元できるが,Mの特異値にゼロやゼロに近いものがあれば初期気圧分布の復元は不完全になる.観測点の数,配置,観測時間長,気圧初期分布を様々に変えた場合の具体例や,観測ノイズの影響の詳細は当日述べる.これらの吟味は,大気ラム波が津波源推定にどの程度有効かの議論と大気ラム波観測網のデザインに役立つ.