日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

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[M-ZZ40] プラネタリーディフェンス—国際的な取り組みと協力

2024年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:吉川 真(宇宙航空研究開発機構)、Michel Patrick(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)、奥村 真一郎(NPO法人日本スペースガード協会)、Chairperson:Patrick Michel(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)、奥村 真一郎(NPO法人日本スペースガード協会)

09:15 〜 09:30

[MZZ40-02] 小惑星における表面更新と宇宙風化頻度分布の関係

*中原 俊平1杉田 精司1長 勇一郎1湯本 航生1諸田 智克1巽 瑛理2平田 成3、Vincent Jean5、Michel Patrick4、Léon Julia6 (1.東京大学、2.宇宙科学研究所、3.会津大学、4.コートダジュール天文台、5.ドイツ航空宇宙センター、6.Instituto de Astrofísica de Canarias (IAC), University of La Laguna, La Laguna, Tenerife, Spain.)

■背景と目的

 Hera missionは小惑星ディモルフォスへのDART探査機の衝突の影響を調査することを目標としたESA-JAXA 共同探査である[1]。この衝突はディモルフォスの全球的な変形を引き起こすほど大規模だったと推定されている。、そのため、人工クレーターは古典的なお椀型になっている可能性は低く、極めて複雑な形状であることが予測されている[2]。このため表面露出時間の長短の指標を用いて、人工衝突の影響を判別する必要がある。その代表は宇宙風化度である。Nakahara+(2023)は衝条件での可視観測で得られるアルベドマップに基づいて宇宙風化マップを作成できることを示した。しかし、小惑星表面では宇宙風化と共にseismic shakingなどによる表面更新も同時並行で起きている。実際そのような影響を反映したと考えられる宇宙風化度の頻度分布ヒストグラムがイトカワ上で得られている[3](Fig.A)。しかし、このヒストグラムから表面状態の情報を定量的に読み取る方法は確立されていない。このような方法はHera missionの科学的成果を最大化するためのデータ解析に有用である。そこで、本研究では宇宙風化度の頻度分布が表面更新や宇宙風化の進行とどのような関係にあるかを定量的に明らかにすることを目標にする。

■宇宙風化分布モデル

 宇宙風化の頻度分布を理解するために、宇宙風化の進行とラブルパイル天体表層における表面更新をモデル化した。まず、先行研究で成された地上でのレーザー照射実験の結果に基づいて、宇宙風化による反射率変化は単純なオフセット付き指数関数で表現できることを示した。次に、ラブルパイル小惑星では宇宙風化度は最表層より下の層では宇宙風化度が極めて小さくなるという最近の観測(Noguchi +20022)に基づいて、宇宙風化が蓄積される最表層と宇宙風化を持たない基層からなる2層構造を持つ表面更新モデルを構築した。また、衝突による表面更新の空間的広がりについて、表面更新される面積が一定である理想的な場合と、サイズ分布がベキ分布に従う現実的な場合の両者について検証を行った。このモデルを既に宇宙風化頻度分布が得られているイトカワに適応し、分布の歪度などの統計的指標が表面更新の時間尺度との関係を調べた。また、ディモルフォス上では新鮮なイジェクタが存在すると考えられる。このイジェクタの量やサイズが観測される宇宙風化分布にどう反映されるかについても検証した。

■解析結果

 解析の結果によって、宇宙風化度の頻度分布は宇宙風化の進行と表面更新によるリセットの両者の競合で制御されており、その形状は表面更新と宇宙風化の時間尺度比及び表面更新サイズとカメラ解像度の空間スケール比の2要素によって決定されることが分かった。表面更新が単一サイズで生じる場合は、分布が左右どちらに歪むかは大きく宇宙風化と表面更新の時間尺度比によって決まることが分かった(Fig.B)。ただし、表面更新サイズが小さい場合においては分布が正規分布に漸近し、分布間の差異は小さくなる。ベキ分布を持つ場合は、やはり分布は時間尺度比に制御される。べき分布の指数が大きく、小面積での表面更新が多い場合は鋭く尖った分布になる。べき分布の指数が小さい場合には大きい表面更新領域がピクセルを占めるために単一サイズモデルのサイズが大きい場合と類似する。

 単一サイズモデルに基づいてイトカワでは表面更新の時間尺度は1~3 Myrと推定される。この年代は、イトカワのリターン試料から得られているNeの宇宙線暴露時間 (<8 Myr [5])と調和的である。

 また、イジェクタが分布に与える影響については、大きなイジェクタは分布を二峰性に変化させる一方で、イジェクタがピクセルサイズより小さい場合においても分布の形を変化させることが分かった。これはサブピクセルサイズのイジェクタの検出の可能性を示している。

■Heraへの応用と結論

本研究では宇宙風化度の頻度分布を宇宙風化の進行と表面更新から説明するモデルを作成し、小惑星表面の年代を推定する手法を開発した。さらに、この手法をイトカワにおいて実証し、Heraにおいても適用可能と考える。また、宇宙風化度の頻度分布観測はHera探査での細かなイジェクタの検出にも有効だと考えられる。

■References
[1]Michel et al., 2022, PSJ, 3, 160
[2]Radcan & Jutzi, 2019, PSJ, 3,128
[3]Koga et al., 2018, Icarus, 299
[4]Noguchi et al., 2023, nature astronomy,7, 2
[5]Nagao et al., 2011, Science,333