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[MZZ43-P01] 水文地質情報に基づく見かけ熱伝導率の推定手法の開発
キーワード:地中熱、見かけ熱伝導率、水文地質、推計式、熱応答試験
1. はじめに:NEDO「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」事業
地中熱利用システムは地下200 m程度の浅層地盤を冷暖房や給湯,融雪等の熱源とするシステムでであり,再生可能エネルギー熱利用の一つに位置づけられる.地下の温度は深度10~15mより深くなると年間を通じてほぼ一定となる.本システムは地中熱熱交換器を埋設して地盤と熱交換するクローズドループ式や,地下水を汲み上げて地上で熱交換するオープンループ式などがあり,いずれも高い省エネ性能を有する.更に,CO2排出抑制やヒートアイランド現象抑制の効果等も期待される.しかし,国内の地中熱利用システムの導入状況は,普及が進んでいるとは言い難い状況である.普及を阻害する大きな要因としては,高い設置コストや認知度不足などが挙げられる.
我が国の第4次~第6次エネルギー基本計画では,「エネルギー利用効率を高めるためには,熱をより効率的に利用する事が重要であり,そのための取組みを強化する事が必要」「2050年カーボンニュートラルを見据え,省エネルギーや燃料転換などにより,更に熱を効率的に利用する必要がある」として,地中熱を含む再生可能エネルギー熱の利活用について記載されている.これを受け,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は,再生可能エネルギー熱利用に関する各種技術開発・規格化の事業を進めてきた.現在は「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」事業(2019~2023年度)を実施している.(国研)産業技術総合研究所は,北海道大学,秋田大学とのコンソーシアムにより「高度化・低コスト化のための共通基盤技術開発/見かけ熱伝導率の推定手法と簡易熱応答試験法および統合型設計ツールの開発・規格化」というテーマで本事業に取り組んでいる.本発表では,産総研が主導して取り組んでいる「見かけ熱伝導率の推定手法の開発・規格化」の開発内容について報告する.
2. NEDO事業:サブテーマ「見かけ熱伝導率の推定手法の開発・規格化」
見かけ熱伝導率は地下水流れの影響を含む見かけ上の有効熱伝導率(岩石や堆積物の有する熱伝導率)であり,現状では熱応答試験によってのみ推定される.見かけ熱伝導率はクローズドループ式システムの設計において重要なパラメータであることから,地中熱の業界では全国を網羅した見かけ熱伝導率分布のデータベース構築が強く求められてきた.既存の地質情報,地下水情報等からシステム導入地点の見かけ熱伝導率を精度よく推定できれば,適切なシステム設計が可能となり,導入コストと運用コストの適正化に大きく貢献できる.そこで,産総研はNEDO事業のサブテーマ「見かけ熱伝導率の推定手法の開発・規格化」において,水文地質学的知見に基づいた見かけ熱伝導率の推定手法を開発した.推定する見かけ熱伝導率は地表から深度100mまでの平均値とし,推定誤差精度は0.5 W/(m・K)を目標とした.
3. 水文地質学的推定手法に基づく見かけ熱伝導率推計式の開発と検証
見かけ熱伝導率を推定するためには,ダルシー流速が与える影響を定量化する必要がある.そこで,本研究では地質構造と地下水流速の諸条件下における数値熱応答試験の結果に基づき,有効熱伝導率とダルシー流速を変数とした見かけ熱伝導率の推計式を作成した.数値熱応答試験は,厳密解を用いる方法や数値モデルを用いる方法によって実施し,有効熱伝導率とダルシー流速および見かけ熱伝導率の関係性を定量化した.推計式に入力する変数となる有効熱伝導率とダルシー流速に関しては,次の方法によって整備したデータを用いた.
有効熱伝導率:京都盆地,唐津地域,名護平野をモデル地域として地質モデルを構築し,有効熱伝導率データを整備した.他の地域は,20万分の1日本シームレス地質図の地質凡例ごとに有効熱伝導率を割り当てて整備した.
ダルシー流速:モデル地域では,地質モデルから広域3次元地下水流動解析を実施しダルシー流速を求めた.モデル地域以外では,AIモデルによる地下水面の簡易推定を実施し,動水勾配データを整備した.また,20万分の1日本シームレス地質図を活用して日本全国の透水係数データを整備し,動水勾配と透水係数からダルシー流速を求めた.
推計式を検証するため,モデル地域内8カ所で実施した熱応答試験で推定した見かけ熱伝導率と比較した.その結果,6地点では両者の見かけ熱伝導率の誤差が0.5 W/(m・K)に収まり,概ね良好な再現性を確認できた.今後,推計式や実測値の精度の検証を行う予定である.
謝辞:本研究は,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」の研究の一環として実施した.記して謝意を表します.
地中熱利用システムは地下200 m程度の浅層地盤を冷暖房や給湯,融雪等の熱源とするシステムでであり,再生可能エネルギー熱利用の一つに位置づけられる.地下の温度は深度10~15mより深くなると年間を通じてほぼ一定となる.本システムは地中熱熱交換器を埋設して地盤と熱交換するクローズドループ式や,地下水を汲み上げて地上で熱交換するオープンループ式などがあり,いずれも高い省エネ性能を有する.更に,CO2排出抑制やヒートアイランド現象抑制の効果等も期待される.しかし,国内の地中熱利用システムの導入状況は,普及が進んでいるとは言い難い状況である.普及を阻害する大きな要因としては,高い設置コストや認知度不足などが挙げられる.
我が国の第4次~第6次エネルギー基本計画では,「エネルギー利用効率を高めるためには,熱をより効率的に利用する事が重要であり,そのための取組みを強化する事が必要」「2050年カーボンニュートラルを見据え,省エネルギーや燃料転換などにより,更に熱を効率的に利用する必要がある」として,地中熱を含む再生可能エネルギー熱の利活用について記載されている.これを受け,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は,再生可能エネルギー熱利用に関する各種技術開発・規格化の事業を進めてきた.現在は「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」事業(2019~2023年度)を実施している.(国研)産業技術総合研究所は,北海道大学,秋田大学とのコンソーシアムにより「高度化・低コスト化のための共通基盤技術開発/見かけ熱伝導率の推定手法と簡易熱応答試験法および統合型設計ツールの開発・規格化」というテーマで本事業に取り組んでいる.本発表では,産総研が主導して取り組んでいる「見かけ熱伝導率の推定手法の開発・規格化」の開発内容について報告する.
2. NEDO事業:サブテーマ「見かけ熱伝導率の推定手法の開発・規格化」
見かけ熱伝導率は地下水流れの影響を含む見かけ上の有効熱伝導率(岩石や堆積物の有する熱伝導率)であり,現状では熱応答試験によってのみ推定される.見かけ熱伝導率はクローズドループ式システムの設計において重要なパラメータであることから,地中熱の業界では全国を網羅した見かけ熱伝導率分布のデータベース構築が強く求められてきた.既存の地質情報,地下水情報等からシステム導入地点の見かけ熱伝導率を精度よく推定できれば,適切なシステム設計が可能となり,導入コストと運用コストの適正化に大きく貢献できる.そこで,産総研はNEDO事業のサブテーマ「見かけ熱伝導率の推定手法の開発・規格化」において,水文地質学的知見に基づいた見かけ熱伝導率の推定手法を開発した.推定する見かけ熱伝導率は地表から深度100mまでの平均値とし,推定誤差精度は0.5 W/(m・K)を目標とした.
3. 水文地質学的推定手法に基づく見かけ熱伝導率推計式の開発と検証
見かけ熱伝導率を推定するためには,ダルシー流速が与える影響を定量化する必要がある.そこで,本研究では地質構造と地下水流速の諸条件下における数値熱応答試験の結果に基づき,有効熱伝導率とダルシー流速を変数とした見かけ熱伝導率の推計式を作成した.数値熱応答試験は,厳密解を用いる方法や数値モデルを用いる方法によって実施し,有効熱伝導率とダルシー流速および見かけ熱伝導率の関係性を定量化した.推計式に入力する変数となる有効熱伝導率とダルシー流速に関しては,次の方法によって整備したデータを用いた.
有効熱伝導率:京都盆地,唐津地域,名護平野をモデル地域として地質モデルを構築し,有効熱伝導率データを整備した.他の地域は,20万分の1日本シームレス地質図の地質凡例ごとに有効熱伝導率を割り当てて整備した.
ダルシー流速:モデル地域では,地質モデルから広域3次元地下水流動解析を実施しダルシー流速を求めた.モデル地域以外では,AIモデルによる地下水面の簡易推定を実施し,動水勾配データを整備した.また,20万分の1日本シームレス地質図を活用して日本全国の透水係数データを整備し,動水勾配と透水係数からダルシー流速を求めた.
推計式を検証するため,モデル地域内8カ所で実施した熱応答試験で推定した見かけ熱伝導率と比較した.その結果,6地点では両者の見かけ熱伝導率の誤差が0.5 W/(m・K)に収まり,概ね良好な再現性を確認できた.今後,推計式や実測値の精度の検証を行う予定である.
謝辞:本研究は,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」の研究の一環として実施した.記して謝意を表します.