日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-02] なぜ生物は生体鉱物を作るのか?〜アート思考による科学の進展〜

2024年5月26日(日) 10:45 〜 12:00 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:荒木 優希(金沢大学)、豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、長井 裕季子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、長井 裕季子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)


11:25 〜 11:40

[O02-03] 芸術と自然科学系研究の今日的境界 ‐対話的共同生成を試みて‐

*石田 翔太1、一色 大悟1、梶谷 真司2、澤崎 賢一3、寺田 匡宏3 (1.京都大学、2.東京大学、3.総合地球環境学研究所)

キーワード:芸術、人文学、学際、対話

研究の現場において学際融合の促進が唱えられて久しい。自然科学系研究と芸術は学際の相性が良いように思う。芸術が持つ創造性が自然科学の知見と柔軟に結びつき、多様なアウトプットを実現することができるからである。
しかし「学際っぽい」多くの事例は、自然科学の知見がもたらす技法や素材の提供による、表面的な目新しさに留まっている。これは幾つか理由が想像できるが、一つは、我が国において一般的に想定される芸術像が「特定の人が作品を作ること」、「作者の思いを主観的に表現すること」、「物体としての作品こそが芸術であること」などの近代的固定観念が未だに濃いことに起因しているように思う。
芸術の歴史は人類の感覚、意識、価値観の変遷である。現代は人々が共同的に幻想を見る時代の終わりを迎え、個人と世界の関係が変化している。
これらのことから結ばれる芸術の今日的な態度がある。その豊かさから、自然科学系研究と芸術がなし得る共同の姿をお示しすることができたらと思う。

代表者は所謂オーソドックスな絵画、一般的に認知される絵画の制作に取り組むことを基盤にしつつ、芸術の学際を模索と実践を行ってきた。自然科学との関りにおいては、科学イラストの作成から学際研究グループの運営まで、画家として科学者と協働関係を継続してきた。その中で、芸術と自然科学の両者による剥き出しの応答から生じるものを敏感に見ていくことが、表面的な融合に留まらない芸術学際のあるべき姿と捉えるようになった。
また、このようなメタ的検討の中で、果たして画家の役割は絵に携わるだけなのか、疑問を抱くようになった。現代的芸術における絵具は、画面を彩るだけではなく、その物質の来歴や、人類的、地球的意味までも検討する必要がある。視覚に至るまでの物語に注意深くなることが作品の言説を高める要因(メディウム)なのである。
自然科学研究との協働により、真理探究的な態度の芸術を試みていくことが、古来、芸術と科学の距離が近かった頃の核心的な位置づけを取り戻すことに繋がるのではないかと考えるようになった。

現在、経営学者との「ことばの交換」を通じて画家のオートエスノグラフィの作成に取り組んでいる。質的心理学などの分野で昨今注目されているナラティブ分析の手法を経営学に用いたもの、それの芸術への実験である。分析や知見交換を進めることで、もの語りから参与者ことばの体系に変化を与えていくことができる。
この結果、画家の持つ文化資源の学問的活用のためには、対話を重ねることによる、ことばの感度の向上が重要なポイントであることが分かった。対話は思考そのものを敏感にさせる効果がある。自身の専門的文脈を異分野のことばで読み返すことができるこの手法は、それだけで豊かな知識生産となることが分かった

ナラティブ研究における「共同生成」は、和辻哲郎が『風土』で語った「通態性」と近しい性格を持っていると感じている。今回、芸術家と哲学、人類学、歴史学、宗教学が集まり、芸術の現代的知見を自然科学に会わせる。問う態度に敏感になれば、各自然科学分野の質的なものをあらわにすることができると見込んでいる。
本発表では、対話の良さを持ち込み、従来ないような発表を画策したい。今日的芸術のアプローチが自然科学の新たな伴走者となれることをお示ししたい。