日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] 口頭発表

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[O-05] 線状降水帯: 発生メカニズム・予測から防減災まで

2024年5月26日(日) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:佐々 浩司(高知大学教育研究部自然科学系理学部門)、和田 章(東京工業大学)、佐山 敬洋(京都大学)、宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、座長:佐々 浩司(高知大学教育研究部自然科学系理学部門)


09:02 〜 09:42

[O05-01] 線状降水帯の発生メカニズムと予測可能性

★招待講演

*加藤 輝之1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:線状降水帯、集中豪雨、数値予報

日本では3時間降水量200mmを超える集中豪雨がしばしば観測され、過酷な地滑りや洪水をもたらす。そのような事例は主に、「線状降水帯」と名付けられたほぼ停滞する線状降水システムによってもたらされる。線状降水帯は気象庁の用語集にも記載してあるように、「次々と発生する発達した対流セルが列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50〜300 km程度、幅20〜50 km程度の強い降水をともなう雨域」として定義される。線状降水帯の形成過程としては主に、暖湿流がほぼ停滞している局地前線に流入することで、対流セルが前線上で同時に発生する破線型と、下層風の風上側に新しい対流セルが繰り返し発生し、既存のセルとともに線状に組織化するバックビルディング型の2つに分類される。
 1980年代に全国に展開する気象レーダーのデータがデジタル化され、それを合成することで全国の雨雲レーダーが運用されるようになった。その後、1990年代にはアメダス等の雨量計で補正した1時間降水量分布(解析雨量)が作成されるようになり、そのデータを用いることで集中豪雨の多くは線状の降水域でもたらされることがわかってきた。「線状降水帯」という用語は2000年前後に気象庁気象研究所の研究者の中で、九州の地形に由来する線状に伸びる降雨域を対象に用いられていたが、2007年発刊された教科書「豪雨・豪雪の気象学(朝倉書店)」で現在とほぼ同様の内容が定義された。その後、2012年の平成24年新潟・福島豪雨の発生要因として、気象研究所からの報道発表の中で初めて用いられ、2014年8月20日の広島での大雨後に多くの報道機関で使われるようになり、2017年の流行語大賞にノミネートされたこともあり、世間に認知されるようになった。
 線状降水帯の発生特性は解析雨量を用いて、3時間降水量130mmを閾値として、最大3時間降水量観測時での降水量50mm以上の領域分布の縦横比から調査されている。集中豪雨に対する線状降水帯事例の割合は約50%であり、台風本体周辺500km以内を除くと約3分の2に達する。領域別にみると、九州を含む南日本では台風本体周辺を除く集中豪雨の大半が線状降水帯である。月別にみると、東日本では9月に線状降水帯が一番多く発生し、その多くは台風の遠隔(中心から500~1500km)での発生事例に起因する。梅雨前線付近で大雨が頻発する6~7月の南日本では、集中豪雨のほとんどが線状降水帯による。
 線状降水帯の再現・予測可能性について、2014年8月の広島での大雨事例を例に、数値予報モデルがどの程度の大雨を予想できたかを紹介する。水平解像度5kmのモデル(気象庁メソモデルに対応)では、線状の降水域の予測も不十分な上、20日4時までの最大3時間降水量が32 mm程度(解析雨量では232mm)であり、この結果からだけでは大雨を予測するには無理がある。水平分解能2kmのモデル(気象庁局地モデルに対応)では、解析雨量とほぼ同じ最大降水量(227mm)を予測することができた。より高解像度の250mのモデルではより実況に近い降水量分布が予想されたが、本ケースでは2kmモデルを用いることで線状降水帯による大雨の予測は可能であった。局地モデルは、予報結果が初期値の1時間後に利用できるように運用されているので、19日19時過ぎ(大雨発生の6時間前)には “予報結果を信用すれば”大雨を予測できていたことになる。ここで、現業運用されている数値モデルの予測結果を予報結果と呼ぶことにする。“予報結果を信用すれば”と前述したのは、この予測を導いた初期値が最適だったためで、初期値が新しくなるにしたがって予報結果がかなり変わってしまっていた。一例として、1時間後(19日19時)の初期値を用いた2kmモデルの予測結果の最大降水量は約半分になり、降水域も南側にかなりずれていた。さらに新しい初期値になると、予測降水量はさらに減っていた。このように初期値に存在する僅かな違いが予報結果に大きく影響する。1つの予報結果だけで、警報を出すかどうかを判断する難しさがここにある。
 梅雨期の線状降水帯の多くは、天気図に解析されている梅雨前線の南側100~300km付近の領域で発生し、それらを予測することはかなり難しい。その領域は梅雨前線帯と呼ばれ、前線にともなう風の収束といった強制力がないにも関わらず、次に示す線状降水帯が発生しやすい条件が揃っているためである:①大雨のもとになる大量の大気下層水蒸気の流入、②積乱雲が発生・発達しやすさにつながる大気下層の暖かく湿った空気の流入、③積乱雲中の雲が蒸発しないためにも大気中層まで湿っていること、④積乱雲の組織化につながる適度な鉛直シア(上下での風速・風向差)の存在。