日本地球惑星科学連合2024年大会

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[O-06] ジオパークとサステナビリティ(口頭招待講演)

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(フォッサマグナミュージアム)、座長:郡山 鈴夏(フォッサマグナミュージアム)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、福村 成哉(南紀熊野ジオパーク推進協議会)、北川 桐香(下北ジオパーク推進協議会)、冨永 紘平(一般社団法人土佐清水ジオパーク推進協議会)

14:15 〜 14:45

[O06-02] ジオパークの立場から気候変動に対してできること

★招待講演

*大岩根 尚1 (1.株式会社musuhi)

キーワード:気候変動、ジオパーク

昨年の夏を振り返ると「暑かった」という感想を持たれる方が多いだろう。そしてこの冬も暖冬が続いている。それもそのはず、2023年は世界の平均気温は観測史上最高となり、エルニーニョ現象の影響もあり今年もその傾向が続いているとされる。

 気候変動の体感としては、数十年かけて少しずつ暑い日が増えてきていたり、豪雨災害が増えていたりなど、様々に感じている方も多いだろう。この変化がもう数十年続くとしたら、どんな世界が訪れるだろうか。

 気候変動が進行したその先の地球はただ暑くなるだけでなく、豪雨や旱魃など様々な気象災害の頻度と程度が増加し、農水産物の不作や疫病・病害虫の蔓延、それに起因する飢餓、水や資源をめぐる紛争など、様々な困難が想定されるディストピアにもなり得ると予測される。誰もその解決策や答えを知らない想定外の困難が、同時多発的に発生する可能性がある。

 そんな世界にならないために、私たちに何ができるのだろうか。そしてそもそも、ここまで研究者たちが指摘してきたにも関わらず、温室効果ガスの排出が続いてきてしまった原因は何なのか。それは、私たちの日常にある。畜産業・農業を始めとした食料生産と輸送、アパレル産業、エネルギーや各種消費財の使用などが排出の大きな要因となっており、それは私たちの便利な暮らしを支える社会・経済システムの全体が要因であると言い換えることもできるだろう。

 その社会・経済システムに、私たち一人一人が(無自覚に)加担し依存する存在として日常を送っていることが気候変動を進めている、という見方もできる。このことに気づきなおし、自分が影響を及ぼせるところから変化を始めることが必要だと著者は考える。ディストピアへ向かう現状からよりよい未来を切り開くために、私たちはこの場から何が始められるのだろうか。

 自分にできることとして、著者は日本ジオパークネットワークの中で「気候変動アクションワーキンググループ」を2023年冬に立ち上げ、活動を開始した。2024年1月に日本ジオパークネットワーク関係者を対象として、気候変動に関する研修会を行った。内容としては、気候変動の現状と原因を知り、地球規模での過去の気候変動と生物の適応を学び、自治体の気候変動への取り組み事例を知り、危機に瀕しての住民への周知の事例を学び、さらにそれらのインプットを経て対話し、自分のアクションを考えるという1泊2日の研修とした。

 事後のアンケート(回答数22)では、研修全体の4段階評価で「満足」または「非常に満足」と答えた割合が 100 % で、うち10名が2月上旬までに何らかの行動を起こしていた。行動の内容としては、組織内外への伝達/教育、家庭での行動の変化などであった。今後、気候変動に対するアクションを自分の地域で広めるために必要なサポートとしては、講師の派遣、具体的な提案や知識、情報共有のための場など、何らかの研修を求める声が多く挙げられた。また日本ジオパーク委員会からのオーソライズされた資料や審査指針なども必要ではという声も、研修会の中で聞かれている。

 実施した経験や参加者からの意見を踏まえ、研修の形式や内容を改善し、よりジオパークとしての具体的なアクションが日本全国に広まるため、今後も活動を継続・拡大していきたい。また、科学と社会をつなぐ役割として、地質遺産の保全にとどまらず気候変動対策やSDGsの達成に向けた活動を増やしていきたい。