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[O08-P100] 東京都神津島産黒曜石の断面の観察による産地分析
キーワード：黒曜石、実体顕微鏡、断面、斑晶、神津島
[背景と目的]
黒曜石は古代に石器の材料として使用された。黒曜石の内部構造は産地ごとに特有の特徴を持っており、検証には肉眼、実体顕微鏡による断面の観察、構成元素の分析によって産地の特定が可能である。このことから、考古学の分野において、遺跡から出土した黒曜石の産地の推定が進んでいる。(赤崎２０２１)の一つとして東京都神津島村が知られている。 神津島本島では五ヶ所の黒曜石産地(表１)がある。この中の恩馳島の黒曜石は矢尻などへの加工に適しており、関東、中部の遺跡の旧石器時代から弥生時代初期の恩馳島産の黒曜石が出土している(相川２０２１)一方、恩馳島産以外の黒曜石が遺跡から発掘された事例は僅かである。そこで本研究では、恩馳島産黒曜石は他の産地の黒曜石の内部構造に相違点があるのではないかと仮説を立て、各産地の黒曜石断面の比較により、各産地の黒曜石の特徴、固有の形状を明らかにして、なぜ、当時の人類が恩馳島産を好んで使用したのか、なぜ他の産地の黒曜石に需要がなかったのかという歴史的背景について考察した。
[方法]
観察には、本村に点在する黒曜石産地（恩馳島、砂糠崎、観音浦海岸、沢尻海岸）から採取した黒曜石のサンプルを使用した。初めに肉眼による断面の形状の観察を行った。産地ごとに黒曜石をグループ化し、類似点を観察し他産地との比較を行った。次に実体顕微鏡を使用し、黒曜石の内部構造を調べた。産地ごとの黒曜石を透過光が通せるほどに加工し、各黒曜石の内部模様を調べた。
[結果]
恩馳島 図１
肉眼による観察では、断面は一様な黒色のガラス質で透明なガラス質は見られず、黒曜石の厚さが５ｍｍ程度と薄い箇所では灰色で透けるように見えた。全体的に凹凸が小さく、断面は非常に滑らかである。斑晶が数個確認することができ、数は他の産地と比べて極めて少ない、大きさは１ｍｍ未満のものがほとんどである。また断面に直線状の筋のような構造の模様を確認でき、この模様は、全ての恩馳島産黒曜石に共通した。実体顕微鏡による観察では、透過光を使用した際、内部構造に縦線模様があるのがわかった。また内部には、気泡が点在していることがわかった。
沢尻海岸図２
肉眼の観察では、断面は黒色で透明ガラス質の部分が点在する。凹凸は多少あるが、比較的平行な面である。斑晶が恩馳島産より多く、大きさは１ｍｍ前後である。実体顕微鏡で、は同じ産地のサンプルに断面の模様に違いが見え縦線模様を有するものとないものがあった。恩馳島産と同様に内部に気泡が見られるがごく僅かである。
観音浦 図３
肉眼の観察では、断面は黒色の部分と透明色の部分に分かれおり凹凸が他の産地と比べて大きく、斑晶の数は非常に多量であった。また、斑晶は約２ｍｍの大きさでり、恩馳島産、沢尻海岸産の斑晶と判別がつく大きさである。実体顕微鏡による観察では、
縦線模様は見えなかった。また、多量の気泡を見ることができた。
砂糠崎 図４
肉眼による観察では、断面は黒色と透明色で、透明ガラス質の部分が線状の模様を構成しており、凹凸は小さく、恩馳島産と類似している。斑晶の広がり、大きさは、沢尻産と類似していた。実体顕微鏡では、縦線模様が観察でき、気泡の分布が観音浦産と類似している。
[考察]
結果をまとめると表 1のようになった。ここから筆者は黒曜石産地が異なるが、類似している特徴がみられる点に着目した。そして神津島の黒曜石は大まかに恩馳、沢尻タイプと観音浦、砂糠崎タイプに分けられるのではないかと考えた。また、２つのタイプを比較すると恩馳島、沢尻は斑晶の少なく、凹凸が小さいことから加工時に衝撃が入りやすく石器に適するタイプと考えられる。一方で、観音浦、砂糠崎タイプは、断面に黒色のガラス質鉱石と透明なガラス質鉱石が混じり構成された黒曜石であり、斑晶の量は恩馳、沢尻グループと比較すると多い傾向である。また、断面の凹凸が大きい。そのため、加工時に衝撃が内部に広がる際に石器に適する滑らかな断面は現れないと考えられ、構造が複雑なため、石器には適さないと考えられる。
[今後の課題]
本研究ではサンプルが少なく、根拠が不十分になっており、さらなるサンプルの確保が必要である。また、本研究では観察結果を定量的に表すことで論理的な根拠を確立しようと試みたが、方法を作成出来ずにいた。今後は、どのように定量的のなデータが作成可能か調べていきたい。
[参考文献]
相川譲(２０２０)『—後期旧石器時代前半期における神津島産黒曜石の利用とその原産地推定結果の広域的再集成から―』東京大学大学院人文社会系研究科・考古学研究室 ３３ １－２２
赤崎広志 (２０２１)『宮崎県出土の黒曜石・ガラス安山岩製石器の産地推定』、宮崎県埋蔵文化センター。研究紀要第６集
堤隆ほか（２０１９）『神津島における黒曜石産地と菊若遺跡の石器』、明治大学 資源環境と人類 ９ ３３—４０
黒曜石は古代に石器の材料として使用された。黒曜石の内部構造は産地ごとに特有の特徴を持っており、検証には肉眼、実体顕微鏡による断面の観察、構成元素の分析によって産地の特定が可能である。このことから、考古学の分野において、遺跡から出土した黒曜石の産地の推定が進んでいる。(赤崎２０２１)の一つとして東京都神津島村が知られている。 神津島本島では五ヶ所の黒曜石産地(表１)がある。この中の恩馳島の黒曜石は矢尻などへの加工に適しており、関東、中部の遺跡の旧石器時代から弥生時代初期の恩馳島産の黒曜石が出土している(相川２０２１)一方、恩馳島産以外の黒曜石が遺跡から発掘された事例は僅かである。そこで本研究では、恩馳島産黒曜石は他の産地の黒曜石の内部構造に相違点があるのではないかと仮説を立て、各産地の黒曜石断面の比較により、各産地の黒曜石の特徴、固有の形状を明らかにして、なぜ、当時の人類が恩馳島産を好んで使用したのか、なぜ他の産地の黒曜石に需要がなかったのかという歴史的背景について考察した。
[方法]
観察には、本村に点在する黒曜石産地（恩馳島、砂糠崎、観音浦海岸、沢尻海岸）から採取した黒曜石のサンプルを使用した。初めに肉眼による断面の形状の観察を行った。産地ごとに黒曜石をグループ化し、類似点を観察し他産地との比較を行った。次に実体顕微鏡を使用し、黒曜石の内部構造を調べた。産地ごとの黒曜石を透過光が通せるほどに加工し、各黒曜石の内部模様を調べた。
[結果]
恩馳島 図１
肉眼による観察では、断面は一様な黒色のガラス質で透明なガラス質は見られず、黒曜石の厚さが５ｍｍ程度と薄い箇所では灰色で透けるように見えた。全体的に凹凸が小さく、断面は非常に滑らかである。斑晶が数個確認することができ、数は他の産地と比べて極めて少ない、大きさは１ｍｍ未満のものがほとんどである。また断面に直線状の筋のような構造の模様を確認でき、この模様は、全ての恩馳島産黒曜石に共通した。実体顕微鏡による観察では、透過光を使用した際、内部構造に縦線模様があるのがわかった。また内部には、気泡が点在していることがわかった。
沢尻海岸図２
肉眼の観察では、断面は黒色で透明ガラス質の部分が点在する。凹凸は多少あるが、比較的平行な面である。斑晶が恩馳島産より多く、大きさは１ｍｍ前後である。実体顕微鏡で、は同じ産地のサンプルに断面の模様に違いが見え縦線模様を有するものとないものがあった。恩馳島産と同様に内部に気泡が見られるがごく僅かである。
観音浦 図３
肉眼の観察では、断面は黒色の部分と透明色の部分に分かれおり凹凸が他の産地と比べて大きく、斑晶の数は非常に多量であった。また、斑晶は約２ｍｍの大きさでり、恩馳島産、沢尻海岸産の斑晶と判別がつく大きさである。実体顕微鏡による観察では、
縦線模様は見えなかった。また、多量の気泡を見ることができた。
砂糠崎 図４
肉眼による観察では、断面は黒色と透明色で、透明ガラス質の部分が線状の模様を構成しており、凹凸は小さく、恩馳島産と類似している。斑晶の広がり、大きさは、沢尻産と類似していた。実体顕微鏡では、縦線模様が観察でき、気泡の分布が観音浦産と類似している。
[考察]
結果をまとめると表 1のようになった。ここから筆者は黒曜石産地が異なるが、類似している特徴がみられる点に着目した。そして神津島の黒曜石は大まかに恩馳、沢尻タイプと観音浦、砂糠崎タイプに分けられるのではないかと考えた。また、２つのタイプを比較すると恩馳島、沢尻は斑晶の少なく、凹凸が小さいことから加工時に衝撃が入りやすく石器に適するタイプと考えられる。一方で、観音浦、砂糠崎タイプは、断面に黒色のガラス質鉱石と透明なガラス質鉱石が混じり構成された黒曜石であり、斑晶の量は恩馳、沢尻グループと比較すると多い傾向である。また、断面の凹凸が大きい。そのため、加工時に衝撃が内部に広がる際に石器に適する滑らかな断面は現れないと考えられ、構造が複雑なため、石器には適さないと考えられる。
[今後の課題]
本研究ではサンプルが少なく、根拠が不十分になっており、さらなるサンプルの確保が必要である。また、本研究では観察結果を定量的に表すことで論理的な根拠を確立しようと試みたが、方法を作成出来ずにいた。今後は、どのように定量的のなデータが作成可能か調べていきたい。
[参考文献]
相川譲(２０２０)『—後期旧石器時代前半期における神津島産黒曜石の利用とその原産地推定結果の広域的再集成から―』東京大学大学院人文社会系研究科・考古学研究室 ３３ １－２２
赤崎広志 (２０２１)『宮崎県出土の黒曜石・ガラス安山岩製石器の産地推定』、宮崎県埋蔵文化センター。研究紀要第６集
堤隆ほか（２０１９）『神津島における黒曜石産地と菊若遺跡の石器』、明治大学 資源環境と人類 ９ ３３—４０