日本地球惑星科学連合2024年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P91] 溶液の濃度勾配による蜃気楼の再現実験および分析

*大原 遼人1 (1.中央大学附属中学校・高等学校)

キーワード:蜃気楼  、光の軌跡  、再現実験  、ショ糖水溶液

1 はじめに
蜃気楼とは空気中の屈折率の勾配による光の屈折により,物体が反転したり歪んだりした虚像が見られる大気光学現象である.その発生には観測者と実像との距離や気温分布や風などの大気の状態が一定の条件を満たしている必要がある.実際に蜃気楼が発生しやすい場所としては,海岸,砂漠,湖,長い直線的なアスファルトの道路などが挙げられる.これらの場所で蜃気楼が発生する原因は,水やアスファルトの温まりやすさや冷めやすさが空気と異なっていることである.
空気中の屈折率は主に気温によって変化する.蜃気楼発生時の光の軌跡を,理論計算により正確に図示している例はほとんど無い(柴田2013).また、先行研究として静岡県清水東高等学校自然科学物理班(2009)がある。この研究は実験で再現した際の光の軌跡を図示するというものである。しかし、その方法は理論計算ではないため、条件が変化した際の計算に適用することはできないものであった。そこで蜃気楼における光の軌跡の理論計算に基づいた正確な図示を目標として今回の研究を行った.本研究では蜃気楼における光の軌跡をエクセル上で描き,ショ糖水溶液を用いた再現実験における光の軌跡との比較を行った.蜃気楼には上方蜃気楼,下方蜃気楼,側方蜃気楼の3種類あるが,これらは光の屈折の向きに違いはあるものの原理はすべて同じである.今回の再現実験及び分析では上方蜃気楼を対象とした.

2 研究方法
〈再現実験〉
1)屈折率が1.33から1.42の間で等差となるような8つのショ糖水溶液(0,8,16,24,31,37,44,50重量%)を作成する.
2)作成したショ糖水溶液を屈折率の低い方から注射器を用いて水槽の底へ静かに入れ,同じ厚みである8層のショ糖水溶液の水槽を作る.
3)最下層から角度をつけて緑色のレーザー光を入射させる.水槽側面に対する入射角5度から5度ずつ増加させ,水面における光の全反射が発生するまで計測をする.
4)レーザー光の屈折後の座標を計測する.角度はレーザーポインターの側方にスマートフォンを付け測定した.
5)溶液を2層にしても再現することはできるが,多層にしたほうが光の曲がり方を観察しやすいため8層とした. 

3 分析
ある区間が極めて多層に分割されていると仮定し,その層ごとに屈折率が異なり,且つ屈折率がグラデーション状になっている場合を想定する.エクセルを用いて各層間における光の屈折による光の角度の変化,及び進んだ距離を算出する.その算出した結果を用いて光の軌跡を図示する.また,先の再現実験との比較をするため,光の屈折後の座標を明らかにする.
計算はスネルの法則を利用して行った.理論上,光の軌跡の最上部において光が水平になる.光が水平になるとその後水平に進んでしまい計算が続かないため,光の入射から光が水平になるまでと光が水平になった後の2つに分けて計算を行い,図示の段階で合成した.

4 結果と考察
再現実験に比べ,分析では光の曲がり方が大きくなった.再現実験では屈折率の分布が一定ではないが,分析においては屈折率が常に一定の変化をしていると仮定した.このことから屈折率の分布が光の曲がり方に関連していると考えた.また,分析において層数を極めて多層であると仮定したが,その層数が少ないときは光の曲がり方は明らかに小さかった.層数を増加させるに伴って光の曲がり方も大きくなった.このことも屈折率の分布の違いに起因すると考えられる.
光の屈折率には光の波長に対する依存性があることが知られている.また,光の波長は屈折する度に変化している.しかし,今回の分析では光の波長を計算に含む事ができず,実験に用いた光の波長と異なった波長の光における文献値しか入手できなかった.そのため,光の波長を分析に考慮していない.このことが実験と分析の結果に誤差を生じさせた可能性が考えられる.

5 今後の課題および展望
分析で屈折率の波長に対する依存性を考慮し,より正確な光の軌跡を図示する.さらに,その分析を大気の状態の逆算などに活用できないか模索する.
屈折率の分布と光の曲がり方の関係性を明らかにする.
今回の実験結果,分析結果を元に気体中での蜃気楼の再現を行なう.

6 参考文献
柴田清孝,2013:安定成層大気による多像の蜃気楼:レイ・トレーシングと温度構造推定の可能性.天気,60,709-722
静岡県立清水東高等学校 自然科学部物理班,2009:光線追跡による蜃気楼モデルの解析.第53回日本学生科学賞

7 謝辞
本研究において,田島丈年先生・三輪貴信先生(中央大学附属中学校高等学校教員)など多くの方々にご指導ご鞭撻を賜りました.厚く御礼申し上げます.