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[O08-P93] 流星観測のバリアフリー化を目指したオリジナル iPhone アプリケーション『聴く流星』の開発
キーワード:流星電波観測、アプリケーション開発
1. はじめに
流星電波観測は流星が大気圏を通過する際に生じる電離現象によって、地上から発信されたある周波数帯の電波が反射される現象を利用する観測手法である。私たちは誰でも容易に流星観測を行えることを目標に、流星群の自動観測・通知システム『流星出現通知システム』を開発した(李ほか、2021)。本システムは流星電波観測部(2 素子アンテナと受信機で流星を自動観測)・解析部(観測した音声データをスペクトログラム化、学習済みの深層学習モデルに入力して流星エコー音とノイズを判別)・送信部(流星の出現を通知)の 3 つで構成される。しかしこの従来の手法で観測した音声データはホワイトノイズ(以下、ノイズ)が多く、高齢者や視覚等に障がいがある人にとって長時間聴き続けることは困難である。また 2021 年に『障害者差別解消法』が改正され、2024 年 4 月から障がいのある人への合理的配慮の提供が義務化された。このような背景から、高齢者や視覚障がいを持つ人が流星観測を簡単に楽しめるような流星電波観測のバリアフリー化を目指して、本システムの送信部に代わる『音響編集・配信部』及び『観測アプリ部』を増築した。本発表では、研究開発過程における 1)観測データのノイズを軽減する改良、2)観測データを聴くアプリケーション『聴く流星』の開発及び、ノイズ除去前後の観測データを聴き比べるテストの分析結果を示す。
2. 研究手法
本研究では『流星出現通知システム ver.3.0』(李ほか、2021)で取得した 2021 年 8 月 13 日のペルセウス座流星群のデータを使用した。『音響編集・配信部』では、音響編集ソフトウェア Audacity と OpenBroadcaster Software を用いて観測データを音声ファイルとして出力し、ノイズを軽減するために複数のフィルターを適用させた。ノイズ軽減を施した音声データをYouTube にアップロードした。『観測アプリ部』では、アップロードされた動画を再生する iOS アプリケーション『聴く流星』を SwiftUI で開発した。ノイズ軽減の効果を確かめるため、ノイズが軽減される前と後の観測データを聴き比べる聴き取りテストを対面とウェブベース(Google フォームで観測データを聴く)の形式で実施した。被験者は 12~85 歳の 70 名(対面 37 名、ウェブベース 33 名)だった。ノイズ軽減前後の聴きやすさの回答は選択式、理由は自由回答/記述式で得た。
3.結果と考察
『音響編集・配信部』の開発によって、観測データのノイズを広範囲で除くことに成功した。スペクトログラム画像の解析結果から、ノイズが除かれた箇所は流星エコー音の検出閾値(495 Hz)周辺に周波数成分が集約していたことがわかった。一方でノイズ軽減が困難だった箇所もあり、それは基準値以外の周波数成分も多層的に重なっていた箇所であった。『観測アプリ部』の開発では、iPhoneのバーチャル音声アシスタント Siri を用いて『聴く流星』で音声データを再生することに成功した。聴き取りテストで「ノイズ軽減後の方が聴きやすい」と回答した者は、対面 37 名中 29 名(78%)、ウェブベース 33 名中 17 名(52%)であり、対面とウェブベースで差が認められた。これは被験者が音に向ける注意の強さに要因があると考えた。ウェブベースは被験者が観測データを再生するため、対面より音に注意を向けやすい。また、ウェブベースの被験者の多くは再生した観測データについて「((除去されていない)ノイズが急に鳴るので驚く」と述べており、ウェブベースで聴き取りテストを受験した被験者は対面よりも周波数成分の急な変動に驚いた可能性が高い。
4. 結論と今後の展望
本研究は流星観測のバリアフリー化を目的として、『流星出現通知システム』の『音響編集・配信部』、『観測アプリ部』及び iOS アプリケーション『聴く流星』を開発した。本開発によって、ノイズが広範囲で除去された流星観測データを iPhone で簡単に聴くことができるようになった。聴き取りテストでは対面とウェブベースの回答には差が認められたものの,ノイズ軽減後の観測データの聴きやすさが確かめられた。今後はノイズ軽減・除去の方法をいくつか検討し、さらにリアルタイムで『聴く流星』が作動することを実測による流星観測で確かめたい。また、聴き取りテストを視覚や聴覚機能及び認知機能に困難を抱える人も対象に実施したい。
参考文献
1.李ほか(2021)「流星出現通知システム ver.3.0 の開発―流星群の自動観測・通知システムの開発を目指して―」気象文化大賞第 10 回「高校・高専『気象観測機器コンテスト』」報告書
流星電波観測は流星が大気圏を通過する際に生じる電離現象によって、地上から発信されたある周波数帯の電波が反射される現象を利用する観測手法である。私たちは誰でも容易に流星観測を行えることを目標に、流星群の自動観測・通知システム『流星出現通知システム』を開発した(李ほか、2021)。本システムは流星電波観測部(2 素子アンテナと受信機で流星を自動観測)・解析部(観測した音声データをスペクトログラム化、学習済みの深層学習モデルに入力して流星エコー音とノイズを判別)・送信部(流星の出現を通知)の 3 つで構成される。しかしこの従来の手法で観測した音声データはホワイトノイズ(以下、ノイズ)が多く、高齢者や視覚等に障がいがある人にとって長時間聴き続けることは困難である。また 2021 年に『障害者差別解消法』が改正され、2024 年 4 月から障がいのある人への合理的配慮の提供が義務化された。このような背景から、高齢者や視覚障がいを持つ人が流星観測を簡単に楽しめるような流星電波観測のバリアフリー化を目指して、本システムの送信部に代わる『音響編集・配信部』及び『観測アプリ部』を増築した。本発表では、研究開発過程における 1)観測データのノイズを軽減する改良、2)観測データを聴くアプリケーション『聴く流星』の開発及び、ノイズ除去前後の観測データを聴き比べるテストの分析結果を示す。
2. 研究手法
本研究では『流星出現通知システム ver.3.0』(李ほか、2021)で取得した 2021 年 8 月 13 日のペルセウス座流星群のデータを使用した。『音響編集・配信部』では、音響編集ソフトウェア Audacity と OpenBroadcaster Software を用いて観測データを音声ファイルとして出力し、ノイズを軽減するために複数のフィルターを適用させた。ノイズ軽減を施した音声データをYouTube にアップロードした。『観測アプリ部』では、アップロードされた動画を再生する iOS アプリケーション『聴く流星』を SwiftUI で開発した。ノイズ軽減の効果を確かめるため、ノイズが軽減される前と後の観測データを聴き比べる聴き取りテストを対面とウェブベース(Google フォームで観測データを聴く)の形式で実施した。被験者は 12~85 歳の 70 名(対面 37 名、ウェブベース 33 名)だった。ノイズ軽減前後の聴きやすさの回答は選択式、理由は自由回答/記述式で得た。
3.結果と考察
『音響編集・配信部』の開発によって、観測データのノイズを広範囲で除くことに成功した。スペクトログラム画像の解析結果から、ノイズが除かれた箇所は流星エコー音の検出閾値(495 Hz)周辺に周波数成分が集約していたことがわかった。一方でノイズ軽減が困難だった箇所もあり、それは基準値以外の周波数成分も多層的に重なっていた箇所であった。『観測アプリ部』の開発では、iPhoneのバーチャル音声アシスタント Siri を用いて『聴く流星』で音声データを再生することに成功した。聴き取りテストで「ノイズ軽減後の方が聴きやすい」と回答した者は、対面 37 名中 29 名(78%)、ウェブベース 33 名中 17 名(52%)であり、対面とウェブベースで差が認められた。これは被験者が音に向ける注意の強さに要因があると考えた。ウェブベースは被験者が観測データを再生するため、対面より音に注意を向けやすい。また、ウェブベースの被験者の多くは再生した観測データについて「((除去されていない)ノイズが急に鳴るので驚く」と述べており、ウェブベースで聴き取りテストを受験した被験者は対面よりも周波数成分の急な変動に驚いた可能性が高い。
4. 結論と今後の展望
本研究は流星観測のバリアフリー化を目的として、『流星出現通知システム』の『音響編集・配信部』、『観測アプリ部』及び iOS アプリケーション『聴く流星』を開発した。本開発によって、ノイズが広範囲で除去された流星観測データを iPhone で簡単に聴くことができるようになった。聴き取りテストでは対面とウェブベースの回答には差が認められたものの,ノイズ軽減後の観測データの聴きやすさが確かめられた。今後はノイズ軽減・除去の方法をいくつか検討し、さらにリアルタイムで『聴く流星』が作動することを実測による流星観測で確かめたい。また、聴き取りテストを視覚や聴覚機能及び認知機能に困難を抱える人も対象に実施したい。
参考文献
1.李ほか(2021)「流星出現通知システム ver.3.0 の開発―流星群の自動観測・通知システムの開発を目指して―」気象文化大賞第 10 回「高校・高専『気象観測機器コンテスト』」報告書