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[PCG19-P04] 温帯地球型惑星の大気の特徴付けに対して理想的な惑星の発見
キーワード:地球型惑星、トランジット測光、視線速度法、系外惑星大気
地球型惑星の分光観測はその大気中の二酸化炭素や水のような分子組成の特徴付けを可能とし, それにより生命に適した環境を理解するための糸口が得られる。しかし, 受け取る日射量が地球日射 (SE)と同程度の既知の地球型惑星の数は限られており, 温帯大気をフォローアップ分光により特徴付けるのが難しくなっていた。TESSミッションは近傍星を公転する惑星をトランジット測光により検出するための計画であり, 中でもサイズが小さなM型星の惑星探査は小さな惑星の同定に有望である。我々はM3型で0.24 太陽質量の恒星であるGliese 12 のTESSライトカーブを解析した結果, その恒星を公転する地球半径(RE)と同程度の大きさを持つ惑星候補を発見した。そのトランジット信号を確認するため, 多色測光装置であるMuSCAT2とMuSCAT3を用いた地上観測を実行した。我々はさらにNIRIとNIRC2によって得られた高コントラストデータを解析することで, TESS, MuSCAT2, MuSCAT3によって得られた測光値がGliese 12 以外の天体によって影響されていないかを検証した。また, すばる望遠鏡のIRDによる視線速度法を用いた戦略的惑星探査において2019年からGliese 12が独立にモニター観測されていたが, そのデータによってGliese 12を恒星の伴星が公転する可能性を排除した。2023年にはスペインCAHA3.5m望遠鏡のCARMENESも用いてGliese 12の視線速度データを得た。それらの観測の結果, TESSによって検出されたトランジット信号はGliese 12 を公転する惑星によって引き起こされていることが確認できた。最終的に我々はライトカーブと視線速度データを同時にモデル化することで, Gliese 12 bの軌道, 半径, 質量の導出を行なった。その結果, Gliese 12 bは中心星を0.067 ± 0.002 auの軌道長半径で公転していることがわかった。また, Gliese 12 bの半径は0.96 ± 0.05 RE, 質量の3σ上限値は地球質量の3.9倍と制限された。Gliese 12 bが中心星から受ける日射量(およそ1.6 SE)に基づいて, 0.3のアルベドを仮定した場合にその平衡温度は約290 Kとして計算される。そのため, Gliese 12 bは温帯の気候を持っている可能性がある。Gliese 12 は明るく太陽系近傍(12 pc)のM型星であるため, 検出した惑星はTRAPPIST-1の惑星同様に透過光分光による大気の特徴付けに理想的なターゲットの一つである。Gliese 12の現在のXUV放射量はTRAPPIST-1のそれよりも低いことを踏まえると, Gliese 12 bはTRAPPIST-1のいくつかの惑星よりも厚い大気を維持している可能性が示唆される。したがって, Gliese 12 bは宇宙望遠鏡であるJWSTを用いたフォローアップ分光によって地球型惑星の大気やその組成を探究するための重要なベンチマーク天体となりえる。
