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[PCG21-07] TGO搭載分光器NOMADを用いた火星中間圏水氷雲における核生成機構の研究

キーワード:火星、中間圏雲、TGO/NOMAD、水氷、核生成
地球の中間圏では、高度80〜90kmの低温領域(-130℃以下)で中間圏雲が頻繁に観測される。この氷粒子の生成には、2つのメカニズムが提案されている。一つは、水蒸気から凝結核が生成される均質核生成である。もうひとつは、大気中の不純物が核となって相変化を起こす不均質核生成である。最新の理論研究により、地球の中間圏雲の核生成では、観測条件と比較することにより、不均質核生成が卓越し、均質核生成はほとんど生じないであろうという結果が得られた(Tanaka et al., 2022; https://doi.org/10.5194/acp-22-5639-2022)。この理論は他の惑星大気の雲形成にも適用しうる。火星においても、地球同様に中間圏雲が観測されているが、未解明な点が多く存在する。特に核生成に関する研究は、古典論的モデルを適用した下層雲に関する理論研究(Määttänen et al., 2005)に留まり、中間圏雲に関する研究は皆無である。ただし、核生成は雲形成において非常に重要な過程であるためその詳細な理解が求められる。本研究は、火星探査衛星ExoMars Trace Gas Orbiter (TGO)によって得られた中間圏雲観測結果とTanaka et al.(2022)の手法を火星に適用した理論結果を比較し、火星中間圏雲の核生成メカニズムを明らかにすることを目的としている。
我々はこの目的のために、火星探査衛星TGO搭載分光計Nadir and Occultation for MArs Discovery(NOMAD)の紫外可視チャンネルUVISによって得られた太陽掩蔽観測分光スペクトルを使用する。観測期間はMY(Martian Year:火星年)34の太陽経度Ls = 163°からMY36のLs = 218°まで(2018/4/22-2022/4/30)であり、観測された9249個の透過率高度プロファイルを用いた。ここでは、Streeter et al. (2021)と同様の手法で、透過率スペクトルから視線方向上の光学的厚さ(slant opacity)を導出する。水氷雲の寄与が大きいと仮定する波長320 nm付近の光学的厚さと、波長600 nm付近のダストも含む全エアロゾルの光学的厚さを比較することで、水氷雲とダストの区別を試みる。320 nmにおける光学的厚さが高度40〜100 kmにおいて0.01以上、320 nmと600 nmの光学的厚さ比が1.5以上であるという条件で水氷雲の有無を判定する。背景大気場の大気密度、ダスト密度、大気温度と冷却率、ダスト粒径サイズ、水蒸気圧を大気大循環数値モデルMars Climate Database (MCD)から導出し、Tanaka et al. (2022)の理論に当てはめることで均質・不均質核生成の可能性を検討する。
上述した閾値に従うと、9249個中966個の高度分布(各火星年における内訳MY 34で152個, MY 35で615個, MY 36で199個)で火星中間圏水氷雲が検出された。966データのうち140 Kと150 Kそれぞれに対応する飽和水蒸気圧でデータ選定を行い、140 K付近の9個(MY 34で1個, MY 35で1個, MY 36で7個)、150K付近の49個(MY34で0個, MY35で29個, MY36で20個)のデータについて、理論結果との比較を行った。その結果、雲発生時の背景大気温度が150 Kの時は、地球同様、不均質核生成が卓越し、均質核生成はほとんど生じないであろうという結果が示唆された。一方、140 Kの時は高度70 km以上において均質核生成が起こりうることが示され、非常に興味深い。今後、ダスト密度とダストの粒径を同装置の観測データから導出した結果を用いて解析するなど、より現実に即した背景大気条件を用いた解析を行うことで、地球では見られないが火星では示唆される均質核生成に着目して生じうる大気条件を明らかにしていく必要がある。
我々はこの目的のために、火星探査衛星TGO搭載分光計Nadir and Occultation for MArs Discovery(NOMAD)の紫外可視チャンネルUVISによって得られた太陽掩蔽観測分光スペクトルを使用する。観測期間はMY(Martian Year:火星年)34の太陽経度Ls = 163°からMY36のLs = 218°まで(2018/4/22-2022/4/30)であり、観測された9249個の透過率高度プロファイルを用いた。ここでは、Streeter et al. (2021)と同様の手法で、透過率スペクトルから視線方向上の光学的厚さ(slant opacity)を導出する。水氷雲の寄与が大きいと仮定する波長320 nm付近の光学的厚さと、波長600 nm付近のダストも含む全エアロゾルの光学的厚さを比較することで、水氷雲とダストの区別を試みる。320 nmにおける光学的厚さが高度40〜100 kmにおいて0.01以上、320 nmと600 nmの光学的厚さ比が1.5以上であるという条件で水氷雲の有無を判定する。背景大気場の大気密度、ダスト密度、大気温度と冷却率、ダスト粒径サイズ、水蒸気圧を大気大循環数値モデルMars Climate Database (MCD)から導出し、Tanaka et al. (2022)の理論に当てはめることで均質・不均質核生成の可能性を検討する。
上述した閾値に従うと、9249個中966個の高度分布(各火星年における内訳MY 34で152個, MY 35で615個, MY 36で199個)で火星中間圏水氷雲が検出された。966データのうち140 Kと150 Kそれぞれに対応する飽和水蒸気圧でデータ選定を行い、140 K付近の9個(MY 34で1個, MY 35で1個, MY 36で7個)、150K付近の49個(MY34で0個, MY35で29個, MY36で20個)のデータについて、理論結果との比較を行った。その結果、雲発生時の背景大気温度が150 Kの時は、地球同様、不均質核生成が卓越し、均質核生成はほとんど生じないであろうという結果が示唆された。一方、140 Kの時は高度70 km以上において均質核生成が起こりうることが示され、非常に興味深い。今後、ダスト密度とダストの粒径を同装置の観測データから導出した結果を用いて解析するなど、より現実に即した背景大気条件を用いた解析を行うことで、地球では見られないが火星では示唆される均質核生成に着目して生じうる大気条件を明らかにしていく必要がある。