日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG21] 惑星大気圏・電磁圏

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:前澤 裕之(大阪公立大学大学院理学研究科物理学専攻 宇宙・高エネルギー物理学講座)、寺田 直樹(東北大学大学院理学研究科)、関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

17:15 〜 18:45

[PCG21-P02] 3次元磁気流体力学シミュレーションを用いた土星風及び太陽風によるタイタン大気散逸過程の比較

*高田 亮馬1木村 智樹1堺 正太朗2前田 優樹3中田 英太朗4草野 百合1徳重 みなみ1寺田 直樹5 (1.東京理科大学、2.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻、3.東京大学大気海洋研究所、4.北海道大学、5.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:タイタン、大気散逸、土星

土星の衛星タイタンは、太陽系惑星の衛星の中で唯一豊富な表面で1気圧の大気を持つ。タイタン大気の組成は、酸素が増え始める直前の過去地球の窒素大気のそれと類似している(窒素:94%、メタン:5%、水素:1% Magee et al,2009)。タイタン大気の進化過程を明らかにできれば、過去地球の大気進化の解明に寄与すると考えられる。特にイオンピックアップやスパッタリング等によって駆動される非熱的散逸過程は、大気粒子へのエネルギー付与率がEUVによるものよりも上層大気で優位であることが示唆されている(Micheal et al,2005)ため、大気進化解明の上で重要である。タイタンは通常、土星磁気圏内に位置し磁気圏プラズマ中の主に酸素イオンO+(以下、土星風)に吹き付けられている。しかし太陽風動圧が強くなると磁気圏が縮小し、タイタンが土星磁気圏界面の外に出てしまい(Bertucci et al,2008)、大気は太陽風H+の影響を大きく受けるはずである。土星風や太陽風といった外部プラズマ流による非熱的散逸の全容を解明するには、断片的な探査機観測では困難であるため、数値シミュレーションによる再現が観測と併用されてきた(Modolo et al,2008、Strobel,2009、H.Gu et al,2019)。しかし先行研究では、水素について非熱的散逸の取り扱いがなく、また土星風と太陽風を同じ手法で扱っていないため、2つの外部プラズマ流に対する散逸率の相違点等の総合的な議論はなされていない。
そこで本研究は、3次元多成分イオンMHDシミュレーション(Terada et al,2009)を用いて、大気の主成分である窒素と水素について非熱的散逸を全球的に模擬し、太陽風と土星風による散逸率の評価を初めて行った。カッシーニのその場観測データをもとに、土星風条件を密度0.2[/cm3]、速度120[km/s]、磁場強度7.0[nT](Sitter et al,2009)として散逸率を見積もった結果、土星風の場合散逸率が、窒素系イオン:2.4×1023[/s]、水素系イオン:4.3×1023[/s]であった。一方、太陽風条件を密度0.35[/cm3]、速度360[km/s]、磁場強度0.5[nT](Bertucci et al,2015)として、散逸率を見積もった結果、窒素系イオン:1.4×1023[/s]、水素系イオン:8.5×1024[/s]となった。これらの結果から、土星風は太陽風に比べて水素系イオンの散逸を抑制し、窒素系イオンの散逸を促進させることがわかった。これは土星風と太陽風がタイタン大気の水素の存在率を制御することを示唆しており、土星風はより水素が豊富な還元型の大気組成を促進し、太陽風は酸化を促進する働きがあると考えられる。
本研究ではタイタン大気の主要成分である窒素、水素について非熱的散逸の合計散逸率を推定したが、今後は、各イオン種の散逸率の定量評価や散逸のメカニズムについて精査していく予定である。本発表では、上記の現状を報告する。