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[PCG21-P04] 木星のオーロラと衛星イオ火山活動観測のための近赤外高分散エシェル分光器ESPRITの開発
キーワード:イオ、木星オーロラ、エシェルグレーティング、分光器
太陽系最大の巨大惑星木星では、イオ火山を起源とするプラズマが共回転型磁気圏で加速され、電離圏-熱圏結合を通じて極域オーロラ発光を引き起こす。そのため、木星オーロラとイオからのプラズマ供給、ならびに木星磁気圏でのプラズマ輸送との関係を知ることは、木星磁気圏変動現象の理解に本質的である。東北大学では、ハワイ・ハレアカラ山頂観測所(3,055 m)に持つ口径60㎝の惑星専有望遠鏡T60や現在東北大学が共同開発中の1.8m軸外し望遠鏡PLANETSへの搭載を目的として近赤外分光装置ESPRITの開発を進めてきた。ESPRITは、エシェル分光器(波長分解能〜20,000)であり、1-4µmの広波長範囲をカバーする。ハレアカラT60望遠鏡(F12)に取り付けた場合、プレートスケールは0.3”/pix, スリット長は50”である。この広視野スリットと波長分解能により、南北半球のH3+オーロラ発光を同時に捉え、ドップラー速度を導出する。エシェル回折格子はNewport #53*453(ブレーズ角71度、溝31.6/mm、有効サイズW=130mm×D=23mm)である。真空チャンバ内には、レイセオン社InSb256x256アレー検出器(冷却温度30-35K)、コリメーター-カメラミラー、2段フィルターターレット機構(16ポジション、オーダーソーター含む)、スリット交換機構、画像-分光切り替え機構、グレーティング角度調整機構が設置されている。この機構は、グレーティング角度調整機構に使用するピコモーター以外は真空冷却下で動作するステッピングモーターを使用する。グレーティング角度調整用のピコモーターは要求仕様のために冷却部外に断熱して設置され、ヒーターで常温を保つ。このグレーティング角度調整機構により、入射光に対するエシェルの角度を60度から75度まで変えることができる。この角度安定に要求される精度は、観測対象(木星オーロラ)のドップラー速度の測定精度(±0.5km RMS)により決定され、絶対繰返し精度0.4度以下、安定度1”以下(露出時間5分を仮定)である。この際のプッシュ/プル方向の物理的長さの安定度10μmは1/10ピクセルのプレートスケールに相当する3μmである。また、真空チャンバ外には、スリットビューワーカメラと波長校正用ガスランプ、および強度校正用黒体炉が搭載される。装置の寸法は~800x500x400 mm、重さは約150kgである。これまでの開発(Kambara, 2020, 修士論文)等により真空冷却試験がなされ、ラジエーションシールド(90K)、検出器ボックス(30K)ともに十分冷却することが確認されている。また、検出器ならびに駆動回路は、我々研究チームが別に開発し、既に北大名寄天文台で観測実証済みの近赤外カメラTOPICSと同じ設計・構造である。本発表は、ESPRITの機構部(フィルターターレット、スリット交換、画像-分光切り替え、グレーティング角度調整)の動作試験結果を報告する。まず、常温大気環境下で機構部の動作試験を実施し、すべての正常動作を確認した。特にグレーティング角度調整機構については絶対繰り返し精度が0.06度以下、安定度が、5分間で2.4μm(プレートスケール)以内であることが確認された。この後、真空冷却試験下での機構部動作試験を実施した。この結果、全ての機構部が正常に動作し、ステッピングモーターによる機構部の移動量が、常温動作時と1%以内の精度で一致することを確認した。今後、TOPICSのInSbアレー検出器ならびに駆動回路を移設して電気試験と撮像試験、ならびに校正光源とスリットビューワーの設置を行う。木星の衝である2024年11月の前にハレアカラ望遠鏡に取り付けて木星観測を行う予定である。