09:15 〜 09:30
[PCG22-02] 炭素質隕石DOM08006のその場分析によるプレソーラー酸化物存在度とマトリクス組織依存性の決定
キーワード:プレソーラー粒子、酸化物、コンドライト隕石、TEM分析、アルミナ
プレソーラー粒子は始原的隕石や惑星間塵などで見つかる非常に大きな同位体異常を示す粒子で,太陽系形成以前の情報が記録されていると考えられる.プレソーラー粒子の同位体比から起源天体を,化学組成や結晶構造から粒子形成時の環境やその後の過程を推定できる他,変成した隕石にはプレソーラー粒子がほぼ見られないことからプレソーラー粒子は隕石母天体の始原性の指標にもなる[1, 2].プレソーラー酸化物の多くは隕石の酸処理残渣の分析により発見されており,ほとんどは結晶質コランダム(α-Al2O3)である[3].一方,主要な起源天体であるAGB星の赤外スペクトル観測により,ダスト粒子としては結晶質のAl2O3の他に非晶質のAl2O3が多く存在することが知られている[4].これは,酸処理残渣による分析では非晶質あるいは結晶性の低い粒子が見逃されている可能性を示唆するが,隕石のその場分析におけるプレソーラー酸化物の存在割合は高々数十ppmであるため[5],研究は限定的である.本研究は,プレソーラー酸化物と星周ダストの関係を明らかにすることを目指し,存在度の低いプレソーラー酸化物のその場分析での効率的な同定方法を確立し,同定したプレソーラー酸化物の化学組成や結晶性を含めたミクロな構造の分析をおこなう.
始原的な炭素質コンドライト隕石であるDOM 08006 (CO3.00) 薄片のマトリクスについて,二次電子像 (JEOL JSM-7000F) を用いて空隙の多さと構成粒子サイズにより組織を4種類に分類した.また,SEM-EDS (JEOL JSM-7000F,HITACHI HT-SU6600) を用いて元素の組成MAPを作成した.これらに基づき,サブミクロンの大きさのAlに富む粒子を含む,異なる組織のマトリクスに対してCAMECA NanoSIMS 50 (東京大学大気海洋研究所)およびCAMECA NanoSIMS 50L (東京大学農学部)をもちいて同位体測定をおこなった.1辺10 μmの領域に対しCs+イオンビーム(〜0.9 pA)を照射して二次イオン(16O,17O,18O,12C2,12C13C,28Si,27Al16O)を測定し,同時に二次電子像も取得した.これをL’IMAGE ソフトウェアを用いて解析した [6].酸素同位体マップを作成し,17O/16O比あるいは 18O/16O比が太陽系物質の値と有意に異なるもの(ポアソン分布に基づくσ値が4以上)をプレソーラー粒子として同定した.同定したプレソーラー粒子のうちいくつかについてはFIB (FEI Versa3D Dualbeam) で切り出し,TEM分析 (JEOL JEM-2800) をおこない,化学組成や結晶構造を決定した.
マトリクス領域7500 μm2を分析した結果,4個のプレソーラー酸化物と20個のプレソーラー珪酸塩を同定した(Extreme Group 1が1個,Group 1が18個,Group 3が2個,Group 4が3個).マトリクスの組織別に見ると,空隙がほとんどなく粒界の見分けがつかない細粒領域においてプレソーラー粒子の存在度が約270 ppmと,先行研究[6]と比べても高い値になった.一方,空隙あるいは1μm程度の粗粒粒子を含む領域のプレソーラー粒子存在度は約90 ppmと低く,プレソーラー粒子存在度の組織依存性が明らかとなった.また,今回組成分析をその場分析に先立っておこなうことで,炭素質コンドライトのマトリクスにおける酸化物のプレソーラー粒子割合がおよそ3%と求まった.これは,普通コンドライトの酸処理残渣中のアルミナにおけるプレソーラー粒子割合と近く[3],マトリクス中の難揮発性酸化物中のプレソーラー粒子割合は隕石によらず数%と高い可能性を示唆する.プレソーラー酸化物のうち1つをFIB-TEM分析したところスピネルを含んだγ-アルミナの結晶であることがわかった.発表では,Alに富むプレソーラー酸化物の結晶性を決定する為,他のプレソーラー酸化物の結晶構造分析結果に関しても紹介する.
(参考文献)
[1] Nittler L. R. and Ciesla F. (2016) ARAA 54, 53. [2] Floss C., and Haenecour P. (2016) GJ 50, 3. [3] Takigawa A., et al. (2014) GCA 124, 309. [4] Takigawa A., et al. (2019) ApJL 878, L7. [5] Zinner, E. (2014) Treatise on Geochemistry (2nd Ed.) 1, 181. [6] Nittler L. R., et al. (2018) GCA 226, 107.
始原的な炭素質コンドライト隕石であるDOM 08006 (CO3.00) 薄片のマトリクスについて,二次電子像 (JEOL JSM-7000F) を用いて空隙の多さと構成粒子サイズにより組織を4種類に分類した.また,SEM-EDS (JEOL JSM-7000F,HITACHI HT-SU6600) を用いて元素の組成MAPを作成した.これらに基づき,サブミクロンの大きさのAlに富む粒子を含む,異なる組織のマトリクスに対してCAMECA NanoSIMS 50 (東京大学大気海洋研究所)およびCAMECA NanoSIMS 50L (東京大学農学部)をもちいて同位体測定をおこなった.1辺10 μmの領域に対しCs+イオンビーム(〜0.9 pA)を照射して二次イオン(16O,17O,18O,12C2,12C13C,28Si,27Al16O)を測定し,同時に二次電子像も取得した.これをL’IMAGE ソフトウェアを用いて解析した [6].酸素同位体マップを作成し,17O/16O比あるいは 18O/16O比が太陽系物質の値と有意に異なるもの(ポアソン分布に基づくσ値が4以上)をプレソーラー粒子として同定した.同定したプレソーラー粒子のうちいくつかについてはFIB (FEI Versa3D Dualbeam) で切り出し,TEM分析 (JEOL JEM-2800) をおこない,化学組成や結晶構造を決定した.
マトリクス領域7500 μm2を分析した結果,4個のプレソーラー酸化物と20個のプレソーラー珪酸塩を同定した(Extreme Group 1が1個,Group 1が18個,Group 3が2個,Group 4が3個).マトリクスの組織別に見ると,空隙がほとんどなく粒界の見分けがつかない細粒領域においてプレソーラー粒子の存在度が約270 ppmと,先行研究[6]と比べても高い値になった.一方,空隙あるいは1μm程度の粗粒粒子を含む領域のプレソーラー粒子存在度は約90 ppmと低く,プレソーラー粒子存在度の組織依存性が明らかとなった.また,今回組成分析をその場分析に先立っておこなうことで,炭素質コンドライトのマトリクスにおける酸化物のプレソーラー粒子割合がおよそ3%と求まった.これは,普通コンドライトの酸処理残渣中のアルミナにおけるプレソーラー粒子割合と近く[3],マトリクス中の難揮発性酸化物中のプレソーラー粒子割合は隕石によらず数%と高い可能性を示唆する.プレソーラー酸化物のうち1つをFIB-TEM分析したところスピネルを含んだγ-アルミナの結晶であることがわかった.発表では,Alに富むプレソーラー酸化物の結晶性を決定する為,他のプレソーラー酸化物の結晶構造分析結果に関しても紹介する.
(参考文献)
[1] Nittler L. R. and Ciesla F. (2016) ARAA 54, 53. [2] Floss C., and Haenecour P. (2016) GJ 50, 3. [3] Takigawa A., et al. (2014) GCA 124, 309. [4] Takigawa A., et al. (2019) ApJL 878, L7. [5] Zinner, E. (2014) Treatise on Geochemistry (2nd Ed.) 1, 181. [6] Nittler L. R., et al. (2018) GCA 226, 107.
