日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG22] 宇宙における物質の形成と進化

2024年5月27日(月) 10:45 〜 12:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:野村 英子(国立天文台 科学研究部)、大坪 貴文(産業医科大学)、瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、座長:落合 葉子(東京工業大学)、吉田 有宏(総合研究大学院大学物理科学研究科天文科学専攻)


11:30 〜 11:45

[PCG22-10] 原始惑星系円盤における12CN/13CN比の初測定─円盤ガス炭素同位体比の複雑性

*吉田 有宏1,2野村 英子1,2古家 健次1、Richard Teague3、Charles Law4塚越 崇10Seokho Lee5、Christian Rab6,7、Karin Öberg8、Ryan Loomis9 (1.国立天文台、2.総合研究大学院大学 物理科学研究科 天文科学専攻、3.マサチューセッツ工科大学、4.バージニア大学、5.韓国天文研究院、6.ミュンヘン大学、7.マックス・プランク地球外物理学研究所、8.ハーバード・スミソニアン天体物理学センター、9.アメリカ国立電波天文台、10.足利大学)

キーワード:炭素同位体組成、原始惑星系円盤、惑星形成、アルマ望遠鏡

分子雲から惑星系へと至る物質の形成・進化過程を探る上で、惑星形成の現場である原始惑星系円盤中に存在する物質の同位体組成を測定することには大きな意義がある。特に、宇宙で最も豊富な重元素の一つである炭素の同位体組成は興味深い。実際、近年の天文観測によれば、最もメジャーな炭素含有分子である一酸化炭素分子の同位体比12CO/13COは星間空間、系外惑星大気、原始惑星系円盤でそれぞれ違う値を示す可能性があることが示唆されている。この炭素同位体分別プロセスを理解するためには、各進化段階においてさまざまな炭素含有分子の同位体比を測定することが有用である。

本研究では、T Tauri型星TW Hya周りの原始惑星系円盤に注目する。TW Hya円盤では、これまでに、HCNとCO分子ガスの炭素同位体比がALMA望遠鏡を用いて測定され、H12CN/H13CN=86±4, 12C18O/13C18O=40+9-6, 12CO/13CO=21+-5の値が得られており、星間空間での値12C/13C=69+-6と比較して、COは13Cに富んでいる一方、HCNは13Cに乏しいことがわかっている。この原因としては、炭素-酸素比(C/O)が1よりも大きい環境下で進行するCOとC+の間での同位体交換反応が挙げられていた。

今回、我々は、ALMA望遠鏡アーカイブデータを採掘し、TW Hya円盤において13CN N=2-1の超微細構造遷移線が検出されていることを発見した。この観測空間分解能は0.5秒角(30 au)程度であり、原始惑星系円盤においては初めてとなる空間分解された13CN分子放射の画像を得ることができた。さらに、すでに検出が報告されている12CN輝線と合わせて非局所熱力学平衡モデリングを行い、12CNと13CNの柱密度、水素分子ガス密度、力学的温度の空間分布に制約を与えることに成功した。水素分子ガス密度は(4-10)x107 cm-3程度で、これはCN分布が円盤表層に存在することを示唆する。12CN/13CN比は中心星から30-80 auの領域で70+9-6であった。これは星間空間の12C/13C比と一致しているものの、HCNやCOの炭素同位体比とは異なっている。

これらの結果のシンプルな解釈は難しい。まず、今回の解析と先行研究の比較からは、円盤気相中における炭素の主要なリザバーはCO分子であるとわかったが、これは気相のC/Oが1以下であり、CO-C+間の同位体交換反応により12CO/13CO比を変化させる効率が悪いことを意味する。したがって、円盤化学進化の過程で、徐々に12Cが固相へと選択的に取り込まれる、というような時間積分を考慮したシナリオを考える必要がある。加えて、分子によって放射領域の円盤中心面からの高さが異なるため、同位体比が円盤高さ方向に変化している可能性もある。いずれにせよ、本研究は、原始惑星系円盤において、複雑な炭素同位体分別が進行し得ることを示唆する。