日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM13] Dynamics of the Inner Magnetospheric System

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:桂華 邦裕(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、三好 由純(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、Sarris E Sarris(Democritus University of Thrace)、Thomas G Thomas(Dartmouth College)


17:15 〜 18:45

[PEM13-P07] 高エネルギー粒子降下による南極昭和基地上空での中間圏オゾン濃度変動

*鈴木 ひかる1土屋 史紀1水野 亮2村田 功1笠羽 康正1長浜 智生2、後藤 宏文2 (1.東北大学、2.名古屋大学)

キーワード:オゾン、中間圏、高エネルギー粒子降り込み

地球極域では、太陽フレアやコロナ質量放出に伴う太陽高エネルギー粒子の発生や、磁気嵐に伴う磁気圏内の高エネルギー電子の散乱などによって、高エネルギー粒子の大気への降り込みが起こる。これらが引き起こす大気分子のイオン化反応の結果、中間圏で窒素酸化物や水素酸化物が生成され、それらはオゾン(O3)を破壊する要因となると言われている。これを観測によって明らかにするため、名古屋大学では、南極昭和基地にミリ波分光放射計を設置し、2012年から一酸化窒素(NO)とO3の線スペクトル長期観測を開始し、2022年からは230GHz帯の一酸化炭素(CO)輝線、250GHz帯の2本のO3輝線、6本のNO輝線の同時観測が可能となった。本研究の目的は高エネルギー粒子の降込に伴う中間圏オゾン濃度減少を観測により明らかにする事である。現在、今季の太陽活動上昇期の昭和基地の観測データを用いて、高エネルギー粒子降込みによるO3濃度減少について定量的に検討中である。ミリ波分光放射計が観測するスペクトルは、地表から熱圏下部の高度に渡るO3放射の積分である。このため、放射スペクトルから高度分布の導出処理を行い、中間圏でのO3体積混合比(VMR)を定量的に推定する。本講演では、この準備として行った、名古屋大学で開発されたリトリーバルツールの調整と検証の結果を報告する。リトリーバルでは、初期推定値にMLS衛星が得たO3高度分布を与えNASA-JPL の分子分光カタログとMERRA2の気象場鉛直プロファイルデータを用いて、観測スペクトルと最も合致するモデルスペクトルからO3VMRの鉛直分布を推定する。O3の高度分布は日照の影響を受けるため、初期推定値は、日の出から日の入りまでの時間帯では昼用、日の入りから日の出までの時間帯では夜用を切り替えて使用する。リトリーバルに用いる分光スペクトルは1時間積分値であり、天候によって光学的厚さの時間変動が大きい日時の観測は解析対象から除外する。2022年7月から2023年1月のデータを用いた検証の結果、以下の2点が確認された。(1)O3VMR鉛直分布の日周変動: 中間圏高度で夜間の増加と昼間の減少を確認した。増減が生じる時間帯は、季節による日照時間の変化に対応していた。昼間の減少は太陽紫外線の光化学反応によるO3破壊で説明ができる。中間圏のVMRは初期推定値の昼値・夜値の選択により6%前後の相違が確認された。日の出、日の入りを跨いで変動解析を行う場合は注意を要する。(2)中間圏のO3VMRは数ppm程度と指定された。中間圏高度の放射スペクトルは圧力広がりが小さいため、精度の良い導出には、line center近傍の観測スペクトルがモデルスペクトルで良く再現される必要がある。観測とモデルスペクトル間のline center周波数のズレを補うべく数パターンの調整を試みたが、中間圏O3VMRの推定値は最大で2%程度しか変化しないことを確認した。本講演では、太陽プロトンイベントや磁気嵐発生時のO3濃度変動の解析を進め、それについて報告する予定である。