日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM15] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

17:15 〜 18:45

[PEM15-P13] 短波ドップラー観測を用いたスポラディック E 移動特性の研究

*齋藤 龍之介1細川 敬祐1 (1.電気通信大学)

キーワード:スポラディック E 層、HFドップラー

スポラディックE(Es)層は、主として夏季の中緯度の高度100 km付近に発生する電子密度が極端に増大した層である。Es層の発生に伴う電子密度の増大によって、通常は電離圏を突き抜けるVHF帯の電波が反射されてしまうことから、電離圏に浅く入射した電波の長距離異常伝搬を引き起こすことが知られている。Es層は、VHF帯を使う航空機の制御システムやラジオ放送に影響を及ぼすことから、MUレーダーやGPS-TECなど様々な観測手法を用いて半世紀以上にわたって研究されてきた。しかし、MUレーダーなどの干渉性散乱レーダーは観測範囲が限られている。GPS-TECでは広域的な観測ができるものの、Esそのものを直接的に観測することはできない。
そこで、本研究では、Esの広域的かつ直接的な観測を実現するために短波ドップラー観測(HF Doppler: HFD)を用いた解析を行った。HFD観測は、電離圏に向けて短波帯の電波を送信し、その反射波を遠隔地で受信したときに得られるドップラー周波数や受信電界強度の変化から、電離圏の上下動や電離圏現象の移動特性をリモートセンシングするシステムである。我々が運用しているHFD観測システムでは、東京都調布市から5.006 MHz、8.006 MHzの2周波の連続波を送信し、全国11箇所で受信している。また、千葉県長生郡長柄町から3.925 MHz、6.055 MHz で送信されているラジオ NIKKEI の放送波も受信している。生の波形データは100 Hzでサンプリングされており、ドップラー周波数と受信電界強度は10秒の時間分解能で算出されている。HFDの観測において、夏季夜間のEs層の発生時にドップラーシフトがプラスからマイナスに変動する筋状の構造が準周期的に見られることが知られている。このドップラートレースが確かに高度100 km付近で反射された電波によるものであることが確認できれば、HFDを用いてEs層を広域的に観測することが可能になる。
2022年5月から6月にかけて、短波ドップラー観測を用いて夜間のEs層の観測を実施した結果、準周期的なドップラートレースを確認できた日があった。HFD観測システムの送信点上空から受信点上空までEsが直線的に伝搬したと仮定して、ドップラートレースを試算して実際の観測結果と比較した。反射高度や伝搬速度を変えて試算したところ、反射高度は100 km前後、伝搬速度は140 m/s前後である可能性が高いことが明らかになった。これは、先行研究により明らかになっているEsの特徴と一致することから、HFDを用いてEsの移動特性が観測できたといえる。