09:30 〜 09:45
[PEM16-09] 内部太陽圏探査に向けた水星探査機BepiColomboの放射線観測機器の較正手法開発


コロナ質量放出(CME)由来のプラズマや太陽高エネルギー粒子(SEP)は地球に到達すると衛星や地上インフラに悪影響を及ぼす。そのため内部太陽圏におけるこれらの伝搬過程の解明には学術的のみならず社会的な需要も大きい。しかし大きな重力ポテンシャル差が原因で太陽系内部における探査機の直接観測例は少なかった。近年では軌道工学の発展などにより水星探査機BepiColomboや太陽観測機Parker Solar Probeなど複数の探査機が同時期に内部太陽圏に展開している。これらは太陽圏の観測空白域を埋めるだけでなく、多点観測によって太陽からの噴出物の半径・動径方向の進化に迫る絶好機を提供している(Hadid et al., 2021)。
本研究では水星探査機BepiColomboに搭載されている放射線保守用機器 “Solar Particle Monitor (SPM)”のデータ較正を行っている。SPMは科学観測機器ではないが、他の粒子観測機よりも高いエネルギー帯に対応しているため、銀河宇宙線など高エネルギー粒子に関連する現象の観測に適している。しかし取得できるデータは粒子が検出器を通過する際に残す損失エネルギーとカウント数のみであるため、解析に用いるにはシミュレーションによって元の粒子の物理情報を逆算する必要がある。我々は放射線シミュレーションツール”Geant4”(Allison et al., 2016)を用いてSPMの簡易モデルを構築し、BepiColomboの地球スイングバイ時の環境をシミュレーション上で再現して実測値と比較し、モデルの正当性を検証した。地球スイングバイの日のDst指数は0 nT付近で推移しており比較的静穏な環境であったため、L値が同じであれば軌道が異なっても似た放射線環境であるとみなせる。そこでシミュレーション上で周辺環境を再現する際には「あらせ」衛星が同日に取得した放射線帯のデータのうち、BepiColomboと同じL値の場所の実測値を使用した。このシミュレーションの結果を元に、SPMモデルの外側に定義した探査機構造物由来の放射線遮蔽効果再現用のアルミニウム製箱の厚みを決定した。最後にPark et al.,(2021)の観測された粒子のエネルギースペクトルと入射したエネルギースペクトルを結ぶ逆行列を導出する手法を適用し、SPMデータから元の粒子の情報を復元する方法を確立した。発表においてはCMEの放出物が銀河宇宙線を遮蔽する現象であるForush Decreaseの解析における本手法の活用状況についても言及する予定である。
本研究により探査機に一般的に搭載されている保守用機器の科学的用途への応用可能性が示唆される。この手法を広く適用すれば、専用の機器を搭載しなくとも探査機の科学的成果の幅を広げるのみならず、太陽圏に展開する太陽観測網の拡大も期待できる。
本研究では水星探査機BepiColomboに搭載されている放射線保守用機器 “Solar Particle Monitor (SPM)”のデータ較正を行っている。SPMは科学観測機器ではないが、他の粒子観測機よりも高いエネルギー帯に対応しているため、銀河宇宙線など高エネルギー粒子に関連する現象の観測に適している。しかし取得できるデータは粒子が検出器を通過する際に残す損失エネルギーとカウント数のみであるため、解析に用いるにはシミュレーションによって元の粒子の物理情報を逆算する必要がある。我々は放射線シミュレーションツール”Geant4”(Allison et al., 2016)を用いてSPMの簡易モデルを構築し、BepiColomboの地球スイングバイ時の環境をシミュレーション上で再現して実測値と比較し、モデルの正当性を検証した。地球スイングバイの日のDst指数は0 nT付近で推移しており比較的静穏な環境であったため、L値が同じであれば軌道が異なっても似た放射線環境であるとみなせる。そこでシミュレーション上で周辺環境を再現する際には「あらせ」衛星が同日に取得した放射線帯のデータのうち、BepiColomboと同じL値の場所の実測値を使用した。このシミュレーションの結果を元に、SPMモデルの外側に定義した探査機構造物由来の放射線遮蔽効果再現用のアルミニウム製箱の厚みを決定した。最後にPark et al.,(2021)の観測された粒子のエネルギースペクトルと入射したエネルギースペクトルを結ぶ逆行列を導出する手法を適用し、SPMデータから元の粒子の情報を復元する方法を確立した。発表においてはCMEの放出物が銀河宇宙線を遮蔽する現象であるForush Decreaseの解析における本手法の活用状況についても言及する予定である。
本研究により探査機に一般的に搭載されている保守用機器の科学的用途への応用可能性が示唆される。この手法を広く適用すれば、専用の機器を搭載しなくとも探査機の科学的成果の幅を広げるのみならず、太陽圏に展開する太陽観測網の拡大も期待できる。
