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[PPS01-P09] プラズマ照射実験に基づくエウロパ内部海起源NaClの表層での結晶構造の解明

キーワード:氷衛星、エウロパ、生命、照射実験
木星の氷衛星であるエウロパは内部海を持ち、生命の存在可能性が期待されている。その内部海と表層の間では物質の輸送が示唆されている(Schubert et al. 2004)ため、表層組成の理解は内部海組成の理解につながる。しかし、表層物質は、木星磁気圏プラズマ等が照射され変性するため、内部海から輸送された直後の表層物質の組成は未解明である。内部海物質の噴出が活発であると推定される(Roth et al. 2014)カオス地形という斑点模様の地形が多く存在するタラ地域と呼ばれる場所(Doggett et al. 2009)では、450 nmと230 nmに太陽光反射スペクトルの吸収構造が観測されている(Trumbo et al. 2022)。これらは、室内実験におけるNaClへの電子照射によって発生する反射率スペクトルの吸収構造と一致しており、NaCl結晶中の格子欠陥に対応する色中心である可能性がある(Trumbo et al. 2022)。しかし、色中心による吸収の深さと照射条件の関連性は未解明な点が多く、色中心の観測からNaCl中の格子欠陥等の結晶構造を推定することは困難であり、エウロパ表層のNaClの変性の状態は推定できていない。
そこで本研究では、NaCl試料に電子を照射し複数の光学的な物質分析を適用することで、色中心の吸収構造、照射条件、結晶構造を初めて関連付けることを試みた。粉体のNaClに室温(300 K)、照射エネルギーが10 keVで8.51E+14/s/cm2のフラックスの電子を90分と5分照射し、紫外ー可視の反射スペクトルを測定したデータ(Hoshino et al. in prep.)を解析した結果、先行研究のBrown et al. (2022)の結果と異なり、230 nmの吸収は見られなかった。一方、Cerubini et al. (2022)と同様に460nm、720 nm、580 nmの吸収構造が確認された。吸収の深さと総照射量(フルエンス)の相関を調査した結果、460 nmと720 nmで正の相関が見られたが580 nmでは負の相関が確認された。580 nmの吸収はNaコロイドに相当する(Sugonyako. 2007)ため、実験結果は、総照射量が2.55E+17-4.60E+18/cm2の範囲では、2.55E+17/cm2を初期状態とすると、照射量が多いほうが結晶中のNaコロイドの生成量が減少すると解釈できる。今後は、吸収の深さとフラックス依存性について調査し、Sadgrove et al. (2022)で開発された、試料の変性を伴いにくい結晶構造分析であるカソードルミネッセンス法を用いて、照射後のNaCl試料の結晶構造を直接評価する予定である。本発表では上記の現状を報告する。
そこで本研究では、NaCl試料に電子を照射し複数の光学的な物質分析を適用することで、色中心の吸収構造、照射条件、結晶構造を初めて関連付けることを試みた。粉体のNaClに室温(300 K)、照射エネルギーが10 keVで8.51E+14/s/cm2のフラックスの電子を90分と5分照射し、紫外ー可視の反射スペクトルを測定したデータ(Hoshino et al. in prep.)を解析した結果、先行研究のBrown et al. (2022)の結果と異なり、230 nmの吸収は見られなかった。一方、Cerubini et al. (2022)と同様に460nm、720 nm、580 nmの吸収構造が確認された。吸収の深さと総照射量(フルエンス)の相関を調査した結果、460 nmと720 nmで正の相関が見られたが580 nmでは負の相関が確認された。580 nmの吸収はNaコロイドに相当する(Sugonyako. 2007)ため、実験結果は、総照射量が2.55E+17-4.60E+18/cm2の範囲では、2.55E+17/cm2を初期状態とすると、照射量が多いほうが結晶中のNaコロイドの生成量が減少すると解釈できる。今後は、吸収の深さとフラックス依存性について調査し、Sadgrove et al. (2022)で開発された、試料の変性を伴いにくい結晶構造分析であるカソードルミネッセンス法を用いて、照射後のNaCl試料の結晶構造を直接評価する予定である。本発表では上記の現状を報告する。