日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] 太陽系小天体:太陽系の形成と進化における最新成果と今後の展望

2024年5月28日(火) 10:45 〜 12:00 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:深井 稜汰(宇宙航空研究開発機構)、岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、吉田 二美(産業医科大学)、座長:岡田 達明(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

11:45 〜 12:00

[PPS03-10] 宇宙風化模擬実験に向けたレーザー照射装置の開発及び連続分光装置によるMurchison隕石スペクトル測定

*井村 政博1中原 俊平1古市 圭佑1湯本 航生1長 勇一郎1臼井 寛裕2杉田 精司1 (1.東京大学、2.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:宇宙風化、小惑星、分光観測、レーザー照射

小惑星のような大気のない天体では太陽風照射や微小隕石の衝突による表面物質の変質(宇宙風化)が起こることが知られている。こうした宇宙風化によって表面物質のスペクトルが変化するため、地下の始原的な物質の同定が困難となる。よって、宇宙風化を理解することはスペクトル観測から小惑星の組成を解釈する上で重要である。こうした重要性から多くの宇宙風化実験がなされてきた。その結果、S型小惑星や月など無水珪酸塩が主成分の天体の宇宙風化過程の理解は大きく進んだ( e.g., Sasaki et al., 2001, Brunetto et al. 2015)。その一方で、C型小惑星の宇宙風化については未解明な点が多い。炭素質コンドライトへレーザーやイオンを照射することでC型小惑星の宇宙風化を模擬し、スペクトル変化を測定した先行研究は複数あるが、その結果は実験条件により複雑に変化し(e.g. Lantz et al., 2017, Nakamura et al., 2020) 、体系的な理解は進んでいない。この問題を解決するためには、試料の種類・表面状態、レーザー照射回数・エネルギー等、多様なパラメータ条件の実験を行う必要がある。

そこで本研究では、多様な条件での実験を効率的に実施するため、パルスレーザー照射による宇宙風化模擬実験を効率化する装置を製作した。具体的には、分光光路とレーザー光路を別軸に設定し、分光装置と干渉しないようなレーザー光路を持つ計測システムを製作した。これにより、試料の取り出しや装置の組み替えなしに、1回の真空引きで多段階のレーザー照射と連続分光測定を同時に行えるようになり、実験時間の大幅短縮が実現した。
    
開発したシステムのスペクトル測定性能を検証するために、Murchison隕石を用いて多段階レーザー照射と分光計測の同時実験を行った。レーザーのエネルギー密度を変えながら実験を行うことで、照射エネルギー密度とスペクトル変化の対応を調べた。計測にあたり、新開発の連続分光計と、リュウグウ試料の初期記載に用いられた可視マルチバンド分光装置(MICOSHI)(Cho et al., 2022)の2つでスペクトルを測定することで連続分光計の測定結果の妥当性を評価した。実験には、波長1064 nm、パルス幅10 ns、照射スポット直径0.6mmのNd:YAGレーザーを用い、3.5、8.4、12mJ(1, 3, 4×109 W/cm2)の3つのエネルギー条件で照射した。測光条件は(i, e,α)=(30°, 0°, 30°)となるようにした。

一連の実験の前と後で試料を真空チャンバーから取り出してMICOSHIで計測したところ、スペクトル形状や、レーザー照射前後での相対的な変化の様子が一致していることが確認できた。得られた反射スペクトルを550 nmで規格化し、色の変化に着目すると、長波長側では赤化、短波長側では青化した。700 nmの吸収の浅化は先行研究(Thompson et al., 2020)ほど顕著に現れていないが、長波長側での赤化度は先行研究と整合的であった。多段階の照射に対するスペクトルの応答は、照射エネルギーによって異なる様相を呈した。3.5 mJの照射ではスペクトルの大きな変化は見られなかった。12 mJでは一回のレーザー照射で反射率が約20%低下し、その後のレーザー照射では反射率は大きく変動しなかった。中間的なエネルギーである8.4 mJの照射では、指数関数的にスペクトルの変化度が飽和していく様子が見られ、普通コンドライトの宇宙風化実験で得られた傾向 (Nakahara et al., 2024 JpGU)と整合的であった。この結果は、C型小惑星の表面スペクトルの進化を定量的にモデル化するにあたって有用である。
本研究で開発した装置は、Ryugu粒子やBennu粒子の宇宙風化模擬実験にも適用可能なものである。

引用文献
Brunetto, R. et al., 2015. Asteroids IV, 597-616.
Cho, Y. et al., 2022. Planetary and Space Science 221, 105549.
Lantz, C. et al., 2017. Icarus 285, 43-57.
Nakahara, S. et al., 2024. JpGU.
Nakamura, T. et al., 2020. Lunar and Planetary Science Conference, p. 1310.
Sasaki, S. et al., 2001. Nature 410, 555-557.
Thompson, M. et al., 2020. Icarus 346, 113775.