17:15 〜 18:45
[PPS04-P01] 惑星分光観測衛星ひさきを用いた金星熱圏の水素大気光変動への太陽風の影響
★招待講演

キーワード:金星、熱圏、ひさき
金星の高層大気の変動のメカニズムを知ることは、金星の大気進化・気候変動の理解に重要である。金星の熱圏上部は太陽紫外線や太陽風にさらされており、下部は下層大気から伝搬する大気波動の影響を受けているが、その変動の仕組みは完全には解明されていない。金星熱圏の酸素原子と水素原子の振る舞いは極端紫外波長で光る大気光により観測することができる。これまでひさき衛星の極端紫外光分光器により酸素原子の発光に大気波動の影響とみられる約4日周期の変動が観測されているが(Masunaga et al., 2015,2017,Nara et al.,2020)、水素原子発光の詳細な解析は行われていない。
本研究では金星近傍の太陽風・太陽紫外線放射、およびの様相金星熱圏の水素原子発光強度のデータ周期解析を行い、金星の熱圏が下層大気や太陽活動から受ける影響を調べている。具体的には、ひさき衛星の金星大気分光観測データから導出した水素原子Ly-α(121.6nm)・Ly-β(102.6nm)の大気光の明るさ、Venus Express の粒子計測器(ASPERA-4)が観測した太陽風速度、太陽風密度、および太陽風動圧、そしてFISM-P(Flare Irradiance Spectral Model for Planets)からLy-αとLy-βでの太陽紫外線放射強度を用いた。解析期間は2014年3月7日~4月3日(Period1)、2014年4月25日~5月23日(Period2)である。Period1では高速太陽風の到来があり、Period2ではないことが確認されている(Masunaga et al., 2015)。
Ly-αとLy-βそれぞれについて、大気光の明るさ、太陽紫外線放射強度、及び太陽風速度の時系列解析を行った。その結果、太陽紫外線放射強度と大気光の明るさに正の相関関係を確認した。これは大気光が主に太陽紫外放射との共鳴散乱で発光していることを示している。次に、最小二乗法で求めた回帰直線を用いて共鳴散乱による発光分を差し引く補正を行い、大気光の明るさの残差を導出した。その結果、水素大気光に±10-20%の周期的な変動成分が存在することが分かった。
ロム・スカーグル法による周期解析から、Ly-α・βの大気光の明るさにはPeriod1ではLy-αに9~10日周期が、Ly-βに7日周期が、Period2ではLy-αに14日周期が99%信頼区間内に確認された。約4日周期の変動は検出されなかった。これについては、Venus Expressによる過去の紫外線分光観測から見積もられた金星の水素密度の高度分布(Chaufray et al.,2012)を用いてLy-αでの光学的厚さを計算し、ひさきが観測した水素大気光の発光高度を推定した。その結果Ly-αは高度310㎞で光学的厚さが1になり、酸素原子の発光のピーク高度(~130㎞)よりも高高度の大気光を観測していることが分かった。これは、大気波動の効果が高度310㎞に及んでいないことを示唆する。
大気光の明るさの変動成分と、太陽風の運動量 の時系列を比較すると、Period1では、高速太陽風の到来したときに、明るさの変動成分が最小となり、その後元の明るさに戻る傾向が確認された。Period2でも同様の解析を行ったが、Period1のような変動は見られなかった。またVenus Expressで観測された誘導磁気圏界面(IBM)の高度変化の時系列を比較すると、IBM高度が低くなると下がったときにLy-αの大気光が暗く、高くなると明るくなる傾向も確認された。
これらの解析結果から、水素大気光の変動成分には太陽風が寄与していると考えられる。太陽風の到来に伴う電離圏の圧縮・膨張によってプラズマ密度が変化し、その結果、熱圏水素原子と電離圏プラズマ間の電荷交換反応が促進・抑制されることで、水素原子の量が増減したと考えられる。電荷交換反応は非熱的水素を生み出すことが知られている。本研究の結果は、金星からの水素流出機構に更なる知見を与える可能性がある。
本研究では金星近傍の太陽風・太陽紫外線放射、およびの様相金星熱圏の水素原子発光強度のデータ周期解析を行い、金星の熱圏が下層大気や太陽活動から受ける影響を調べている。具体的には、ひさき衛星の金星大気分光観測データから導出した水素原子Ly-α(121.6nm)・Ly-β(102.6nm)の大気光の明るさ、Venus Express の粒子計測器(ASPERA-4)が観測した太陽風速度、太陽風密度、および太陽風動圧、そしてFISM-P(Flare Irradiance Spectral Model for Planets)からLy-αとLy-βでの太陽紫外線放射強度を用いた。解析期間は2014年3月7日~4月3日(Period1)、2014年4月25日~5月23日(Period2)である。Period1では高速太陽風の到来があり、Period2ではないことが確認されている(Masunaga et al., 2015)。
Ly-αとLy-βそれぞれについて、大気光の明るさ、太陽紫外線放射強度、及び太陽風速度の時系列解析を行った。その結果、太陽紫外線放射強度と大気光の明るさに正の相関関係を確認した。これは大気光が主に太陽紫外放射との共鳴散乱で発光していることを示している。次に、最小二乗法で求めた回帰直線を用いて共鳴散乱による発光分を差し引く補正を行い、大気光の明るさの残差を導出した。その結果、水素大気光に±10-20%の周期的な変動成分が存在することが分かった。
ロム・スカーグル法による周期解析から、Ly-α・βの大気光の明るさにはPeriod1ではLy-αに9~10日周期が、Ly-βに7日周期が、Period2ではLy-αに14日周期が99%信頼区間内に確認された。約4日周期の変動は検出されなかった。これについては、Venus Expressによる過去の紫外線分光観測から見積もられた金星の水素密度の高度分布(Chaufray et al.,2012)を用いてLy-αでの光学的厚さを計算し、ひさきが観測した水素大気光の発光高度を推定した。その結果Ly-αは高度310㎞で光学的厚さが1になり、酸素原子の発光のピーク高度(~130㎞)よりも高高度の大気光を観測していることが分かった。これは、大気波動の効果が高度310㎞に及んでいないことを示唆する。
大気光の明るさの変動成分と、太陽風の運動量 の時系列を比較すると、Period1では、高速太陽風の到来したときに、明るさの変動成分が最小となり、その後元の明るさに戻る傾向が確認された。Period2でも同様の解析を行ったが、Period1のような変動は見られなかった。またVenus Expressで観測された誘導磁気圏界面(IBM)の高度変化の時系列を比較すると、IBM高度が低くなると下がったときにLy-αの大気光が暗く、高くなると明るくなる傾向も確認された。
これらの解析結果から、水素大気光の変動成分には太陽風が寄与していると考えられる。太陽風の到来に伴う電離圏の圧縮・膨張によってプラズマ密度が変化し、その結果、熱圏水素原子と電離圏プラズマ間の電荷交換反応が促進・抑制されることで、水素原子の量が増減したと考えられる。電荷交換反応は非熱的水素を生み出すことが知られている。本研究の結果は、金星からの水素流出機構に更なる知見を与える可能性がある。
