日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] Mercury Science and Exploration

2024年5月31日(金) 15:30 〜 16:45 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:村上 豪(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、相澤 紗絵(Institute de Recherche en Astrophysique et Planetologie)、原田 裕己(京都大学理学研究科)、鎌田 俊一(北海道大学 理学研究院)、座長:村上 豪(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、原田 裕己(京都大学理学研究科)

15:30 〜 15:45

[PPS05-06] 水星のカロリス盆地周辺の表面元素組成エンドメンバーから探るマグマ組成の多様性と進化

*平田 佳織1,2臼井 寛裕2、Caminiti Emma3、Wright Jack4、Besse Sebastien4 (1.東京大学、2.JAXA 宇宙科学研究所、3.パリ天文台 天体物理学空間計測研究室、4.欧州宇宙機関 欧州宇宙天文学センター)

キーワード:水星、元素組成、火山性平原、結晶分化

MESSENGERミッションでの表面観測から、水星の地殻の大部分は多段階にわたる火成活動によって形成されたことが明らかになり[1,2など]、表面に見られる空間不均質が内部進化を理解するための鍵であると考えられる。水星最大の地形的特徴であるカロリス盆地では、その内外にクレーターの少ない地面(平原)が見られ、周囲の衝突堆積物(イジェクタ)やクレーターを多くもつ地面とは地質的に区別されている[3,4]。可視・近赤外分光観測からは、カロリス盆地内外のスペクトルの特徴に違いがあることが明らかになっているが、その要因は未解明である[5,6]。MESSENGER探査機に搭載されたX線分光計(XRS)のデータを用いて作成された元素組成マップもカロリス盆地内外で元素組成が異なることを示唆している[7など]ものの、その空間解像度が地質・スペクトルデータに比べて極めて乏しいため、データ間の比較による包括的な理解が困難であるという問題がある。表面不均質を作り出した要因である内部プロセスを明らかにするために、本研究は、地質的背景やスペクトルの異なる地面の元素組成(エンドメンバー組成)を決定することを目的とし、カロリス盆地周辺におけるXRSの観測視野の詳細な解析を行った。

まず、スペクトル・地質ユニットに基づいてエンドメンバーユニットの空間分布を定義し、各エンドメンバーユニットにそれぞれ均質な表面元素組成を仮定した。次に、元素組成観測データをその観測視野内における異なるエンドメンバー組成の空間混合としてモデル化し、混合率として観測視野内のエンドメンバーユニットの空間占有率を算出した。最後に、最小二乗法を用いて、観測データ全体を最も良く再現するエンドメンバー組成を決定した。

5つのエンドメンバーユニット(カロリス内平原、北部平原、カロリス外平原、クレーター間平原 (IcP)、イジェクタユニット)に対応して、観測された表面元素組成を特徴づけるエンドメンバー組成が推定された。低いMg/Si比をもつと期待されたカロリス内平原は、先行研究 (0.28±0.03) [8]よりもさらに低いMg/Si比(0.18±0.09)を示した。また、カロリス外平原は、既存のスペクトルユニットマップ[5]や元素組成マップ[7]では区別し得なかった、IcPやイジェクタユニットと異なる元素組成を示した。若い火山活動と関連する3つのエンドメンバーユニットは類似した低いMg/Si比(0.4以下)を示し、先行研究の岩石溶融実験により予測された結晶分化に伴うマグマ組成進化トレンドと一致する分布を示した。これは、これらの異なる火山噴出イベントが共通のマグマソースに由来した可能性を示唆する。一方、古い地質年代に対応するIcPとイジェクタユニットは若いユニットと同一の組成トレンドと一致しない高いMg/Si比(0.5以上)を示したことから、高いMg含有量の異なるマグマソースの存在が示唆された。これらの結果から、カロリス盆地周辺の地殻形成シナリオを提案する:高MgマグマソースからIcPユニットが形成された後、カロリス盆地を形成する天体衝突が発生し、イジェクタユニットが堆積した。さらにその後に、低Mgマグマソースから、結晶分化による組成変化を伴いながらマグマ噴出が起こり、カロリス外平原、カロリス内平原を順に形成した。2つの異なるマグマソースの起源としては、異なる温度ー圧力条件を持つ共通のマントルソース、あるいは、組成の異なるマントルソースが考えられる。
参考文献 [1] Byrne (2020) Nat. Astron., 4, 321-327. [2] Vander Kaaden & McCubbin (2015) JGR:Planets, 120, 195-209. [3] Denevi et al. (2013) JGR:Planets, 118, 891-907. [4] Rothery et al. (2017) JGR:Planets, 122, 560–576. [5] Caminit et al. (2023) JGR:Planets, 128, e2022JE007685. [6] Ernst et al. (2015) Icarus, 250, 413-429. [7] Nittler et al. (2020) Icarus, 345,113716. [8] Peplowski & Stockstill‐Cahill (2019) JGR:Planets, 124, 2414-2429. [9] Namur et al. (2016) EPSL, 439, 117-128.