日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 火星と火星衛星

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)

17:15 〜 18:45

[PPS06-P07] EMARSを用いたAcidalia平原における火星ダストストーム発生時の局所的な風向・風速条件の解析

*池田 有里1黒田 剛史1鎌田 有紘1寺田 直樹1 (1.東北大学)

キーワード:火星、ダストストーム

火星においてダストストームは最も特徴的な気象現象である。ダストストームはダストの放射効果を通じて大気の熱構造や循環に大きな影響を与える(Kass et al., 2016)。また、大気中のダスト量が増加することによる視界の悪化や、地表付近に太陽光が届かなくなり太陽光発電が行えないなど、将来の有人を含む探査活動の懸念点になり得る。そのため、発生メカニズム及び条件を理解し、精度の高い発生予測を通して火星の気象予報の実現へとつなげていくことが重要である。
Battalio and Wang (2021)は、8火星年におけるMars Daily Global Mapsから105 km2以上のダストストームを追跡することで統計的な特徴を調べた。その結果、ダストストームは北半球の秋季から冬季にかけて多く発生し、特に北半球中高緯度のAcidalia平原における発生頻度が高いことがわかった。また、北半球のダストストーム発生に傾圧不安定波が影響することが示唆されている(Hinson, 2006; Hinson et al., 2012)。我々はまず特定の期間(MY*124-26, Ls*2=180-210°)と領域(Acidalia平原:40-60°N, 105°W-30°E)について解析を行い、発生前後の平均風向は北西寄りの風が顕著で、傾圧不安定波の谷から尾根への移行に伴う北寄りの風がダストストームの発生に影響している可能性を示した(池田他, 日本気象学会2023年度秋季大会)。一方でより高い精度のダストストーム発生予測を目指すにあたり、火星の風が地形と季節ごとの大気循環の影響を受けることを考慮し、場所ごとに定量的な解析を行うことが必要となる。本研究はこのことを踏まえ、発生時の風向と風速に着目し、経度6°×緯度5°の各領域における発生条件を明らかにすることを目指す。
データはMY24-32(地球の1999年から2015年に相当)の火星大気再解析(Ensemble Mars Atmosphere Reanalysis System dataset version 1.0: EMARS)データセットの東西風、南北風(Greybush et al., 2019)と、同期間のダストストーム活動をまとめたデータベース(Mars Dust Activity Database: MDAD)(Battalio and Wang, 2021)を使用し、MDADからEMARSのグリッドに相当する経度6°×緯度5°の各領域のMY24-32におけるダストストーム発生時の情報を取得、EMARSの風データを用いて発生時を含む1 sol*3の風向・風速のデータを集計した。合わせて同じ領域の同じLsにおいて発生がなかったMYの風向・風速を非発生時のデータとして集計し、両者の結果を比較することで発生条件を調べた。
再解析データが存在するMY24-32の期間においてAcidalia平原の54±2.5°N、57±3°Wの領域で発生した8件のダストストーム(北半球の春Ls=0-60°に3件、秋Ls=180-240°に3件、冬Ls=300-360°に2件)に対してこのような解析を行った結果、春に発生したダストストームの発生時の風向は、非発生時に比べて南東~南西の風が顕著であった。冬においては南西~北西の風のみで発生しており、特に西北西の風は全体の30%以上であった。また、春と秋における発生時の風速には非発生時との顕著な違いが見られなかったが、冬においては、非発生時は約60%が5-15m/sであることに対して発生時には約70%が15-25m/sであった。
発表では、事例数を増加し結果の信頼性を向上させるために領域を拡大した結果(例:経度18°×緯度15°)、これらの解析をAcidalia平原全体に拡大させた結果、及び得られた発生条件とGCM(全球気候モデル)を用いたダストストーム再現実験の結果についても示す予定である。

*1: 火星年, *2: 火星から見た太陽の黄経, *3: 火星における1太陽日

謝辞:本研究はJST創発的研究支援事業 グラント番号JPMJFR212Uの支援を受けている。