17:15 〜 18:45
[PPS06-P22] Phobosの地質異方性から示唆される表面更新と公転様式の共進化

キーワード:火星衛星、クレーターカウンティング、表面更新、公転様式
地球型惑星の衛星形成・進化理論の一般化には、比較衛星研究が必要である。月と火星衛星はいずれも潮汐ロックを受けており、惑星の重力環境において複雑な表面更新をしてきた。本研究ではフォボスの地質異方性を調査することで、表面更新と公転様式の共進化に関する描像の解明を目指す。
まず、フォボス自転軸周りの表面更新の対称性とスティックニークレーター形成に伴う影響を調査するために、5つの領域を選択した。フォボス赤道から±30° の低緯度領域について火星側(0°E)、反火星側(180°E)、先行半球側(270°E)、後行半球側(90°E) の 60°×60° 領域と、スティックニークレーター内側の計5領域についてクレーターカウントを行った。5つの領域についてクレーターサイズ頻度分布(CSFD)を求め、CSFDに見られる偏向点のうち最大のクレーター直径を「Dkink」とした。取得したCSFDデータに、単位時間・単位面積あたりのクレーター形成率に対応するCSFDモデルであるフォボスのクレーター生成関数をフィッティングすることで、直径 1km 以上のクレーター数密度を導出した。Dkink を超える直径のクレーター数密度として Nold(D>1km) [km−2] 、Dkink より小さい直径のクレーター数密度として Nyoung(D>1km) [km−2] を求めた。各正方形領域に見られるDkink から、表面更新の堆積層厚を推定した。さらに、経度90° 毎の4分球に堆積した層厚の体積を求めた。4分球それぞれへの堆積層厚の体積[km3] は4分球の面積[km2] と、同じ経度に属する正方形領域への表面更新の堆積層厚[m] の積として推定した。最後に4分球それぞれへの堆積層厚の体積の合計として、フォボス全球への表面更新堆積層厚の体積を計算した。
5領域のCSFD において、Stickney 以外の4つの正方形領域ではいずれもキンクが確認された。堆積層厚、Nyoung(D>1km)、Nold(D>1km) いずれも、先行半球側で最小、反火星側で最大を示した。フォボス全球への堆積層厚の体積は90 km3 であることが分かった。先行研究では、フォボスへの1次衝突の飛散物のうち80-95%がフォボスに再降着することが報告されている。そのため90 km3 のレゴリス堆積層は、スティックニークレーターが掘削した体積(50-120 km3) の80-95%と整合すると考えられる。この整合は、スティックニークレーターの飛散物がフォボス全球に甚大な表面更新をもたらしたことの証拠となりうる。また、Nold(D>1km) が先行半球側より後行半球側で大きいことから、スティックニークレーターの形成に伴いフォボスの潮汐ロックが外れ、経度方向に180° 回転した向きで再度潮汐ロックを受け直したことが考えられる。最後に、スティックニークレーターの飛散物の最大のフラックスがフォボスの反火星側に衝突・堆積したことが示唆される。フォボスの表面更新と公転様式の共進化シナリオとして、スティックニークレーター の形成に伴い潮汐ロックを外れ回転した期間に、現在の反火星側に対しスティック ニークレーターの飛散物の最大のフラックスが衝突・堆積したことを提案する。
まず、フォボス自転軸周りの表面更新の対称性とスティックニークレーター形成に伴う影響を調査するために、5つの領域を選択した。フォボス赤道から±30° の低緯度領域について火星側(0°E)、反火星側(180°E)、先行半球側(270°E)、後行半球側(90°E) の 60°×60° 領域と、スティックニークレーター内側の計5領域についてクレーターカウントを行った。5つの領域についてクレーターサイズ頻度分布(CSFD)を求め、CSFDに見られる偏向点のうち最大のクレーター直径を「Dkink」とした。取得したCSFDデータに、単位時間・単位面積あたりのクレーター形成率に対応するCSFDモデルであるフォボスのクレーター生成関数をフィッティングすることで、直径 1km 以上のクレーター数密度を導出した。Dkink を超える直径のクレーター数密度として Nold(D>1km) [km−2] 、Dkink より小さい直径のクレーター数密度として Nyoung(D>1km) [km−2] を求めた。各正方形領域に見られるDkink から、表面更新の堆積層厚を推定した。さらに、経度90° 毎の4分球に堆積した層厚の体積を求めた。4分球それぞれへの堆積層厚の体積[km3] は4分球の面積[km2] と、同じ経度に属する正方形領域への表面更新の堆積層厚[m] の積として推定した。最後に4分球それぞれへの堆積層厚の体積の合計として、フォボス全球への表面更新堆積層厚の体積を計算した。
5領域のCSFD において、Stickney 以外の4つの正方形領域ではいずれもキンクが確認された。堆積層厚、Nyoung(D>1km)、Nold(D>1km) いずれも、先行半球側で最小、反火星側で最大を示した。フォボス全球への堆積層厚の体積は90 km3 であることが分かった。先行研究では、フォボスへの1次衝突の飛散物のうち80-95%がフォボスに再降着することが報告されている。そのため90 km3 のレゴリス堆積層は、スティックニークレーターが掘削した体積(50-120 km3) の80-95%と整合すると考えられる。この整合は、スティックニークレーターの飛散物がフォボス全球に甚大な表面更新をもたらしたことの証拠となりうる。また、Nold(D>1km) が先行半球側より後行半球側で大きいことから、スティックニークレーターの形成に伴いフォボスの潮汐ロックが外れ、経度方向に180° 回転した向きで再度潮汐ロックを受け直したことが考えられる。最後に、スティックニークレーターの飛散物の最大のフラックスがフォボスの反火星側に衝突・堆積したことが示唆される。フォボスの表面更新と公転様式の共進化シナリオとして、スティックニークレーター の形成に伴い潮汐ロックを外れ回転した期間に、現在の反火星側に対しスティック ニークレーターの飛散物の最大のフラックスが衝突・堆積したことを提案する。