日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2024年5月31日(金) 15:30 〜 16:45 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、冨永 遼佑(東京工業大学 理学院地球惑星科学系)、座長:笹井 遥(神戸大学大学院理学研究科)、田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、冨永 遼佑(理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室)

15:30 〜 15:45

[PPS07-16] 氷天体上の高速斜め衝突により発生するクレーター内のホットスプリング

*笹井 遥1荒川 政彦1保井 みなみ1長谷川 直2 (1.神戸大学大学院理学研究科、2.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:衝突クレーター、衝突残留熱、彗星、斜め衝突、メルトプール

背景
小惑星リュウグウからのリターンサンプルの分析から, リュウグウはCIコンドライトと非常に近い関係にあることがわかった[1]. また,リターンサンプルに含まれる水に含まれるCO2ガスの発見から, リュウグウの母天体は太陽系星雲のスノーラインを越えた領域に起源を持つ可能性があることがわかった[2]. このことは, リュウグウの母天体が水の氷と揮発性物質を主成分とする氷天体である可能性を示唆している.さらに,リターンサンプルの分析では,30℃までの有機物とケイ酸塩鉱物に関連する水質変成作用の証拠が見つかった[2, 3].従って,加熱されてリュウグウ母天体の氷天体の水の氷が溶け,液体の水と有機物や他の鉱物との間で熱変成を起こした可能性がある.これまでのところ,リュウグウの母天体の熱源は26Alのような短寿命放射性元素であると広く受け入れられている[2].一方,氷天体間の高速衝突は,表面の水氷を溶かすもう一つの熱源である[4]. 衝突は残留熱をクレーター周囲に残し,その熱が水氷を温めることで,クレーターの底に温泉を形成する可能性がある.このクレーター底部に形成された一時的な温泉は,クレーターの大きさに比例してある程度の期間維持される可能性があり,クレーターの大きさと衝突残留熱の関係は,高速衝突の水質変成への寄与を調べる上で非常に重要である.
 Sasai et al., (2024) [4]では,多孔質水氷上のクレーター周辺の衝突残留温度分布の計測を行ない,その結果からクレーター底部が0℃を超えている可能性があると推測した.本研究では,氷微惑星の模擬物質である多孔質氷標的に対する衝突実験を行い,赤外線高速カメラによるクレーター底部の温度測定を行った.これにより,クレーター底部を覆う水の層の最高温度を決定した.

手法
高速衝突実験は,神戸大学と宇宙航空研究開発機構(ISAS/JAXA)の2段式軽ガス銃を用いて行った.標的の基本的な設置方法と観測システムはSasai et al., 2023[4]と同じである.多孔質氷標的の作成は直径710μm以下の氷粒子を用いて行なった.氷粒子の集合体を圧密して標的を成形しており,標的の空隙率は40%,圧縮強度は100kPaであった.標的の形状は直径10cm,高さ4cmの円柱状である.直径2mmのAl球を3.0km/s,4.2km/s,5.8km/sの速度衝突で初期温度は約-15℃の多孔質氷標的に衝突させた.Sasai et al., 2023[4]との違いは,標的表面を発射弾道に対して傾斜させ,衝突角度を45°−15°に設定した点である.さらに高速赤外線カメラにより,カメラの視線とターゲット表面のなす角が90°−60°の範囲でクレーター底面を観察した.カメラの撮影速度は,宇宙科学研究所では3000fps、露光時間は20μs、神戸大学では600fps、露光時間は1msとした.

結果
図aは高速赤外線カメラで撮影したスナップショット,図bは回収した標的に形成されたクレーターの写真で,衝突速度は6km/s,衝突角度は45°である.両画像を比較すると,図aの高温の円形領域と図bのクレーターがほぼ一致していることがわかる.クレーター底部の平均温度と底部で観測された最高温度の時間変化を調べた.衝突後0.2秒以前は放出物がクレーター底部を隠していてクレーター底部の観測を妨げていたため,衝突後0.2秒の平均温度と最高温度を代表温度として求めた.平均温度は8.1℃,最高温度は11.9℃であった.衝突角度と衝突速度が異なる全ての実験結果をすべて解析した結果,最高温度は衝突角度と衝突速度の両方に明確に依存しないことがわかった.最高温度は15℃から-1℃の間であり、データの半分は10℃以上であった。さらに、0.2秒前に45℃の温水域を発見し,その温度は0.1秒間維持した.この証拠は,温泉のような温水層がクレーター底部に形成され,維持されたことを示唆している.従って,斜め衝突によるクレーター底部に一時的な温泉が存在する可能性があり,有機物やケイ酸塩の水質変成の熱源の候補の一つになる可能性がある.

References: [1] Yokoyama, T. et al. (2022) Science, 379(6634), eabn7850. [2] Nakamura, T. et al. (2022) Science, 379(6634), eabn8671. [3] Ito, M. et al. (2022) Nature Astronomy, 6(10), 1163-1171. [4] Sasai, H. et al. (2023) Icarus, 115929.