日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、冨永 遼佑(東京工業大学 理学院地球惑星科学系)

17:15 〜 18:45

[PPS07-P07] 深いマグマオーシャン中の第一鉄不均化反応により誘起されるマントル大酸化イベントに伴う原始地球大気の酸化

*吉田 辰哉1寺田 直樹1倉本 圭2 (1.東北大学、2.北海道大学)

キーワード:原始大気、マグマオーシャン、地球、マントル酸化還元度

形成期の地球は材料物質中に含まれる揮発性物質の衝突脱ガスと同時に集積する金属鉄に富む集積物質による還元作用を経て H2 や CH4 に富む還元的原始大気を獲得したと予想される (e.g., Kuramoto and Matsui, 1996; Shaefer and Fegley, 2010; Zahnle et al., 2020).この時期に巨大衝突によって深いマグマオーシャンが形成された場合には,下部マントル圧力下で第一鉄 (Fe2+) が不均化反応によって金属鉄と強力な酸化剤である第二鉄 (Fe3+) に分かれ,金属鉄の分化とマントル対流による第二鉄の均質化を経てマグマオーシャン全体が酸化されることが指摘されている (e.g., Armstrong et al., 2019; Deng et al., 2020; Kuwahara et al., 2023).ここでマグマオーシャンと原始大気が化学平衡状態にあると仮定した場合,集積期に形成された原始大気はマントル大酸化イベントに伴い酸化され H2O や CO2 に富む酸化的組成へと急速に変化することが主張されてきた (e.g., Hirschmann, 2012; Pahlevan et al., 2019).一方で,シリケイト中の気体の拡散速度は非常に小さいことから (Zhang et al., 2010),大気とマグマオーシャン間の境界層における大気成分の拡散によって原始大気酸化が律速される可能性がある.
 そこで本研究ではシリケイト中の気体-岩石間反応拡散モデルを構築し,マントル酸化に伴う原始大気の酸化率を推定した.モデルでは還元的大気成分の代表例として H2 を取り入れ,シリケイト中の H2 と Fe3+ の拡散とそれらの酸化還元反応を考慮している.数値計算の結果,H2 の酸化率は境界層における H2 の拡散フラックスによって律速されることが明らかとなった.内部熱流量の減少により原始地殻が形成された場合には著しく H2 の拡散フラックスが減少し,原始大気の酸化はほとんど進まない.これらの結果から,初期揮発性物質量とマグマオーシャンの冷却時間によっては原始大気は上部マントルと非平衡な還元的状態を保つ可能性があることが示唆された.