日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、冨永 遼佑(東京工業大学 理学院地球惑星科学系)

17:15 〜 18:45

[PPS07-P14] 大気中で形成されるクレーター周囲の起伏構造に関する実験的研究

*澤 みゆう1荒川 政彦1保井 みなみ1白井 慶1豊田 優佳里1笹井 遥1豊嶋 遥名1 (1.神戸大学)

キーワード:衝突実験、大気、クレーター

古代の地表環境や惑星表層進化に関する我々の知識を深める上で、クレーター形成過程や衝突条件との関係への理解は重要である。太陽系の固体天体表面の衝突クレーター周辺の噴出物の形態は非常に多様であり、その外観は、地形の凹凸、衝突体や標的の空隙率・強度など、様々な衝突条件の結果であると考えられている。地球・火星・金星などの大気を持つ天体上の衝突クレーター周囲には、大気を持たない天体では見られない特徴を持つ。その成因については様々な研究が行われているが、明らかになっていないものが多い。
先行研究では、大気圧下の低速度衝突実験、あるいは真空下での高速度衝突実験は行われている[1]が、大気圧下の高速度衝突実験は行われていない。そこで本研究では、地球の大気圧に近い圧力で高速度クレーター形成実験を行い、クレーター周囲の構造変化について調べた。
衝突実験には神戸大の横型二段式軽ガス銃を用い、350Pa,0.3MPaの周囲圧力下で弾丸速度を2km/s,4m/s,5km/sと変化させて実験を行った。弾丸は直径4.7mmのポリカーボネート球で、標的は固体天体表面を模擬した粒径100µmの石英砂を用い、20°傾斜させて設置した。衝突の様子は高速カメラ2台で撮影し、一方は可視光、もう一方は密度差を可視化するシャドウグラフ法で観察を行った。形成されたクレーターは二次元変位計でクレーター直径と深さを計測した。
実験の結果、クレーター直径及びクレーター深さに対し、圧力・衝突速度に伴った変化は見られず、ほとんど同程度であった。一方で、クレーター周囲の形状の差は明らかであった。0.3MPaではクレーター周囲に波状の隆起がクレーターの中心に対して同心円状に現れ、斜面上側にはクレーターの周囲から放射状に広がる線構造も形成された。それらの構造は衝突速度が増加するにつれて、より広範囲に及んだ。真空に近い350Paではそのような隆起は形成しなかった。クレーター中心には、石英砂が圧縮された破片が斜面上側に向かってV字状に広がるように堆積し、その角度は衝突速度、周囲圧力に伴い増加した。
シャドウグラフカメラでは、空気中で弾丸や噴出物の周囲に形成される衝撃波が可視化でき、その衝撃波速度を計測した結果、時間とともに指数関数的に減衰していた。また、衝突速度4km/sと5km/sでは、衝突前に弾丸のアブレーション(蒸発)がみられた。
エジェクタカーテンは、350Paでは左右対称に近い形状であった。0.3MPaでは左右非対称で、斜面下側の角度がより大きくなった。衝突速度が増すと、エジェクタカーテン角度は斜面に対して垂直な方向に噴出する傾向がみられた。エジェクタカーテンを斜め前から観察すると、0.3MPaでのみエジェクタカーテンの斜面下側に穴が開いており、これは弾丸の加速ガスもしくは弾丸周囲の衝撃波の影響であると考えられる。そしてエジェクタカーテンの広がり方の違いが、クレーター周囲の形状の差に寄与している可能性がある。


[1] Suzuki et al. (2013), A formation mechanism for concentric ridges in ejecta surrounding impact craters in a layer of fine glass beads, Icarus 225(2013), 298-307