日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2024年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)、竹之内 惇志(京都大学)、座長:橋口 未奈子(名古屋大学)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)


11:15 〜 11:30

[PPS08-09] ガンマ線を用いた隕石母天体内部の水質変質による糖類の生成における鉱物の影響

*安部 隼平1,2、依田 功2小林 憲正1,2癸生川 陽子2 (1.横浜国立大学、2.東京工業大学)

キーワード:糖、ホルモース反応、ガンマ線、鉱物

緒言
生命の化学進化を考える上でたんぱく質の構成要素であるアミノ酸やRNA, DNAの構成要素である核酸塩基、糖類の起源を知ることは重要である。糖類はアミノ酸や核酸塩基などの生体関連物質とともに隕石中から発見されている[1,2]。したがって地球外環境で生成したこれらの生体関連有機物が隕石や彗星、星間塵によって原始の地球に運搬された可能性がある。糖類の前生物的な生成反応として、塩基性条件下でアルデヒドから糖を生じるホルモース反応が注目されており、隕石母天体内部の水質変質を模擬した同様の反応(ホルモース型反応)が進行することによって、隕石中に見られる不溶性有機物の構造に似た物質が得られる[3]ことや、出発物質にアンモニアを加えることでアミノ酸が生成する[4,5]ことが知られている。さらにアミノ酸や糖類などの形成における鉱物の影響も研究されている[6,7]。オリビン中のMg2+はルイス酸として働き、エステル化を促進すること[6]や、反応の活性化エネルギーを減少させ[7]、加熱により糖の生成に影響を及ぼすことが示唆されている[8]。
宇宙空間での糖類の生成場の一つとして、隕石母天体[2]が考えられている。ここではエネルギー源として26Alなどの放射性崩壊により生じたγ線[9]などの放射線や崩壊熱が考えられる。またホルムアルデヒドが存在していると推測され、崩壊熱による水質変質に伴ってホルモース型反応が促進された可能性がある。先行研究によって、隕石母天体での水質変質を模擬した系でのγ線によるアミノ酸の生成への影響が示唆されている[9]。
 我々はこれまで、γ線がラジカル反応を介して、ホルモース(型)反応の律速段階であるグリコールアルデヒドの生成する[10]ために、糖の生成に有効であることを示した。本研究では出発物質に鉱物であるオリビンを加え、オリビンが糖の生成へ与える影響を検証した。

実験方法
 隕石母天体内部の水質変質の模擬として、ホルムアルデヒド:メタノール:アンモニア:水:=5:0.83:1:100のモル比率で混合した溶液 (200 µL) を調整し、これに鉱物種としてオリビン3 mg, 30 mg を加えた(この混合物をFAOWと呼称)。メタノールはホルムアルデヒドの安定剤として含まれていた。これらの試料に対して、γ線照射 (60Co線源, 1.03 kGy/h x 87 h, 1.13 kGy/h x 80 h) を行い、アルドノニトリル酢酸エステル誘導体化[11]の後にガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により分析した。分析の対象は3-6炭素のアルドースとした。また対照実験としてオリビンを加えない出発物質(この混合物をFAWと呼称)を調製し、γ線照射の後に同様に分析した。

結果と考察
 FAOWではFAWよりもアルドースの総生成量が若干多い傾向にあることが確認された。特に五炭糖でその傾向が大きく、六炭糖の生成は僅かであった。ただし、オリビンの効果については現在検証中である。これまでの結果からはホルモース型反応がオリビンによって促進されたことが示唆され、六炭糖は生成の後、さらなる高分子化やメイラード反応[12]などにより別の物質に変化したことによって、その生成量が減少したと考えられる。

結論
 熱による先行研究[8]において、オリビンが触媒作用と反応に必要なpHを達成することが示唆されている。本研究においても糖の生成量が、オリビンがある場合に、オリビンがない場合よりも多くなったから、同様の働きをしたと推測される。今後実験の試行回数を増やし、定量的にオリビンの影響について検証する予定である。


参考文献
[1] Y. Furukawa et al., PNAS, 2019, 116, 24440-24445.
[2] G. Cooper et al., Nature, 2001, 414, 879-883.
[3] G. D. Cody et al., PNAS, 2011, 108, 19171-19176.
[4] T. Koga et al., Scientific reports, 2017, 7, 636.
[5] Y. Kebukawa et al., Science Advances, 2017, 3, e1602093.
[6] W. Elmasry et al., Life, 2021, 11, 32.
[7] A. Omran et al., Life, 2023, 13, 1297.
[8] V. Vinogradoff et al., Earth Planet. Sci. Lett., 2024, 626, 118558.
[9] Y. Kebukawa et al., ACS Cent. Sci., 2022, 8, 1664-1671.
[10] A. López-Islas et al., Int. J. Astrobiol., 2018, 18, 420-425.
[11] 小林 憲正他, 分析化学, 1989, 38, 608-612.
[12] V. Vinogradoff et al., Icarus., 2017, 305, 358-370.