日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)、竹之内 惇志(京都大学)、座長:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、竹之内 惇志(京都大学)


14:00 〜 14:15

[PPS08-14] コンドリュール内部の棒状カンラン石凝固組織形成過程の数値実験:蒸発による組成変化の影響

*三浦 均1森田 朋代2中村 智樹2土山 明3木村 勇気4、小山 千尋5 (1.名古屋市立大学大学院 理学研究科、2.東北大学大学院 理学研究科、3.立命館大学 総合科学技術研究機構、4.北海道大学 低温科学研究所、5.国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)

キーワード:コンドリュール、凝固組織、数値計算

始原的な隕石には,主にケイ酸塩からなるmmサイズの球粒が含まれている。これをコンドリュールといい,初期太陽系においてmmサイズまで成長した固体微粒子の集合体がなんらかのメカニズムによって加熱・溶融し,表面張力によって球形になったのち,急冷凝固したものだと考えられている。コンドリュール内部の凝固組織は,コンドリュールが経験した熱史を反映していると考えられており,凝固組織を再現しうる熱史を調べるために多くの再現実験が実施されてきた。再現実験の結果は「観測的制約条件」としてまとめられ,観測的制約条件を満足する形成プロセスを見出すことがコンドリュール研究の理論的目標であった。しかし,観測的制約条件すべてを満足する形成プロセスは提案されておらず,コンドリュールの成因に関しては現在も議論が続いている。
コンドリュールの成因が特定できていない原因のひとつとして,溶融コンドリュールの凝固過程が理論的に十分に理解されていないことが挙げられる。例えば,棒状カンラン石(barred-olivine,以後BOと略記)と呼ばれる凝固組織は,全溶融状態から急冷することで形成したと考えられている[e.g., 1]。BO組織におけるカンラン石は,平行に並んだ多数の棒状パターン(バー)と,それら全体を取り囲む球殻状パターン(リム)が,結晶学的方位を揃えて接続しているという特徴的な形状を示す。急冷する溶融コンドリュール内部において,このような特徴的な形状のカンラン石単結晶がどのように成長したのかは明らかになっていない。急冷液滴内部におけるカンラン石の結晶成長過程の数値計算も試みられている[2,3]が,単成分系を想定しており,コンドリュールのような多成分系にはそのまま適用できない。再現実験は宇宙環境を忠実に模倣できているとは限らないため,再現実験の結果を土台としてコンドリュール形成プロセスを議論するには,コンドリュール凝固過程そのものを理論的に理解することが重要である。
本研究では,コンドリュール凝固過程の理論的解明を目的として,多成分ケイ酸塩液滴内におけるカンラン石の結晶成長過程の数値計算モデルを開発した。本モデルは,定比組成化合物を扱うことが可能なMgO–FeO–SiO2三成分系定量的フェーズフィールドモデル[4]に基づく。全溶融したコンドリュール(メルト)を二次元の円とみなし(三次元の球にしなかったのは計算コストの問題である),その表面の一ヶ所にカンラン石の種結晶を配置したのち,メルト全体の温度を一定の冷却速度で低下させ,種結晶がどのように成長するか数値実験した。また,メルト表面からFeO成分が蒸発することによるメルト内部の組成変化も考慮した。その結果,リムの形成には蒸発が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。蒸発に伴う組成変化によってリキダス温度が高くなり,メルト表面付近の実効的な過冷却度が増加する。種結晶はメルト表面に沿って急速に成長し,これがリムとなる。また,リムの成長と同時に,リム側面に多数の枝が発生し,メルト内部に向かってお互いにほぼ平行を保ちつつ伸長する。これがバーとなる。枝の発生は界面不安定と呼ばれる物理機構に起因しており,成長する結晶とメルトとの間の元素分配の結果として生じたものである。今回の数値計算で示されたリムとバーの形成過程は,両者の結晶学的方位が揃っているという特徴を自然に説明できる。
我々の数値計算モデルには,カンラン石結晶の異方性やメルト表面における蒸発速度など,不定性の大きないくつかの仮定が含まれている。これらの仮定の検証は今後の課題である。だが,コンドリュール凝固過程そのものを数値的に検証できるようになった意義は大きい。今後は,メルトの冷却速度や種結晶付着のタイミングなどの条件を変えて,バーやリムの太さといった特徴がどのように変化するか調べる予定である。最終的には,観測的制約条件と対をなす「理論的制約条件」を提唱し,実験と理論の両面からコンドリュール凝固組織の形成過程およびその条件を解明することを目指す。

参考文献:[1] Rubin, E. R. et al., 2023, Meteorit. Planet. Sci. 1–15. [2] Miura, H. et al., 2010, J. Appl. Phys. 108, 114912. [3] Miura, H. et al., 2011, Earth Planets Space 63, 1087. [4] Miura, H., 2023, Materialia 31, 101860.