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[PPS08-17] FeOを含む非晶質ケイ酸塩の水蒸気との酸素同位体交換の速度論

キーワード:非晶質ケイ酸塩、ケイ酸塩ダスト、原始惑星系円盤、酸素同位体、STEM-EELS
赤外天文観測から,非晶質ケイ酸塩は原始惑星系円盤の主要なダストであることが知られている (e.g. Henning 2010).変成度の低いコンドライトのマトリックスはFeOに富む非晶質ケイ酸塩で構成されており,これらは太陽の原始惑星系円盤の始原ダストであった可能性がある (Abreu and Brearley 2010).これらのマトリックスは太陽に比べて16Oに乏しい酸素同位体組成を示し (Yurimoto et al. 2008),円盤中の16Oに乏しい水蒸気との酸素同位体交換を反映している可能性がある (Yurimoto and Kuramoto 2004).FeOを含まない非晶質ケイ酸塩の酸素同位体交換速度は決定されているが (Yamamoto et al. 2018, 2020),FeOに富む非晶質ケイ酸塩と水蒸気との間の酸素同位体交換にどのような条件が必要なのかはまだ調べられていない.本研究では,太陽系元素存在度に近い主要元素組成を持つ非晶質ケイ酸塩粒子と水蒸気との間の酸素同位体交換速度を調べた.
出発物質には,誘導熱プラズマ法で合成した非晶質Mg-Feケイ酸塩粉末を用いた (平均粒径: ~70 nm).化学組成はMg/Si ~0.96, Fe/Si ~0.92で,Fo51 のかんらん石のストイキオメトリに近い.出発物質を,H2と18Oに富むH2O (18O/(16O+18O) ~0.7) をH2/H2O ~360で混合したガスフロー中で,1.7 Pa,300–430°Cで3–436時間加熱した.酸素同位体組成は二次イオン質量分析装置 (Cameca ims-1280HR) を用いて測定し,Fe3+/ΣFe比は走査型透過電子顕微鏡(JEOL JEM-ARM200F)を用いて電子エネルギー損失分光法(EELS)により測定した.
非晶質Mg-Feケイ酸塩の酸素同位体交換反応は,非晶質Mg2SiO4やMgSiO3 (Yamamoto et al. 2018, 2020) よりも低温で効率的に進行した.加熱時間による非晶質粒子の酸素同位体組成変化は,330–350°Cで18時間まで,380–430°Cで36時間までという短い加熱時間では拡散律速反応の結果としてよく説明され,その間のFe3+/ΣFe比はほとんど出発物質の範囲内 (0–9 mol%) に留まった.一方,同位体交換反応速度は上記より加熱時間が長くなると段々遅くなり,Fe3+/ΣFe比も増加した.これは,Fe2+がネットワーク形成カチオンとして働く可能性のあるFe3+へと酸化することによって,酸素同位体交換が抑制されたことを示唆している.そこで,Fe2+がほとんど酸化されていない試料のみを用いて同位体交換反応の速度論を求めたところ,活性化エネルギーは77.5 ± 8.4 kJ/molとなり,非晶質Mg2SiO4やMgSiO3 (Yamamoto et al. 2018, 2020) より小さくなった.
原始惑星系円盤における反応温度の予測式 (Ishizaki et al. 2023) を用いて,直径0.1 μmと1 μmの非晶質Mg-Feケイ酸塩ダストの酸素同位体交換温度を見積もると,円盤の粘性パラメータαが10−3,質量降着率が10−8–10−6の場合,それぞれ410–510 Kと500–670 Kとなる.これらの温度範囲は,結晶化温度 (Sakurai et al. 2023 LPSC abstract) よりも0.1 μm粒子で~300 K,1 μm粒子で~150 K低い.また,これらの温度は同じ粒径のFeOを含まない非晶質Mgケイ酸塩ダストの酸素同位体交換 (Yamamoto et al. 2018, 2020) と比較して~200 K低い.このことは,原始惑星系円盤の内側領域において,FeOに富む非晶質ケイ酸塩ダストが円盤H2Oガスとの間で効果的に酸素同位体交換を起こすことを示唆している.
出発物質には,誘導熱プラズマ法で合成した非晶質Mg-Feケイ酸塩粉末を用いた (平均粒径: ~70 nm).化学組成はMg/Si ~0.96, Fe/Si ~0.92で,Fo51 のかんらん石のストイキオメトリに近い.出発物質を,H2と18Oに富むH2O (18O/(16O+18O) ~0.7) をH2/H2O ~360で混合したガスフロー中で,1.7 Pa,300–430°Cで3–436時間加熱した.酸素同位体組成は二次イオン質量分析装置 (Cameca ims-1280HR) を用いて測定し,Fe3+/ΣFe比は走査型透過電子顕微鏡(JEOL JEM-ARM200F)を用いて電子エネルギー損失分光法(EELS)により測定した.
非晶質Mg-Feケイ酸塩の酸素同位体交換反応は,非晶質Mg2SiO4やMgSiO3 (Yamamoto et al. 2018, 2020) よりも低温で効率的に進行した.加熱時間による非晶質粒子の酸素同位体組成変化は,330–350°Cで18時間まで,380–430°Cで36時間までという短い加熱時間では拡散律速反応の結果としてよく説明され,その間のFe3+/ΣFe比はほとんど出発物質の範囲内 (0–9 mol%) に留まった.一方,同位体交換反応速度は上記より加熱時間が長くなると段々遅くなり,Fe3+/ΣFe比も増加した.これは,Fe2+がネットワーク形成カチオンとして働く可能性のあるFe3+へと酸化することによって,酸素同位体交換が抑制されたことを示唆している.そこで,Fe2+がほとんど酸化されていない試料のみを用いて同位体交換反応の速度論を求めたところ,活性化エネルギーは77.5 ± 8.4 kJ/molとなり,非晶質Mg2SiO4やMgSiO3 (Yamamoto et al. 2018, 2020) より小さくなった.
原始惑星系円盤における反応温度の予測式 (Ishizaki et al. 2023) を用いて,直径0.1 μmと1 μmの非晶質Mg-Feケイ酸塩ダストの酸素同位体交換温度を見積もると,円盤の粘性パラメータαが10−3,質量降着率が10−8–10−6の場合,それぞれ410–510 Kと500–670 Kとなる.これらの温度範囲は,結晶化温度 (Sakurai et al. 2023 LPSC abstract) よりも0.1 μm粒子で~300 K,1 μm粒子で~150 K低い.また,これらの温度は同じ粒径のFeOを含まない非晶質Mgケイ酸塩ダストの酸素同位体交換 (Yamamoto et al. 2018, 2020) と比較して~200 K低い.このことは,原始惑星系円盤の内側領域において,FeOに富む非晶質ケイ酸塩ダストが円盤H2Oガスとの間で効果的に酸素同位体交換を起こすことを示唆している.
