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[PPS08-P18] はやぶさカテゴリー3粒子の可溶性有機化合物のその場分析
キーワード:はやぶさカテゴリー3粒子、可溶性有機物、その場分析
【はじめに】探査機「はやぶさ」のサンプルキャッチャーから回収された700個以上の粒子のうち,炭素質物質はESCuC/JAXA によってカテゴリ 3 粒子と分類された[1]。初期分析では珪酸塩粒子に付随する炭素質粒子が調査されたが,地球外起源を示す証拠は確認されなかった[2]。また,カテゴリ 3 の微粒子は,カテゴリ 3 の微粒子の分析を専門とするはやぶさサンプル予備調査チーム(HASPET-C3)により,NanoSIMS,STXM-XANES,マイクロラマン,TOF-SIMS などの複数の手法を用いて詳細に調査され[3-6],近年では,複数の装置を組み合わせたその場分析も行われた[7].これまでのところ,カテゴリー3粒子の起源として,「はやぶさ」探査機の運用前後に混入した汚染の可能性が示唆されているが,議論が続いている。本研究では,カテゴリ 3 粒子のさらなるキャラクタリゼーションとその起源解明のため,脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)技術と高分解能質量分析(HRMS)[8]を組み合わせ,カテゴリ 3 粒子に含まれる可溶性有機物(SOM)のその場分析を行った。
【試料と分析手法】本研究では,カテゴリー3の炭素質粒子RB-CV-0008 (56 µm)とRB-CV-0031 (61μm)の2粒子を分析した。各粒子は,Alスタブホルダーで固定した金プレート(t = 0.3mm)にサファイアガラスを用いて圧着された。DESI-HRMSイメージングには,2D DESIイオン源(Omni Spray Source 2D,Prosolia Inc.)を付随したオービトラップ質量分析計(Q-Exactive Plus,Thermo Fisher Scientific)を用いた。スプレー溶媒にはLC-MS グレードのメタノール100%を流速は2.5 µL/minで使用した。DESI-HRMSイメージング後,サンプルをSEM-EDSで調査した。比較のために,フッ素ゴム手袋のVECTRANとVITONの一部,さらに,市販のポリマーサンプル (アクリル,ポリカーボネート,ポリエチルベンゼン-1,4-ジカルボキシレート(PET),ナイロン-6)も同様に分析した。
【結果と考察】
粒子RB-CV-0008の表面からは,m/z 70-1000の正イオンが178個同定された。粒子RB-CV-0031は残念ながら分析中に失われた。これらのイオンの化学組成は,正確な質量を用いて割り当てられ,CHNOとCHO化合物は,数と総イオン強度の両方で豊富であった。これらのイオンの中には,±(C3H6O)n (m/z =58.0418)のユニットを含むいくつかの異なるファミリーが同定された。RB-CV-0008のDESI-HRMSイメージングとEDSスペクトルの特徴はナイロン-6と類似していた。また,DESI-HRMSイメージングで検出された正イオン中に±(C3H6O)n (m/z =58.0418) の単位を持つ同族体が存在することから,RB-CV-0008はポリエチレングリコール(PPG)に似た構造を持つことが示唆された。これらの結果から,RB-CV-0008は,「はやぶさ」探査機のサンプル容器からポリイミド樹脂の分解生成物であるポリアミドに相当する炭素質粒子,もしくは可塑剤由来のPPGとポリアミドの混合物である可能性が高い。本研究の結果は,先行研究による示唆 [e.g., 7] と一致しており,カテゴリー3粒子RB-CV-0008はサンプルチャンバーまたは実験室からの地球物質であることを示している。
【参考文献】[1] Yada et al. (2014) Meteorit. Planet. Sci. 49, 135. [2] Naraoka et al. (2012) Geochem J. 46, 61. [3] Ito et al. (2014) Earth Planets Space. 66, 91. [4] Uesugi et al., (2014) Earth Planets Space. 66, 102. [5] Yabuta et al. (2014) Earth Planets Space. 66, 156. [6] Kitajima et al. (2015) Earth Planets Space. 67, 20. [6] Naraoka et al. (2015) Earth Planets Space. 67, 67. [7] Uesugi et al. (2019) Meteorit. Planet. Sci.54, 638. [8] Hashiguchi and Naraoka (2019) Meteorit. Planet. Sci. 54, 452.
【試料と分析手法】本研究では,カテゴリー3の炭素質粒子RB-CV-0008 (56 µm)とRB-CV-0031 (61μm)の2粒子を分析した。各粒子は,Alスタブホルダーで固定した金プレート(t = 0.3mm)にサファイアガラスを用いて圧着された。DESI-HRMSイメージングには,2D DESIイオン源(Omni Spray Source 2D,Prosolia Inc.)を付随したオービトラップ質量分析計(Q-Exactive Plus,Thermo Fisher Scientific)を用いた。スプレー溶媒にはLC-MS グレードのメタノール100%を流速は2.5 µL/minで使用した。DESI-HRMSイメージング後,サンプルをSEM-EDSで調査した。比較のために,フッ素ゴム手袋のVECTRANとVITONの一部,さらに,市販のポリマーサンプル (アクリル,ポリカーボネート,ポリエチルベンゼン-1,4-ジカルボキシレート(PET),ナイロン-6)も同様に分析した。
【結果と考察】
粒子RB-CV-0008の表面からは,m/z 70-1000の正イオンが178個同定された。粒子RB-CV-0031は残念ながら分析中に失われた。これらのイオンの化学組成は,正確な質量を用いて割り当てられ,CHNOとCHO化合物は,数と総イオン強度の両方で豊富であった。これらのイオンの中には,±(C3H6O)n (m/z =58.0418)のユニットを含むいくつかの異なるファミリーが同定された。RB-CV-0008のDESI-HRMSイメージングとEDSスペクトルの特徴はナイロン-6と類似していた。また,DESI-HRMSイメージングで検出された正イオン中に±(C3H6O)n (m/z =58.0418) の単位を持つ同族体が存在することから,RB-CV-0008はポリエチレングリコール(PPG)に似た構造を持つことが示唆された。これらの結果から,RB-CV-0008は,「はやぶさ」探査機のサンプル容器からポリイミド樹脂の分解生成物であるポリアミドに相当する炭素質粒子,もしくは可塑剤由来のPPGとポリアミドの混合物である可能性が高い。本研究の結果は,先行研究による示唆 [e.g., 7] と一致しており,カテゴリー3粒子RB-CV-0008はサンプルチャンバーまたは実験室からの地球物質であることを示している。
【参考文献】[1] Yada et al. (2014) Meteorit. Planet. Sci. 49, 135. [2] Naraoka et al. (2012) Geochem J. 46, 61. [3] Ito et al. (2014) Earth Planets Space. 66, 91. [4] Uesugi et al., (2014) Earth Planets Space. 66, 102. [5] Yabuta et al. (2014) Earth Planets Space. 66, 156. [6] Kitajima et al. (2015) Earth Planets Space. 67, 20. [6] Naraoka et al. (2015) Earth Planets Space. 67, 67. [7] Uesugi et al. (2019) Meteorit. Planet. Sci.54, 638. [8] Hashiguchi and Naraoka (2019) Meteorit. Planet. Sci. 54, 452.
