日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 月の科学と探査

2024年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、仲内 悠祐(立命館大学)、小野寺 圭祐(東京大学地震研究所)、座長:三宅 洋平(神戸大学大学院システム情報学研究科)、長岡 央(立命館大学)


13:45 〜 14:00

[PPS09-11] Photoelectron dynamics and associated charging characteristics evolved on the rough surfaces of the Moon

*中園 仁1三宅 洋平1 (1.神戸大学)

キーワード:月、太陽風プラズマ、表面帯電、粒子シミュレーション、光電子

月を始めとする大気が希薄で固有磁場を持たない固体天体表面には、太陽風プラズマなどの宇宙プラズマや太陽光が直接降り注ぐ。その結果、衝突プラズマによる天体表面への電荷の蓄積や光電効果による表面からの光電子の流出により、天体表面は電荷を帯び、帯電する。このような表面の帯電は天体表面近傍の静電気環境を決定する主要因である。一般に宇宙プラズマは固体表面を負に帯電させる能力を持っており、月面を正の浮遊電位に保つためには光電効果などの電子放出過程が不可欠であると考えられてきた。実際、月探査機による軌道上観測では月昼側表面は正に帯電していることが示唆されてきた。一方、月面はクレーターや縦孔、ボルダーなどの地形から岩石・レゴリス層にいたるまで様々な空間スケールの凹凸を持つ。こうした凹凸は宇宙空間中の自由なプラズマ運動を制限し、表面形状により特有の静電気環境を作り出すことがいくつかのシミュレーション研究によって明らかにされている。
 私達はこれまでに、月面の表面形状による帯電特性の変化に関して、開口部を持つ空洞をその単純化モデルとして用い、上空から太陽風プラズマが降り注ぐ状況を想定しシミュレーションを実施した。その結果、帯電特性は空洞形状と空洞サイズの両方への依存性が示された。特に、デバイ長未満の開口部を持つ空洞においては、太陽風プラズマ流は単純な直方体空洞内に正電位を形成し、空洞の幅深さ比の増大に伴い太陽風イオン粒子の運動エネルギーと同程度の数100Vまで正に帯電させ得ることが判明した[1]。この結果は、岩石やレゴリス間等のような微小な空隙に非常に強い電場を形成し得ることを示唆しており、レゴリスの静電的飛翔の駆動や形成される電場によるプロトンの反射、空隙における絶縁破壊などの影響が考えられる。
今回私達は、こうした表面形状に依存する帯電特性に関して、光電効果によって発生する光電子がどのように寄与するのかについて焦点を当てる。一般に光電子は、表面からの負電荷の流出による正帯電への寄与と、流出した電子の表面間電場に沿った移動による電位差緩和の2つの効果を持つ。前述のイオン流による空洞内帯電は空洞内部に電場を形成するため、光電子による緩和効果に影響する。本研究は、実際の昼側月面での帯電効果を予測する上で重要な洞察を提供する。

[1] Nakazono, J., and Y. Miyake. 2023. “Unconventional Surface Charging within Deep Cavities on Airless Planetary Bodies: Particle‐in‐cell Plasma Simulations.” Journal of Geophysical Research. Planets 128 (2). https://doi.org/10.1029/2022je007589.