17:15 〜 18:45
[PPS09-P05] 月のクレータ内壁斜面における岩塊密集領域の形成モデル
★招待講演
近年の月周回衛星による探査から、月のクレータ内壁斜面で岩塊が密集して分布する岩塊密集領域が発見されている(Xiao et al., 2013など)。これは新しい地形的特徴であると考えられ、岩塊の数密度は50 Maで半減すると推定されている(Basilevski et al., 2013)にもかかわらず、約40億年前に形成されたクレータ斜面でも発見されている。なぜ古い地形で現在も岩塊がみられるのかは理解されていない。本研究では岩塊密集領域が大規模にみられるクレータ斜面で岩塊や小クレータの分布、岩塊存在度RA(Bandfield et al., 2011; 2017)、斜度や地形断面を詳しく調べ、岩塊の供給要因と岩塊の供給が斜面に与える影響を調べることを目的とした。
本研究では岩塊密集領域が多く分布しているFlamsteed crater(315.7−315.9˚E、 4.14−4.83˚S)を解析した。このクレータはエラトステネス代(約1−3 Ga)に形成された。岩塊密集領域が舌状に分布していたほか、岩塊密集領域の上部に層状の崖地形がみられ、岩塊が岩盤層から供給されている様子が見られた。斜面の岩塊密集領域は岩盤からの岩塊供給と岩塊の消滅が同時に発生し体積変化すると考えられ、両方の効果を考慮した岩塊密集領域の体積変化モデルを考えた。岩盤から岩塊供給時は体積V0の岩盤が常に斜面に露出し、そこから岩塊が供給されていると仮定する。岩塊密集領域の体積Vの時間変化は以下の式で表される。
dV(t)/dt = αV0 – βV(t)
ここでαV0は岩盤からの岩塊生成率、βVは岩塊密集領域での消滅率である。t >> 1/βでe–βt が0に収束し、岩塊密集領域の体積は一定(Vc = αV0/β)となり定常状態になる。βは岩塊の半減期から求められ、定常状態に達した岩塊密集領域のαV0はVcとβから推定できる。Vcは斜面に存在する岩塊密集領域の面積を用いて、厚さを10 mと仮定して推定した。定常状態に達するまでにかかる時間は岩塊の半減期から250 Maであった。岩盤からの岩塊供給の要因は岩盤への天体衝突と熱疲労による破砕が考えられる。10 mサイズの岩盤を一度の天体衝突で破砕し、半分の大きさの岩塊を生成するのにかかる時間は、破砕に必要な衝突物質の大きさと、その大きさの衝突物質が月のレゴリスに衝突したときに形成されるクレータサイズ、その大きさ以上のクレータの数密度より推定することができる。これらのスケーリング則から、岩盤の破砕にかかる時間はおよそ1 Gaと推定された。これは岩盤への天体衝突で生成できる岩塊の数は極めて少ないことを示し、天体衝突のみで岩塊密集領域を形成するのは難しく、熱疲労が岩塊供給の主な要因であることがわかった。熱疲労による岩盤破砕では、表皮深さ(zs)で効率よく破砕が発生し、月ではzsは約1 mと見積もられている。αV0とzsから岩盤を破砕するのにかかる時間は約1−10 Maと推定され、熱疲労による急速な岩盤破砕によって岩塊密集領域が生成されると考えられる。
以上の結果から、月のクレータ斜面では表面に露出した岩盤が熱疲労で破砕され、岩塊が斜面に供給されることで岩塊密集領域が形成されることがわかった。このプロセスはクレータの形成年代に依らないため、古いクレータでも岩盤があれば定常的に新しい岩塊が供給され新鮮な岩塊密集領域が形成されることを示している。
本研究では岩塊密集領域が多く分布しているFlamsteed crater(315.7−315.9˚E、 4.14−4.83˚S)を解析した。このクレータはエラトステネス代(約1−3 Ga)に形成された。岩塊密集領域が舌状に分布していたほか、岩塊密集領域の上部に層状の崖地形がみられ、岩塊が岩盤層から供給されている様子が見られた。斜面の岩塊密集領域は岩盤からの岩塊供給と岩塊の消滅が同時に発生し体積変化すると考えられ、両方の効果を考慮した岩塊密集領域の体積変化モデルを考えた。岩盤から岩塊供給時は体積V0の岩盤が常に斜面に露出し、そこから岩塊が供給されていると仮定する。岩塊密集領域の体積Vの時間変化は以下の式で表される。
dV(t)/dt = αV0 – βV(t)
ここでαV0は岩盤からの岩塊生成率、βVは岩塊密集領域での消滅率である。t >> 1/βでe–βt が0に収束し、岩塊密集領域の体積は一定(Vc = αV0/β)となり定常状態になる。βは岩塊の半減期から求められ、定常状態に達した岩塊密集領域のαV0はVcとβから推定できる。Vcは斜面に存在する岩塊密集領域の面積を用いて、厚さを10 mと仮定して推定した。定常状態に達するまでにかかる時間は岩塊の半減期から250 Maであった。岩盤からの岩塊供給の要因は岩盤への天体衝突と熱疲労による破砕が考えられる。10 mサイズの岩盤を一度の天体衝突で破砕し、半分の大きさの岩塊を生成するのにかかる時間は、破砕に必要な衝突物質の大きさと、その大きさの衝突物質が月のレゴリスに衝突したときに形成されるクレータサイズ、その大きさ以上のクレータの数密度より推定することができる。これらのスケーリング則から、岩盤の破砕にかかる時間はおよそ1 Gaと推定された。これは岩盤への天体衝突で生成できる岩塊の数は極めて少ないことを示し、天体衝突のみで岩塊密集領域を形成するのは難しく、熱疲労が岩塊供給の主な要因であることがわかった。熱疲労による岩盤破砕では、表皮深さ(zs)で効率よく破砕が発生し、月ではzsは約1 mと見積もられている。αV0とzsから岩盤を破砕するのにかかる時間は約1−10 Maと推定され、熱疲労による急速な岩盤破砕によって岩塊密集領域が生成されると考えられる。
以上の結果から、月のクレータ斜面では表面に露出した岩盤が熱疲労で破砕され、岩塊が斜面に供給されることで岩塊密集領域が形成されることがわかった。このプロセスはクレータの形成年代に依らないため、古いクレータでも岩盤があれば定常的に新しい岩塊が供給され新鮮な岩塊密集領域が形成されることを示している。
