17:15 〜 18:45
[PPS09-P14] パッシブレーダーによる月面地下探査手法:KAGUYA/LRSのAKR観測に基づく検討
キーワード:月、地下構造、かぐや衛星、JUICE
月面地下構造の探査は、月の成り立ちの解明につながる。月面活動において宇宙放射線から人類活動を保護する目的で地下構造の活用が注目されており、月利用の観点からも地下探査への重要性が高まっている。自然電波のエコーを利用して地下構造の観測を行う手法をパッシブレーダーと呼び、本研究では地球のオーロラとともに放射されるオーロラキロメータ放射AKRの観測を用いた地下探査を検討した。AKRの周波数は10kHz~数100kHzで、一般的なアクティブレーダー(月周回衛星KAGUYA の場合4~6MHz)より低周波であることから、深い地下構造を調べることができる可能性がある。パッシブレーダにより地下構造を探査する方法の一つは、月近傍の探査機や着陸機に搭載された電波受信機によって、AKRの直達波、月面反射波、および地下層反射波の干渉によって電波スペクトル上に生じる干渉縞を観測することである。本研究の目的は、KAGUYAに搭載された月レーダーサウンダーLRSの自然電波観測モードを用いて、(1)地下反射層の検出可能性を検討することと(2)月表層のバルク誘電率の推定を行うこと、及び(3)今後の探査におけるパッシブレーダーの実施可能性の検討である。
KAGUYA/LRSのパッシブレーダー観測による地下反射層の検出可能性を検討するため、自然電波の直達波(以下W1)、月面反射波(W2)、および地下層反射波(W3)によって生じる干渉縞のシミュレーションを行うツールを開発した。KAGUYAの軌道データから、地球方向から到来する自然電波の月面入射角を計算し、W1に対するW2とW3の光路差から干渉条件を用いて干渉縞を計算した。月面と地下構造での反射は鏡面反射とし、反射率と透過率はフレネルの公式に基づいて計算した。その結果、W1とW2による干渉縞振幅に比べて、W2とW3による干渉縞振幅は小さくなること(2dB以下)、干渉縞の振幅はAKR自体のスペクトル構造の振幅がより小さくなることが分かり、AKRを波源とした場合、地下層反射波の情報を得ることは困難との結論に至った。主な要因は、月の地下層で想定される誘電率ではフレネル反射率が低くなること、KAGUYA/LRSの周波数分解能(6kHz)の場合、干渉縞の周波数間隔がナイキストの条件を満す入射角θsが79.2°以上となる領域に限られることである。干渉縞シミュレーションから、月全球での干渉縞観測を行う場合は200Hzの周波数分解能が必要であること、周波数が低くなるほど地下層での減衰は小さく、波源が白色ノイズの場合、周波数200kHzで探査深度は10kmとなると評価された。次に、KAGUYA/LRSで観測されたW1とW2による干渉縞振幅から、月面のバルク誘電率の推定を試みた。本研究で求めた比誘電率は大きくてもε1=1.3となり、先行研究から得られている月面の比誘電率ε1=4~10に対し小さい値となった。この原因としては、月面での反射を鏡面反射と仮定していること、月面の地形による凹凸を考慮していないことが主な原因と考えられる。
開発した干渉縞シミュレーションツールを使い、月面着陸機を想定して月面の高度5mで観測した場合のスペクトルを示した。期待される干渉縞振幅は周波数400kHzにおいて2dBと見積もられた。また、2024年8月に予定されている木星探査機JUICEの月フライバイ時の干渉縞スペクトルと反射波の遅延時間を示した。近月点でW1とW2による干渉縞を観測するために必要なスペクトルの周波数分解能は600Hzであること、受信波形から直達波と月面反射波の時間差を把握するために必要な時間長は、最接近の前後10分間の観測では7.5ミリ秒、月面反射波と地下層反射波を分離するために必要な時間分解能は5.8μ秒となる事が見積もられた。JUICEに搭載されている電波受信機はこれらの分解能要求を満たしている。
KAGUYA/LRSのパッシブレーダー観測による地下反射層の検出可能性を検討するため、自然電波の直達波(以下W1)、月面反射波(W2)、および地下層反射波(W3)によって生じる干渉縞のシミュレーションを行うツールを開発した。KAGUYAの軌道データから、地球方向から到来する自然電波の月面入射角を計算し、W1に対するW2とW3の光路差から干渉条件を用いて干渉縞を計算した。月面と地下構造での反射は鏡面反射とし、反射率と透過率はフレネルの公式に基づいて計算した。その結果、W1とW2による干渉縞振幅に比べて、W2とW3による干渉縞振幅は小さくなること(2dB以下)、干渉縞の振幅はAKR自体のスペクトル構造の振幅がより小さくなることが分かり、AKRを波源とした場合、地下層反射波の情報を得ることは困難との結論に至った。主な要因は、月の地下層で想定される誘電率ではフレネル反射率が低くなること、KAGUYA/LRSの周波数分解能(6kHz)の場合、干渉縞の周波数間隔がナイキストの条件を満す入射角θsが79.2°以上となる領域に限られることである。干渉縞シミュレーションから、月全球での干渉縞観測を行う場合は200Hzの周波数分解能が必要であること、周波数が低くなるほど地下層での減衰は小さく、波源が白色ノイズの場合、周波数200kHzで探査深度は10kmとなると評価された。次に、KAGUYA/LRSで観測されたW1とW2による干渉縞振幅から、月面のバルク誘電率の推定を試みた。本研究で求めた比誘電率は大きくてもε1=1.3となり、先行研究から得られている月面の比誘電率ε1=4~10に対し小さい値となった。この原因としては、月面での反射を鏡面反射と仮定していること、月面の地形による凹凸を考慮していないことが主な原因と考えられる。
開発した干渉縞シミュレーションツールを使い、月面着陸機を想定して月面の高度5mで観測した場合のスペクトルを示した。期待される干渉縞振幅は周波数400kHzにおいて2dBと見積もられた。また、2024年8月に予定されている木星探査機JUICEの月フライバイ時の干渉縞スペクトルと反射波の遅延時間を示した。近月点でW1とW2による干渉縞を観測するために必要なスペクトルの周波数分解能は600Hzであること、受信波形から直達波と月面反射波の時間差を把握するために必要な時間長は、最接近の前後10分間の観測では7.5ミリ秒、月面反射波と地下層反射波を分離するために必要な時間分解能は5.8μ秒となる事が見積もられた。JUICEに搭載されている電波受信機はこれらの分解能要求を満たしている。
