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[PPS09-P18] 無水鉱物への重水素イオン照射実験による月表層における太陽風起源H2O生成過程の解明

キーワード:月
月表層における水の生成・維持の過程は、有人探査の資源確保や地球の水の起源解明にとって非常に重要である。赤外天文台SOFIAによる観測(Reach et al.2023)では水分子特有の6.1μm輝線スペクトルが月の高緯度の表層で検出されている。また、嫦娥5号の11-32億年前の地域からのリターンサンプルからは隕石衝突で形成されたガラスビーズ内に水和の痕跡が発見されている(He et al.2023)。LCROSSミッションにより、南極の永久影でも水の氷が発見されている(Colaprete et al.2010)。月表層の水の起源として、二つの過程が考えられている(Schörghofer et al.2021)。隕石衝突による水の供給と(Watson et al.1961)、太陽風中の水素イオンと表層岩石の化学反応である(Zeller et al.1966)。後者のプロセスでは、水素イオン照射を受けた表層岩石がOH基を形成する。さらに水素イオンが照射されることによって、H2Oが生成される反応だとされている。しかし、それぞれの説における月表層の水の総量への寄与は定量化されていない。そのため、どちらが有力な水の起源であるかは未解明である。太陽風照射による水生成は、表層の複雑な物理化学反応を含むため、理論モデルによる再現は不可能であり、寄与が定量化できていない。
そこで本研究は、月表層鉱物を模したサンプルに重水素イオンを照射する実験により、太陽風による水生成の再現を試みている。月の代表的な表層鉱物である無水ケイ酸塩鉱物のエンスタタイト(Mg2Si2O6)の粉体サンプルに、太陽風を模した5keVの重水素分子イオンを照射した。水素の同位体である重水素を照射し、D2OやHDO等の生成水を測定することで、サンプルの付着水による影響を排除できる。重水素分子イオンのフラックスは5.2×1013(cm-2s-1)で、サンプルを36分と300分間照射した。その結果、付着水であるH2Oの発生は照射開始後25分で2.6×10-6Paのピークに到達した後、300分で3.0×10-7Paまで減少したが、重水素照射による生成物であるHDOはバックグラウンドから単調に増え続け、150分で4.0×10-8Paまで到達した。D2Oは、300分照射において、分圧が単調増加し8.0×10-8Paまで到達した。36分照射でも4.0×10-8Paまでの増加が検出された。照射後のエンスタタイトの中間赤外反射スペクトルには約10%ほどの4.3μmの吸収構造が見られた。これは、データベース上の液相D2O吸収の波長帯3.64-4.44μm(NIST Chemistry Web Book)に含まれている。今後は、実験で得られた吸収スペクトルがD2Oもしくは鉱物に結合するOD基に相当するか精査しつつ、分圧の測定結果からD2OのYieldを推定し、太陽風照射による表層鉱物からの水生成効率を導出する。これにより、月表層に蓄積された水の総量に対する太陽風の寄与を定量的に評価する予定である。また、鉱物種を変えた実験や、温度等をよりリアルに再現した条件で実験を行い、水生成の効率のパラメータ依存性等を明らかにする。本発表では上記の現状を報告する。
そこで本研究は、月表層鉱物を模したサンプルに重水素イオンを照射する実験により、太陽風による水生成の再現を試みている。月の代表的な表層鉱物である無水ケイ酸塩鉱物のエンスタタイト(Mg2Si2O6)の粉体サンプルに、太陽風を模した5keVの重水素分子イオンを照射した。水素の同位体である重水素を照射し、D2OやHDO等の生成水を測定することで、サンプルの付着水による影響を排除できる。重水素分子イオンのフラックスは5.2×1013(cm-2s-1)で、サンプルを36分と300分間照射した。その結果、付着水であるH2Oの発生は照射開始後25分で2.6×10-6Paのピークに到達した後、300分で3.0×10-7Paまで減少したが、重水素照射による生成物であるHDOはバックグラウンドから単調に増え続け、150分で4.0×10-8Paまで到達した。D2Oは、300分照射において、分圧が単調増加し8.0×10-8Paまで到達した。36分照射でも4.0×10-8Paまでの増加が検出された。照射後のエンスタタイトの中間赤外反射スペクトルには約10%ほどの4.3μmの吸収構造が見られた。これは、データベース上の液相D2O吸収の波長帯3.64-4.44μm(NIST Chemistry Web Book)に含まれている。今後は、実験で得られた吸収スペクトルがD2Oもしくは鉱物に結合するOD基に相当するか精査しつつ、分圧の測定結果からD2OのYieldを推定し、太陽風照射による表層鉱物からの水生成効率を導出する。これにより、月表層に蓄積された水の総量に対する太陽風の寄与を定量的に評価する予定である。また、鉱物種を変えた実験や、温度等をよりリアルに再現した条件で実験を行い、水生成の効率のパラメータ依存性等を明らかにする。本発表では上記の現状を報告する。
