日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG40] Science of slow-to-fast earthquakes

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、濱田 洋平(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、野田 朱美(気象庁気象研究所)

17:15 〜 18:45

[SCG40-P35] 紀伊半島四万十帯と関東三波川帯の鉱物脈中の流体包有物に記録される塩濃度と形成圧力

田中 冬馬1、*川本 竜彦1、吉田 壱星1志村 侑亮2平内 健一1 (1.静岡大学理学部地球科学科、2.産業技術総合研究所)

キーワード:蛇紋岩化、炭酸塩化、流体包有物、海水、間隙水、沈み込み帯流体

炭酸塩鉱物は真水にほとんど溶けないが、塩水には溶解する。炭酸塩を含む脈は、塩水に含まれた炭酸イオンと岩石が反応して形成される。スロー地震の発生メカニズムの一つに開口割れ目との関連が議論されている(Okamotoほか、2021、Comm Earth Environ)。その割れ目を埋めている脈中の流体包有物を解析することで、流体の化学組成とその密度を知ることができる。密度がわかると等体積直線を計算することが可能になって、温度と圧力の変化を推定できる。

西南日本外帯には低温高圧型の変成岩とされている三波川変成帯と、白亜紀から新第三紀の付加体に相当する四万十帯が位置している。これらは白亜紀以降の沈み込み帯深部および浅部で形成されたと考えられている。

麦谷コンプレックスは紀伊半島の吉野地域に分布する四万十帯に分類される地質体である。麦谷コンプレックスは主に泥質マトリックス中に砂岩、チャート、玄武岩のブロックまたはスラブを含む。また、block-in-matrix構造と、それをオーバープリントする片理、伸長線構造と褶曲が見られる(Shimura et al., 2021, JAES)。このことは麦谷コンプレックスが四万十帯と三波川変成帯の両者の変形を有していることを示している。ピーク温度は280–290℃と推定されている(Shimura et al., 2021, JAES)。麦谷コンプレックスの泥質千枚岩に見られた石英とカルサイトからなる脈中の流体包有物の塩濃度は、3.0wt.% NaCl eq.となり、海水の塩濃度(3.5 wt.%)に近い値を示した。このことは沈み込み帯浅部で圧密によって取り除かれた間隙水が脈の形成に関わっていることを示す。流体包有物の均質化温度は138±26℃となった。ピーク温度を285℃と仮定した場合のピーク深度は296 MPa、密度を2.75g/cm3とすると11 kmであると推定した。この深さか、これよりも浅い深さで流体包有物は形成された。

関東山地三波川変成帯に分布する蛇紋岩体のひとつ、樋口蛇紋岩体の中に入っているマグネサイト脈とドロマイト脈中の流体包有物を解析した。マグネサイト脈中の流体包有物の均質化温度は152±4℃、塩濃度は3.9±0.2%、後から入ったドロマイト脈中の流体包有物の均質化温度は154±14℃、塩濃度は2.8±0.6%であった。ほぼ同じ温度条件で2種類の脈が形成されたが、塩濃度は異なっていたと考える。450℃の温度を仮定する(Okamotoほか、2022、Comm Earth Environ)と、圧力は572 MPa、密度2.75 g/cm3と仮定すると深度は約21 km と推定でき、マントルウェッジで流体包有物ができたと考えるとモホ面は比較的浅かったと推論する。