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[SCG41-P03] 日本列島の鮮新世-第四紀の山地形成における低温熱年代の適用性
キーワード:山地形成、日本列島、フィッション・トラック熱年代、(U-Th)/He熱年代
フィッション・トラック(FT)法や(U-Th)/He法などの低温熱年代法は,世界各地の山地において,隆起・削剥史の解明のため用いられてきた(例えば,Herman et al., 2013, Nature; Schildgen et al., 2018, Nature)。一方,日本列島の山地の大半は,鮮新世から第四紀に隆起を開始した極めて若い山地だと考えられている(米倉ほか,2001, 「日本の地形1総説」)。そのため,概して隆起開始以降の総削剥量が小さく,低温熱年代法では,現在の山地形成に関連した若い時代の冷却・削剥を検出することは必ずしも容易ではない(Sueoka et al., 2016, Geosci. Frontiers)。
本研究では,日本列島のような若い山地における低温熱年代法の適用性を確認するために,熱史のモデル計算に基づいて,年代の若返りが検出できる可能性がある山地の条件を抽出した。Willett and Brandon (2013, G-Cubed)の式に基づけば,ある時刻t1から一定速度uで隆起した場合の地温Tを任意の時刻tと深度zについて計算することができる。これを用いて,隆起開始年代t1,隆起速度u,モデルの開始年代t0を変化させたときの地温構造の時間変化を計算し,現在地表に露出している岩石が経験した温度-時間履歴を求めた。これをHeFTy ver.1.9.3(Ketcham, 2005, Rev. Min. Geochem.)のフォワード機能によって,アパタイトおよびジルコンのFT法および(U-Th)/He法の冷却年代に変換した。入力したパラメータの値は,隆起開始年代t1が0.5~5 Ma(0.5刻み,10ケース),隆起速度uが0.01~10 mm/yr(100.5倍刻み,7ケース),モデルの開始年代t0が15 Ma,60 Ma,120 Maの3ケースである。また,地表の標高は変化しない場合(標高は常にゼロ,隆起速度=削剥速度)と,標高および削剥速度がOhmori (1978, Bull. Dept. Geogr. Univ. Tokyo)のモデルに従って時間変化する場合の2通りの計算を行った。
得られたモデル年代は,隆起速度および隆起開始年代が既知のいくつかの山地における既報年代と整合的な値を示した。モデル年代の結果をまとめると,ジルコンのFTおよび(U-Th)/He年代が部分的にでも若返るためには,約3 mm/yrを超える隆起速度が必要となる。アパタイトのFTおよび(U-Th)/He年代は,標高変化の有無や隆起開始年代にもよるが,隆起速度が0.3 mm/yrを超えたあたりから部分的に若返る可能性があり,1 mm/yrを超えると山地の隆起開始時期より新しい若い年代が出る可能性がある。なお,モデルの開始年代(岩体の形成年代に相当)は,今回試した3ケースでは結果にはほぼ影響しなかった。ただし,飛騨山脈の黒部地域・滝谷地域や谷川岳など,5 Maより若い岩体が分布する地域では,岩体貫入後の冷却と削剥による冷却が同時進行で起こるため,別途検討が必要である。
以上の結果を踏まえ,低温熱年代データベース(Sueoka & Tagami, 2019, Island Arc)を用いて,本結果を日本全国の既報FTデータに適用し,数100万年スケールの隆起速度分布の制約を試みた。現在の山地形成に関連した年代の若返りが期待できるのは日本アルプス,関東山地,谷川岳,飯豊山地など,部分的な若返りが期待できるのは飛騨高原,美濃高原,四国山地など,若返りが期待できないのが北上山地北部,阿武隈山地,六甲山地,淡路島などとなった。段丘から求められた10万年スケールの隆起速度分布(藤原ほか,2005,原子力バックエンド研究)と比べると,概ね調和的な分布が得られたが,室戸岬・伊勢湾西岸・北陸など一部の地域では食い違いがみられた。この原因として,最近約50万年以内における隆起速度の変化や,段丘が形成・保存される条件に基づいたバイアス(例えば,Malatesta et al., 2023, AGU abst.)などの影響が考えられる。
本研究では,日本列島のような若い山地における低温熱年代法の適用性を確認するために,熱史のモデル計算に基づいて,年代の若返りが検出できる可能性がある山地の条件を抽出した。Willett and Brandon (2013, G-Cubed)の式に基づけば,ある時刻t1から一定速度uで隆起した場合の地温Tを任意の時刻tと深度zについて計算することができる。これを用いて,隆起開始年代t1,隆起速度u,モデルの開始年代t0を変化させたときの地温構造の時間変化を計算し,現在地表に露出している岩石が経験した温度-時間履歴を求めた。これをHeFTy ver.1.9.3(Ketcham, 2005, Rev. Min. Geochem.)のフォワード機能によって,アパタイトおよびジルコンのFT法および(U-Th)/He法の冷却年代に変換した。入力したパラメータの値は,隆起開始年代t1が0.5~5 Ma(0.5刻み,10ケース),隆起速度uが0.01~10 mm/yr(100.5倍刻み,7ケース),モデルの開始年代t0が15 Ma,60 Ma,120 Maの3ケースである。また,地表の標高は変化しない場合(標高は常にゼロ,隆起速度=削剥速度)と,標高および削剥速度がOhmori (1978, Bull. Dept. Geogr. Univ. Tokyo)のモデルに従って時間変化する場合の2通りの計算を行った。
得られたモデル年代は,隆起速度および隆起開始年代が既知のいくつかの山地における既報年代と整合的な値を示した。モデル年代の結果をまとめると,ジルコンのFTおよび(U-Th)/He年代が部分的にでも若返るためには,約3 mm/yrを超える隆起速度が必要となる。アパタイトのFTおよび(U-Th)/He年代は,標高変化の有無や隆起開始年代にもよるが,隆起速度が0.3 mm/yrを超えたあたりから部分的に若返る可能性があり,1 mm/yrを超えると山地の隆起開始時期より新しい若い年代が出る可能性がある。なお,モデルの開始年代(岩体の形成年代に相当)は,今回試した3ケースでは結果にはほぼ影響しなかった。ただし,飛騨山脈の黒部地域・滝谷地域や谷川岳など,5 Maより若い岩体が分布する地域では,岩体貫入後の冷却と削剥による冷却が同時進行で起こるため,別途検討が必要である。
以上の結果を踏まえ,低温熱年代データベース(Sueoka & Tagami, 2019, Island Arc)を用いて,本結果を日本全国の既報FTデータに適用し,数100万年スケールの隆起速度分布の制約を試みた。現在の山地形成に関連した年代の若返りが期待できるのは日本アルプス,関東山地,谷川岳,飯豊山地など,部分的な若返りが期待できるのは飛騨高原,美濃高原,四国山地など,若返りが期待できないのが北上山地北部,阿武隈山地,六甲山地,淡路島などとなった。段丘から求められた10万年スケールの隆起速度分布(藤原ほか,2005,原子力バックエンド研究)と比べると,概ね調和的な分布が得られたが,室戸岬・伊勢湾西岸・北陸など一部の地域では食い違いがみられた。この原因として,最近約50万年以内における隆起速度の変化や,段丘が形成・保存される条件に基づいたバイアス(例えば,Malatesta et al., 2023, AGU abst.)などの影響が考えられる。