14:00 〜 14:15
[SCG44-08] 速度状態依存摩擦構成則における直接効果パラメータのレオロジー的意味: 摩擦実験からの示唆
キーワード:摩擦係数、蛍石、摩擦実験、熱活性化過程
速度状態依存摩擦則 (RSF) は,断層の摩擦すべりの安定・不安定性や強度回復を表現することができることから,地震発生サイクルシュミレーションなどでさかんに用いられている.RSFのパラメータは岩石鉱物の種類に依存するだけでなく,同じ物質でも温度・圧力によって変化することが実験的に知られており,そのような摩擦物性の多様性が沈み込み帯における地震発生の多様性を生むと考えられる.したがって,地下深部の地震発生帯の条件における摩擦パラメータを予測するためには,それらのパラメータを支配する摩擦面の物理を理解することが不可欠である. 今回はRSF の速度依存性を表す直接効果をあらわすパラメータaに注目する.直接効果に速度依存性があることは,熱活性化過程が関与していることを示唆している.理論モデルでは,固体-固体間の真実接触部(アスペリティ)の変形が直接効果に関与していることを予測している.そこで本研究では,一般的な珪酸塩鉱物と比べて硬度が低く,立方晶系で異方性の小さい蛍石 CaF2を用いた摩擦実験の結果から,直接効果のレオロジカルな意味を検証した.比較のために,石英や曹長石についても実験を行った.
速度状態依存摩擦則 (RSF) は,断層の摩擦すべりの安定・不安定性や強度回復を表現することができることから,地震発生サイクルシュミレーションなどでさかんに用いられている.RSFのパラメータは岩石鉱物の種類に依存するだけでなく,同じ物質でも温度・圧力によって変化することが実験的に知られており,そのような摩擦物性の多様性が沈み込み帯における地震発生の多様性を生むと考えられる.したがって,地下深部の地震発生帯の条件における摩擦パラメータを予測するためには,それらのパラメータを支配する摩擦面の物理を理解することが不可欠である. 今回はRSF の速度依存性を表す直接効果をあらわすパラメータaに注目する.直接効果に速度依存性があることは,熱活性化過程が関与していることを示唆している.理論モデルでは,固体-固体間の真実接触部(アスペリティ)の変形が直接効果に関与していることを予測している.そこで本研究では,一般的な珪酸塩鉱物と比べて硬度が小さく,立方晶系で異方性の小さい蛍石 CaF2を用いた摩擦実験の結果から,直接効果のレオロジカルな意味を検証した.
実験には新規に開発した回転摩擦試験 KURAMA をもちい,粉末試料を用いて実施した.定常摩擦試験と速度ステップ試験を行い,定常摩擦係数とRSF の摩擦パラメータを決定した.実験試料には,天然蛍石を粉砕し, 篩にかけた粉末試料(粒径 < 120 μm)を使用した. 比較のために,曹長石や石英についても実験を行った.曹長石は天然の曹長岩を蛍石と同様に粉砕,分級し,石英は市販の石英砂(粒径 ~70 μm)を用いた. 法線応力は ~200 MPa, すべり速度を1 –1000 μm/s に変化させて実験を行った. 実験はすべて室温で, 乾燥条件下と水に飽和した条件下で実施した.
定常摩擦試験の結果,蛍石,石英,曹長岩の全ての試料でByerlee 則に典型的な 0.6程度の定常摩擦係数の値をとった.これは以前に実施した蛍石の単結晶試料の摩擦係数でもこれと大きく変わらない値を示した(柘植ほか, 2023, JpGU, 地質学会).蛍石は石英より1桁小さい降伏強度をもつが,摩擦係数に大きな違いがなかったことから,粉末試料でも真実接触部の剪断強度と降伏強度の比で摩擦係数が決まるという凝着摩擦機構が摩擦の支配的要因であったと考えられる.
今回は,速度ステップ試験のデータをさらに詳細に解析し,RSF のパラメータを求めたところ,蛍石のa は0.007-0.01 となり,曹長岩の0.008-0.02 と同程度の値になった. これまで,粘土鉱物について降伏強度が小さいにもかかわらずずa がほぼ一定の値をとることが報告されていたが,バルク鉱物でも同様の結果が示されたのは今回の蛍石が初めての報告となる.曹長岩の a の値はアルバイトについて見積もった活性化体積の値を熱活性化過程に基づく理論式に適用して得られるa の値に整合的であったが,蛍石の実験値は熱活性化過程のモデルからの予測より小さくなった. この原因として,柔らかい蛍石では,凝着部分以外のアスペリティ内部でも塑性流動による剪断変形が起き,この変形により剪断応力が低下し,結果としてa が小さく見積もられたことが示唆される.通常の鉱物でも高温では柔らかくなるため,今回の結果は地下深部の脆性-延性遷移領域での摩擦挙動を考える上でも重要である.
速度状態依存摩擦則 (RSF) は,断層の摩擦すべりの安定・不安定性や強度回復を表現することができることから,地震発生サイクルシュミレーションなどでさかんに用いられている.RSFのパラメータは岩石鉱物の種類に依存するだけでなく,同じ物質でも温度・圧力によって変化することが実験的に知られており,そのような摩擦物性の多様性が沈み込み帯における地震発生の多様性を生むと考えられる.したがって,地下深部の地震発生帯の条件における摩擦パラメータを予測するためには,それらのパラメータを支配する摩擦面の物理を理解することが不可欠である. 今回はRSF の速度依存性を表す直接効果をあらわすパラメータaに注目する.直接効果に速度依存性があることは,熱活性化過程が関与していることを示唆している.理論モデルでは,固体-固体間の真実接触部(アスペリティ)の変形が直接効果に関与していることを予測している.そこで本研究では,一般的な珪酸塩鉱物と比べて硬度が小さく,立方晶系で異方性の小さい蛍石 CaF2を用いた摩擦実験の結果から,直接効果のレオロジカルな意味を検証した.
実験には新規に開発した回転摩擦試験 KURAMA をもちい,粉末試料を用いて実施した.定常摩擦試験と速度ステップ試験を行い,定常摩擦係数とRSF の摩擦パラメータを決定した.実験試料には,天然蛍石を粉砕し, 篩にかけた粉末試料(粒径 < 120 μm)を使用した. 比較のために,曹長石や石英についても実験を行った.曹長石は天然の曹長岩を蛍石と同様に粉砕,分級し,石英は市販の石英砂(粒径 ~70 μm)を用いた. 法線応力は ~200 MPa, すべり速度を1 –1000 μm/s に変化させて実験を行った. 実験はすべて室温で, 乾燥条件下と水に飽和した条件下で実施した.
定常摩擦試験の結果,蛍石,石英,曹長岩の全ての試料でByerlee 則に典型的な 0.6程度の定常摩擦係数の値をとった.これは以前に実施した蛍石の単結晶試料の摩擦係数でもこれと大きく変わらない値を示した(柘植ほか, 2023, JpGU, 地質学会).蛍石は石英より1桁小さい降伏強度をもつが,摩擦係数に大きな違いがなかったことから,粉末試料でも真実接触部の剪断強度と降伏強度の比で摩擦係数が決まるという凝着摩擦機構が摩擦の支配的要因であったと考えられる.
今回は,速度ステップ試験のデータをさらに詳細に解析し,RSF のパラメータを求めたところ,蛍石のa は0.007-0.01 となり,曹長岩の0.008-0.02 と同程度の値になった. これまで,粘土鉱物について降伏強度が小さいにもかかわらずずa がほぼ一定の値をとることが報告されていたが,バルク鉱物でも同様の結果が示されたのは今回の蛍石が初めての報告となる.曹長岩の a の値はアルバイトについて見積もった活性化体積の値を熱活性化過程に基づく理論式に適用して得られるa の値に整合的であったが,蛍石の実験値は熱活性化過程のモデルからの予測より小さくなった. この原因として,柔らかい蛍石では,凝着部分以外のアスペリティ内部でも塑性流動による剪断変形が起き,この変形により剪断応力が低下し,結果としてa が小さく見積もられたことが示唆される.通常の鉱物でも高温では柔らかくなるため,今回の結果は地下深部の脆性-延性遷移領域での摩擦挙動を考える上でも重要である.