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[SCG45-05] 天川村産イリデッセントガーネット中fineラメラ組織の位置分解格子定数計測
キーワード:イリデッセントガーネット、電子顕微鏡、電子回折、格子定数、4D-STEM、収束電子回折
天然に産するガーネットの中には表面が虹色に輝くものがあり、イリデッセントガーネットもしくはレインボーガーネットと呼ばれる。イリデッセントガーネットは一般にgrossular (Ca3Al3+2Si3O12)–andradite (Ca3Fe3+2Si3O12)系の固溶体であるgrandite系列に属する。虹色発光の要因は100-300 nm間隔の微細層構造(fineラメラと呼ばれる)による多層膜干渉に由来することが分かっている [例えば1,2]。fineラメラは八面体サイト中のAl3+とFe3+の分配による2成分での互層組織である。
Nakamura et al. [3]は、奈良県天川村産のイリデッセントガーネットについて単一成長セクターのX線回折(XRD)実験と透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行い、fineラメラのAl-rich領域において八面体サイトの陽イオン配列(Al3+/Fe3+)が秩序化して立方晶(空間群Ia-3d)から対称性が低下しているとした。最近我々は、ナノ電子プローブを用いた高空間分解能回折実験(4D-STEM[4,5])により天川村産イリデッセントガーネット中のfineラメラを分析し、Al-rich領域の対称性が菱面体晶系に属する可能性を提案した[6]。本研究ではこのAl-rich領域のさらなる電子回折実験結果、特に格子定数の推定結果について追加報告する。
まず、[110]晶帯軸で取得した準平行ビームでの4D-STEM データセットから二次元投影格子のひずみマップ[e.g.,7]を作成した。これにより、Al-rich領域の格子がfineラメラ面(1-10)に垂直なy方向に約0.5%収縮していることが分かった。一方で、ラメラ面に平行なx方向には分析領域にわたってほとんど変化が見られないことから、Al-rich領域の菱面体格子の軸長arhは周囲の立方格子の軸長acubとほぼ等しいと推察される。つまり検出されたy方向の収縮は、菱面体格子の軸角αrhの90°からの減少に強く起因すると考えられる。そこで、軸長arh≃acub, εyy= −0.5%として幾何学的関係から軸角αrhを推定した。
また、同じ4D-STEMデータセットから散漫散乱内の透過菊池回折信号を抽出して解析することで、[110]軸の方位偏差マップを構築した。これにより、ちょうどAl-rich領域のみで[110]方位が周囲の領域から0.1°程度ずれることを検出した。菊池パターンのシフト量からこの偏差角度を計測し、幾何学的考察から前述の推定とは独立にαrhを推定した。
最後に、[111]晶帯軸でエネルギーフィルター収束電子回折(CBED)の取得実験を行った。Al-rich領域の高次ラウエ帯(HOLZ)回折線パターンからは3回軸が消失しており、これは立方晶系からの対称性低下を支持する。動力学的電子回折計算によりHOLZ線パターンのシミュレーションを行い、格子定数の探索を行った。周辺のFe-rich領域の格子定数が純粋なandradite文献値に等しいと仮定して各種パラメータを最適化し、Al-rich領域の格子定数が決定された。
上記のそれぞれで観察された特徴はいずれも菱面体格子への対称性低下をよく支持するものであり、それぞれで推定された格子定数の値(arh, αrh)は互いに整合的なものとなった。発表では具体的な計測結果も示して議論する予定である。
引用文献:
[1] Hirai, H., & Nakazawa, H. (1982) Phys. Chem. Miner., 8, 25.
[2] Shimobayashi, N., et al. (2005) GAAJ Research Lab. Report, Web page content.
[3] Nakamura, Y., et al. (2017) J. Mineral. Petrol. Sci., 112, 97.
[4] Ophus, C. (2019) Microsc. Microanal. 25, 563.
[5] Igami, Y. & Miyake, A., (2023) JpGU meeting, abstract
[6] Igami, Y. & Miyake, A., (2023) Annual Meeting of JAMS, abstract
[7] Pekin, T.C., et al. (2017) Ultramicroscopy, 176, 170.
Nakamura et al. [3]は、奈良県天川村産のイリデッセントガーネットについて単一成長セクターのX線回折(XRD)実験と透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行い、fineラメラのAl-rich領域において八面体サイトの陽イオン配列(Al3+/Fe3+)が秩序化して立方晶(空間群Ia-3d)から対称性が低下しているとした。最近我々は、ナノ電子プローブを用いた高空間分解能回折実験(4D-STEM[4,5])により天川村産イリデッセントガーネット中のfineラメラを分析し、Al-rich領域の対称性が菱面体晶系に属する可能性を提案した[6]。本研究ではこのAl-rich領域のさらなる電子回折実験結果、特に格子定数の推定結果について追加報告する。
まず、[110]晶帯軸で取得した準平行ビームでの4D-STEM データセットから二次元投影格子のひずみマップ[e.g.,7]を作成した。これにより、Al-rich領域の格子がfineラメラ面(1-10)に垂直なy方向に約0.5%収縮していることが分かった。一方で、ラメラ面に平行なx方向には分析領域にわたってほとんど変化が見られないことから、Al-rich領域の菱面体格子の軸長arhは周囲の立方格子の軸長acubとほぼ等しいと推察される。つまり検出されたy方向の収縮は、菱面体格子の軸角αrhの90°からの減少に強く起因すると考えられる。そこで、軸長arh≃acub, εyy= −0.5%として幾何学的関係から軸角αrhを推定した。
また、同じ4D-STEMデータセットから散漫散乱内の透過菊池回折信号を抽出して解析することで、[110]軸の方位偏差マップを構築した。これにより、ちょうどAl-rich領域のみで[110]方位が周囲の領域から0.1°程度ずれることを検出した。菊池パターンのシフト量からこの偏差角度を計測し、幾何学的考察から前述の推定とは独立にαrhを推定した。
最後に、[111]晶帯軸でエネルギーフィルター収束電子回折(CBED)の取得実験を行った。Al-rich領域の高次ラウエ帯(HOLZ)回折線パターンからは3回軸が消失しており、これは立方晶系からの対称性低下を支持する。動力学的電子回折計算によりHOLZ線パターンのシミュレーションを行い、格子定数の探索を行った。周辺のFe-rich領域の格子定数が純粋なandradite文献値に等しいと仮定して各種パラメータを最適化し、Al-rich領域の格子定数が決定された。
上記のそれぞれで観察された特徴はいずれも菱面体格子への対称性低下をよく支持するものであり、それぞれで推定された格子定数の値(arh, αrh)は互いに整合的なものとなった。発表では具体的な計測結果も示して議論する予定である。
引用文献:
[1] Hirai, H., & Nakazawa, H. (1982) Phys. Chem. Miner., 8, 25.
[2] Shimobayashi, N., et al. (2005) GAAJ Research Lab. Report, Web page content.
[3] Nakamura, Y., et al. (2017) J. Mineral. Petrol. Sci., 112, 97.
[4] Ophus, C. (2019) Microsc. Microanal. 25, 563.
[5] Igami, Y. & Miyake, A., (2023) JpGU meeting, abstract
[6] Igami, Y. & Miyake, A., (2023) Annual Meeting of JAMS, abstract
[7] Pekin, T.C., et al. (2017) Ultramicroscopy, 176, 170.