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[SCG45-08] 愛媛県伯方島に産する2種類の交代性閃長岩類の岩石学的特徴と交代作用における対照的な元素挙動

キーワード:伯方島、交代性閃長岩類、交代作用、岩石ー流体相互作用、花崗岩類、元素挙動
1.はじめに
交代作用とは,岩石またはその一部が流体との相互作用の結果,化学成分の付加や除去を被り,広範にわたってその鉱物組成・化学組成を変化させる作用である(Zharikov et al., 2007).交代作用の一例として花崗岩類の閃長岩化が挙げられる.交代性閃長岩は花崗岩類を母岩とし,サブソリダス条件下で形成された,石英に枯渇しアルカリ長石に富む岩石である.交代性閃長岩は大陸地殻の主要構成岩石である花崗岩類と流体との相互作用の産物であることから,その形成過程を明らかにすることは,大陸地殻における物質循環を解明する上でも重要である.また交代性閃長岩は,地殻流体から供給された金属元素の掃溜めとして,UやSn,希土類元素などを濃縮させることから,近年では鉱石資源の観点からも注目されている(Suikkanen and Ramo, 2019).本研究地域である愛媛県伯方島は西南日本内帯に位置し,これまで多様な白亜紀花崗岩類の分布が報告され,主に記載岩石学的な研究がなされてきた(例えば,松浦, 2002).本研究ではそれらの岩相に加えて新たに同一の花崗岩に伴う2種類の対照的な特徴をもつ交代性閃長岩類を見出した.そこで本研究では,伯方島に産する交代性閃長岩類および関連する花崗岩類について,野外産状および岩石記載,全岩化学組成分析・希土類元素組成分析,Sr–Nd同位体組成分析をおこない,詳細な岩石学的特徴を明らかにするとともに,対照的な特徴をもつ交代性閃長岩類を形成した交代作用時の元素の挙動について検討した.
2. 野外産状・岩石記載
当地域では2種類の交代性閃長岩類が隣接して産し,その色調の違いにより,真珠色閃長岩と牡蠣色閃長岩に区別される.これらの交代性閃長岩類は花崗岩に伴って産出し,いずれも周囲の花崗岩との境界は不明瞭である.真珠色閃長岩は多孔質な岩相を示し,露頭中に多数の空隙が認められる.一方,牡蠣色閃長岩は塊状・緻密な岩相であり,真珠色閃長岩に比べ,母岩の花崗岩の組織が残存している.主な構成鉱物はいずれもアルカリ長石,単斜輝石,柘榴石,チタン石であり,特に有色鉱物について,真珠色閃長岩では柘榴石が,牡蠣色閃長岩では単斜輝石が最も多く含まれる.真珠色閃長岩中では柘榴石が粒状の単斜輝石やアルカリ長石を包有し,空隙を埋めるように産する.牡蠣色閃長岩中では単斜輝石と柘榴石の粒状集合組織が認められる.また母岩との境界付近では,角閃石の単斜輝石への交代も認められる.
3. 希土類元素組成分析・Isocon解析
希土類元素組成分析の結果から,希土類元素の存在度は母岩の花崗岩よりも真珠色閃長岩は低く,牡蠣色閃長岩は高い値を示す.また,花崗岩が閃長岩化する際の元素の移動を検討するために交代性閃長岩類および母岩の花崗岩類の全岩化学組成データを用いて,Isocon解析(Grant, 1986)を行った.花崗岩および交代性閃長岩に多く含有され,アルカリに富む流体の関与後も長石の骨格として保持されると考えられるAlを不動元素として設定し,解析をおこなった.その結果,両閃長岩のいずれも母岩からのSiの減少と,Li・Na・Kといったアルカリ元素の増加が認められた.一方,花崗岩中では主に苦鉄質鉱物に含まれるTi, Fe, Ca, ジルコンに含まれるZr, さらにREEなど,多くの元素が母岩の花崗岩類と比較して真珠色閃長岩では減少し,牡蠣色閃長岩では増加するという対照的な結果が得られた.
4. Sr-Nd同位体組成
交代作用に関与した流体の起源を検討するため,当地域の交代性閃長岩類および花崗岩類についてSr-Nd同位体組成分析を行った.真珠色閃長岩は母岩と類似したεSrt (90Ma)を示すが,εNdt (90Ma)は母岩よりも有意に低い値を示す.一方,牡蠣色閃長岩は母岩の花崗岩類と類似したSr-Nd同位体比を示す.
5. 考察
両閃長岩でみられるTi, Fe, CaやZr,REEなどの対照的な挙動は,真珠色閃長岩形成時に母岩から取り去られたこれらの元素が,牡蠣色閃長岩に付加したことを示唆する.また,牡蠣色閃長岩が示す母岩と類似したSr-Nd同位体組成は,交代作用に関与した流体が周辺の花崗岩質マグマから供給されたものであることを示唆する.一方,真珠色閃長岩が示す,花崗岩類より有意に低いεNdt (90Ma)の値は,Nd同位体比の低い別起源の流体の関与があったことを示唆する.したがって,真珠色閃長岩形成時には,花崗岩質マグマ起源の流体によって花崗岩と同様の同位体比をもつSrがアルカリ長石中に保持されるとともに,①Ndを含む多くの元素が取り去られ空隙に富む岩相をつくる.さらに,②花崗岩より低いNd同位体比をもつ流体が供給され,空隙を埋めるように低いNd同位体比をもつ柘榴石およびチタン石が晶出する,といった過程を経たと考えらえる.また,牡蠣色閃長岩形成時には,①で母岩から取り去られた元素が濃集した流体が関与することによって,花崗岩と類似したSr-Nd同位体比を保持しつつ,有色鉱物の交代や,Siの溶脱によってできた空隙の充填が進んだものと考えられる.
引用文献:松浦ほか (2002), 20万分の1地質図幅「岡山及丸亀」, 1‐2; Suikkanen and Ramo (2019), Metallurgy & Exploration, 294-295, 1-19; Zharikov et al. (2007), Recommendations by the IUGS Subcommission on the Systematics of Metamorphic Rocks: Web version 01.02.07.
交代作用とは,岩石またはその一部が流体との相互作用の結果,化学成分の付加や除去を被り,広範にわたってその鉱物組成・化学組成を変化させる作用である(Zharikov et al., 2007).交代作用の一例として花崗岩類の閃長岩化が挙げられる.交代性閃長岩は花崗岩類を母岩とし,サブソリダス条件下で形成された,石英に枯渇しアルカリ長石に富む岩石である.交代性閃長岩は大陸地殻の主要構成岩石である花崗岩類と流体との相互作用の産物であることから,その形成過程を明らかにすることは,大陸地殻における物質循環を解明する上でも重要である.また交代性閃長岩は,地殻流体から供給された金属元素の掃溜めとして,UやSn,希土類元素などを濃縮させることから,近年では鉱石資源の観点からも注目されている(Suikkanen and Ramo, 2019).本研究地域である愛媛県伯方島は西南日本内帯に位置し,これまで多様な白亜紀花崗岩類の分布が報告され,主に記載岩石学的な研究がなされてきた(例えば,松浦, 2002).本研究ではそれらの岩相に加えて新たに同一の花崗岩に伴う2種類の対照的な特徴をもつ交代性閃長岩類を見出した.そこで本研究では,伯方島に産する交代性閃長岩類および関連する花崗岩類について,野外産状および岩石記載,全岩化学組成分析・希土類元素組成分析,Sr–Nd同位体組成分析をおこない,詳細な岩石学的特徴を明らかにするとともに,対照的な特徴をもつ交代性閃長岩類を形成した交代作用時の元素の挙動について検討した.
2. 野外産状・岩石記載
当地域では2種類の交代性閃長岩類が隣接して産し,その色調の違いにより,真珠色閃長岩と牡蠣色閃長岩に区別される.これらの交代性閃長岩類は花崗岩に伴って産出し,いずれも周囲の花崗岩との境界は不明瞭である.真珠色閃長岩は多孔質な岩相を示し,露頭中に多数の空隙が認められる.一方,牡蠣色閃長岩は塊状・緻密な岩相であり,真珠色閃長岩に比べ,母岩の花崗岩の組織が残存している.主な構成鉱物はいずれもアルカリ長石,単斜輝石,柘榴石,チタン石であり,特に有色鉱物について,真珠色閃長岩では柘榴石が,牡蠣色閃長岩では単斜輝石が最も多く含まれる.真珠色閃長岩中では柘榴石が粒状の単斜輝石やアルカリ長石を包有し,空隙を埋めるように産する.牡蠣色閃長岩中では単斜輝石と柘榴石の粒状集合組織が認められる.また母岩との境界付近では,角閃石の単斜輝石への交代も認められる.
3. 希土類元素組成分析・Isocon解析
希土類元素組成分析の結果から,希土類元素の存在度は母岩の花崗岩よりも真珠色閃長岩は低く,牡蠣色閃長岩は高い値を示す.また,花崗岩が閃長岩化する際の元素の移動を検討するために交代性閃長岩類および母岩の花崗岩類の全岩化学組成データを用いて,Isocon解析(Grant, 1986)を行った.花崗岩および交代性閃長岩に多く含有され,アルカリに富む流体の関与後も長石の骨格として保持されると考えられるAlを不動元素として設定し,解析をおこなった.その結果,両閃長岩のいずれも母岩からのSiの減少と,Li・Na・Kといったアルカリ元素の増加が認められた.一方,花崗岩中では主に苦鉄質鉱物に含まれるTi, Fe, Ca, ジルコンに含まれるZr, さらにREEなど,多くの元素が母岩の花崗岩類と比較して真珠色閃長岩では減少し,牡蠣色閃長岩では増加するという対照的な結果が得られた.
4. Sr-Nd同位体組成
交代作用に関与した流体の起源を検討するため,当地域の交代性閃長岩類および花崗岩類についてSr-Nd同位体組成分析を行った.真珠色閃長岩は母岩と類似したεSrt (90Ma)を示すが,εNdt (90Ma)は母岩よりも有意に低い値を示す.一方,牡蠣色閃長岩は母岩の花崗岩類と類似したSr-Nd同位体比を示す.
5. 考察
両閃長岩でみられるTi, Fe, CaやZr,REEなどの対照的な挙動は,真珠色閃長岩形成時に母岩から取り去られたこれらの元素が,牡蠣色閃長岩に付加したことを示唆する.また,牡蠣色閃長岩が示す母岩と類似したSr-Nd同位体組成は,交代作用に関与した流体が周辺の花崗岩質マグマから供給されたものであることを示唆する.一方,真珠色閃長岩が示す,花崗岩類より有意に低いεNdt (90Ma)の値は,Nd同位体比の低い別起源の流体の関与があったことを示唆する.したがって,真珠色閃長岩形成時には,花崗岩質マグマ起源の流体によって花崗岩と同様の同位体比をもつSrがアルカリ長石中に保持されるとともに,①Ndを含む多くの元素が取り去られ空隙に富む岩相をつくる.さらに,②花崗岩より低いNd同位体比をもつ流体が供給され,空隙を埋めるように低いNd同位体比をもつ柘榴石およびチタン石が晶出する,といった過程を経たと考えらえる.また,牡蠣色閃長岩形成時には,①で母岩から取り去られた元素が濃集した流体が関与することによって,花崗岩と類似したSr-Nd同位体比を保持しつつ,有色鉱物の交代や,Siの溶脱によってできた空隙の充填が進んだものと考えられる.
引用文献:松浦ほか (2002), 20万分の1地質図幅「岡山及丸亀」, 1‐2; Suikkanen and Ramo (2019), Metallurgy & Exploration, 294-295, 1-19; Zharikov et al. (2007), Recommendations by the IUGS Subcommission on the Systematics of Metamorphic Rocks: Web version 01.02.07.