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[SCG45-P06] 山陰帯大東花崗閃緑岩のジルコン中メルト包有物を用いた温度圧力条件解析
キーワード:ジルコン中メルト包有物、地質温度圧力計、大東花崗閃緑岩
1.はじめに メルト包有物は、マグマだまりにおいて鉱物が成長する過程で周囲のメルトが鉱物に取り込まれたもので、メルトの化学組成や含水量、揮発性成分等の情報を保持している。ジルコンは花崗岩に含まれる鉱物の中でも物理化学的に安定な鉱物であり、取り込まれたメルト包有物は変質を受けにくいと考えられている。一方で、深成岩中のメルト包有物は不均質な多相包有物となっているため、組成分析前の試料処理として均質化実験を行う必要がある。本研究では山陰帯大東花崗閃緑岩を対象とし、ジルコン中メルト包有物の組成を明らかにし、メルト包有物温度圧力計を適用することでマグマ固結過程の温度圧力条件解析を試みた。
2.地質概説 大東花崗閃緑岩は山陰帯に属し、山陰帯には白亜紀後期から古第三紀に活動した花崗岩類が産する(例えば, 加々美ほか, 1999)。大東花崗閃緑岩は山陰帯花崗岩類では因美新期貫入岩類の暁新世の火成岩体と位置付けられる(野口ほか, 2021)。大東花崗閃緑岩の主岩相は中~粗粒普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩であり、長径数〜10cm程度の苦鉄質包有岩を普遍的に含む(野口ほか, 2021)。
3.研究手法 本研究では野外調査と室内実験を行った。野外調査では、産状観察と試料採集を行った。室内実験として、薄片観察、偏光顕微鏡観察、全岩化学組成分析(3試料)、ピストンシリンダー型高温高圧発生装置を用いたメルト包有物均質化実験(1試料)、SEM-EDSを用いたメルト包有物の観察・組成分析を行った。
4.実験試料 実験試料は斜長石、石英、黒雲母、角閃石、アルカリ長石から構成され、副成分鉱物として不透明鉱物、燐灰石、ジルコンを含む。鏡下観察からジルコンは自形〜半自形で、無色~桃色を呈している。また、黒雲母や角閃石、斜長石の周縁部に認められた。SEM-EDSによりジルコンの内部構造を観察したところ、石英・斜長石・カリ長石からなる不定形の多相包有物が認められた。
5.実験条件 試料から分離したジルコンをNaClとともに白金カプセルに封入し、ピストンシリンダー型高温高圧実験発生装置で均質化実験を行った。メルト包有物を均質化させるため、約0.25 GPaで1000 ℃まで加熱し、5時間保持したのち、室温まで急冷させた。その後、実験後の試料を回収し、SEM-EDSで観察・分析を行った。
6.結果 SEM-EDSでの形態観察および組成分析により、均質化実験中の外部からの混染の可能性が示唆されるメルト包有物と、分析中のNa欠損が示唆されるものを除き、9つの組成データが得られた。それらのSiO2含有量(77~79 wt% SiO2)はジルコンを分離した試料の全岩化学組成(67 wt% SiO2)より高い。
7.考察 ハーカー図において、メルト包有物組成は岩体の全岩化学組成トレンドのSiO2含有量の高いところの近くに位置している。また鏡下観察からジルコンは黒雲母や角閃石、斜長石の周縁部や主要鉱物粒間に認められた。これらの観察事実から、ジルコンは比較的分化したメルトを包有したと考えられる。ジルコンの結晶化圧力を制約するために、メルト包有物組成を用いた地質温度圧力計を適用した。Rhyolite-MELTS地質圧力計(Gualuda et al., 2014)からは4つのメルト組成で圧力が計算され170~49 (±25) MPaの圧力が得られた。一方、近年提案されたMagMaTaB地質温度圧力計(Weber and Blundy, 2024)からは771~695 (±25) ℃、452~161 (±100) MPaの温度圧力が得られた。MagMaTaB地質温度圧力計の結果は、ジルコンがマグマの上昇過程の幅広い圧力条件で結晶化したことを示唆する。またMagMaTaB地質温度圧力計の結果をP-T図にプロットすると、圧力の減少に対して温度が上昇する傾向が認められる。このようなジルコン中メルト包有物から見積もられる温度圧力条件から、大東花崗閃緑岩マグマ上昇過程でのマグマの再加熱が示唆されるが、このことは大東花崗閃緑岩が苦鉄質包有岩を普遍的に含むことと調和的である。一方、当岩体については花崗岩類が火山岩類に貫入している産状が認められており(野口ほか, 2021)、地殻浅部に貫入・固結したことを示唆しているが、本研究で得られたRhyolite-MELTS地質圧力計から見積もられた低圧条件はこの野外産状と調和的である。
2.地質概説 大東花崗閃緑岩は山陰帯に属し、山陰帯には白亜紀後期から古第三紀に活動した花崗岩類が産する(例えば, 加々美ほか, 1999)。大東花崗閃緑岩は山陰帯花崗岩類では因美新期貫入岩類の暁新世の火成岩体と位置付けられる(野口ほか, 2021)。大東花崗閃緑岩の主岩相は中~粗粒普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩であり、長径数〜10cm程度の苦鉄質包有岩を普遍的に含む(野口ほか, 2021)。
3.研究手法 本研究では野外調査と室内実験を行った。野外調査では、産状観察と試料採集を行った。室内実験として、薄片観察、偏光顕微鏡観察、全岩化学組成分析(3試料)、ピストンシリンダー型高温高圧発生装置を用いたメルト包有物均質化実験(1試料)、SEM-EDSを用いたメルト包有物の観察・組成分析を行った。
4.実験試料 実験試料は斜長石、石英、黒雲母、角閃石、アルカリ長石から構成され、副成分鉱物として不透明鉱物、燐灰石、ジルコンを含む。鏡下観察からジルコンは自形〜半自形で、無色~桃色を呈している。また、黒雲母や角閃石、斜長石の周縁部に認められた。SEM-EDSによりジルコンの内部構造を観察したところ、石英・斜長石・カリ長石からなる不定形の多相包有物が認められた。
5.実験条件 試料から分離したジルコンをNaClとともに白金カプセルに封入し、ピストンシリンダー型高温高圧実験発生装置で均質化実験を行った。メルト包有物を均質化させるため、約0.25 GPaで1000 ℃まで加熱し、5時間保持したのち、室温まで急冷させた。その後、実験後の試料を回収し、SEM-EDSで観察・分析を行った。
6.結果 SEM-EDSでの形態観察および組成分析により、均質化実験中の外部からの混染の可能性が示唆されるメルト包有物と、分析中のNa欠損が示唆されるものを除き、9つの組成データが得られた。それらのSiO2含有量(77~79 wt% SiO2)はジルコンを分離した試料の全岩化学組成(67 wt% SiO2)より高い。
7.考察 ハーカー図において、メルト包有物組成は岩体の全岩化学組成トレンドのSiO2含有量の高いところの近くに位置している。また鏡下観察からジルコンは黒雲母や角閃石、斜長石の周縁部や主要鉱物粒間に認められた。これらの観察事実から、ジルコンは比較的分化したメルトを包有したと考えられる。ジルコンの結晶化圧力を制約するために、メルト包有物組成を用いた地質温度圧力計を適用した。Rhyolite-MELTS地質圧力計(Gualuda et al., 2014)からは4つのメルト組成で圧力が計算され170~49 (±25) MPaの圧力が得られた。一方、近年提案されたMagMaTaB地質温度圧力計(Weber and Blundy, 2024)からは771~695 (±25) ℃、452~161 (±100) MPaの温度圧力が得られた。MagMaTaB地質温度圧力計の結果は、ジルコンがマグマの上昇過程の幅広い圧力条件で結晶化したことを示唆する。またMagMaTaB地質温度圧力計の結果をP-T図にプロットすると、圧力の減少に対して温度が上昇する傾向が認められる。このようなジルコン中メルト包有物から見積もられる温度圧力条件から、大東花崗閃緑岩マグマ上昇過程でのマグマの再加熱が示唆されるが、このことは大東花崗閃緑岩が苦鉄質包有岩を普遍的に含むことと調和的である。一方、当岩体については花崗岩類が火山岩類に貫入している産状が認められており(野口ほか, 2021)、地殻浅部に貫入・固結したことを示唆しているが、本研究で得られたRhyolite-MELTS地質圧力計から見積もられた低圧条件はこの野外産状と調和的である。