日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG46] 岩石―流体相互作用の新展開:表層から沈み込み帯深部まで

2024年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、片山 郁夫(広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、中島 淳一(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:片山 郁夫(広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、中島 淳一(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

09:30 〜 09:45

[SCG46-12] 泥質-苦鉄質片岩の岩相境界に残された沈み込み帯上盤プレートの流体流路の痕跡

*松野 哲士1宇野 正起1岡本 敦1 (1.東北大学)

キーワード:沈み込み帯、流体活動、元素移動

プレート沈み込み帯における流体の移動は、地震活動と密接に関係する。特に沈み込んだ海洋プレートからプレート上盤への流体供給と元素輸送は、上盤中のき裂をシールするため、スロー地震の周期を支配する重要なプロセスであると考えられている(e.g., Audet & Bürgmann, 2014, Nature)。上盤プレートに底付けされた海洋プレートは、プレート上盤へ向けた流体の組成や流量を記録する。そこで本研究では、沈み込み帯上盤の流体流路の痕跡を残した泥質-苦鉄質片岩の岩相境界に着眼する。岩相境界を流路とする流体との反応に伴って連続的に変化する、定量的な鉱物量比・元素組成の変化量を解析し、最終的にプレート上盤へ向けた主要な流路を流通した流体組成・流量の定量を求め、上盤プレート内の水流動の実態解明を目指す。
 調査地域は、三波川変成帯の四国中央部・汗見川地域に露出する泥質-苦鉄質片岩の岩相境界である。サンプリング地点は緑泥石帯に位置する唐越露頭(緯度:33.7950,経度:133.5516)である。変成作用のピークP-T条件は300℃、0.55-0.65GPaと推定され (e.g., Kouketsu et al. 2021, J Metamorph Geol.)、西南日本プレート境界の地震発生帯の下限域に相当する。試料は、泥質-苦鉄質片岩の境界境界にかけて、両岩相に対して連続的に10m範囲を連続的に計46試料採取した。採取した試料から全岩化学組成・鉱物量比の情報を得るため、XRF・ICP-MS・EPMA・XRDによる測定を行った。また、原岩組成推定モデル(Matsuno et al. 2022, Sci.Rep.)を適用し、元素濃度変化量の定量を行った。このとき、露頭内の元素濃度の変化から、Th, Nb, Zr, Tiを不動元素とし、Rb、Ba、U、K、La、Ce、Pb、Sr、P、Nd、Y、Yb、Luに対して推定を行った。また、上昇時の反応進行度の指標として、低圧角閃石に対する全ての角閃石の量比で定義されるY_actinolite値を得た (Okamoto & Toriumi 2005, J Metamorph Geol.)。
 鉱物量比は、母岩から岩相境界にかけて泥質-苦鉄質片岩の両岩相で連続的に変化した。Mafic shistの主要な構成鉱物は、chlorite, epidote, amphibole, plagioclase, muscovite, quartz, calciteであるが、母岩側ではNa角閃石が産出するのに対し、岩相境界ではchlorite・actinolite, muscoviteに富む。Pelitic shistの主要な構成鉱物は、quartz, chlorite, plagioclase, muscoviteであり、岩相境界ではmuscoviteに富む。特に斜長石の鉱物量比は、岩相境界の±20cm範囲内の泥質片岩から苦鉄質片岩にかけて、連続的に33%から13%まで減少した。加えて、苦鉄質片岩の白雲母は、母岩側では1%程度であるのに対し、岩相境界では最大25%まで連続的に増加した。また、Y_actinoliteは、2m離れた母岩の50%から連続的に変化し、岩相境界から25cmの範囲の試料では全て100%を示した。
 特に苦鉄質片岩から得られた鉱物量比・Y_actinoliteと全岩化学組成・元素移動度は、明瞭な相関を示した。特にRb、BaとY_actinoliteの関係から、岩相境界における岩石-流体反応に伴うY_actinolite値の上昇に伴って、Rb、Baの元素付加が連続的に発生していることがわかった。苦鉄質片岩露頭全体では、50%のY_actinolite値を示す母岩側でRbの濃度は約5倍となり、一方、100%のY_actinolite値を示す岩相境界では約15倍の濃度を示した。したがって、苦鉄質片岩は、沈み込み帯からの上昇時において、岩相境界から流入した流体との反応に伴って、元素付加を経験したことが示された。
 両岩相の白雲母の量比は、K、Rb、Baの元素濃度・元素移動度と相関した。ただし、K、Rb、Baの元素濃度は、両岩相の母岩と比較して、岩相境界でのみ局所的に元素濃度が上昇していた。つまり、両岩相で構成される露頭内部での元素移動ではなく、外部流体からの元素供給がなされたことを示唆する。このことから、-苦鉄質片岩の岩相境界は沈み込み帯上盤で発生した、外部から岩相境界へ流通した流体に伴う岩石-流体反応の痕跡であると考えられる。今後、地化学計算と鉱物量比の比較から、沈み込み帯上盤部の流路となった岩相境界における、流体組成・流量等の形成条件の検討を進める。