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[SCG46-P01] 最大主応力に対する断層の角度が注水時の断層運動に及ぼす影響
キーワード:間隙水圧、誘発地震、断層挙動
地熱開発やCO2地中貯留をはじめとする様々な地下利用では、地下へ流体を圧入する。その結果、流体圧入に起因する誘発地震が世界各地の地下利用現場で観測されている(例えば、 Ellsworth, 2013)。その中でも注水により、広域応力場の最大主応力に対して動きづらい姿勢の断層(以下、unfavorably oriented断層)が震源となる誘発地震が発生したという観測事例がある(例えば、Cochran et al., 2020; Lei et al., 2020)。Sibson (1990)では、人為的な注水による誘発地震だけでなく、例えば深部流体の上昇に起因する間隙水圧の増加によって発生する自然地震においても、unfavorably oriented断層が活動的になる可能性を指摘している。実際に、例えば日本国内では能登半島や新潟県において、広域場における最大主応力の方向に対してunfavorably oriented 断層が震源となる地震が観測されている(例えば、Sibson, 2007; Kato et al., 2008)。これまで、地震の誘発に影響を与えると考えられている注水パラメーター(注水速度や注水体積)に着目した実験的研究はおこなわれてきたが(例えば、Passelegue et al., 2018)、unfavorably oriented 断層に注水が与える影響を調べた室内試験はほとんどおこなわれていない(Ji et al., 2022)。本研究では、unfavorably oriented断層に対して注水をおこなった際にどのような断層運動を示すのか、つまり、最大主応力に対する断層面の角度が注水時の断層運動に及ぼす影響を調べることを目的に、主応力軸に対して3種類の異なる角度(30°、40°、50°)の模擬断層面を有する稲田花崗岩を用いて注水実験をおこなった。その結果、圧力条件が同じであれば断層の角度によらず、応力降下後の剪断応力値や摩擦係数が同程度であることが確認できた。そして断層の角度の増加に伴い、応力降下直前の剪断応力は大きな値を示し、それが応力降下量の増加をもたらす傾向が認められた。また、断層面の角度が大きいほど、注水後、応力降下が発生するまでの時間が短くなる傾向がみられた。摩擦係数が同じである場合、断層面の角度が大きいほど断層面にかかる垂直応力が増加し、それは真の接触面積の増加をもたらす。その結果、流体の経路が限定されることにより局所的に高間隙水圧が発生する可能性が考えられ、これが高角な断層面ほど応力降下までの時間が短くなる現象を引き起こした可能性がある。これは、注水現場において、注水地点から同程度の距離にあるfavorably oriented断層ではなく、unfavorably oriented断層が前震の震源断層となったという観測例(Cochran et al., 2020)と調和的という見方もできるが、今後さらに多くの観測事例を考慮して考察する必要性がある。