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[SCG46-P11] 四万十帯日高川層群美山累層三尾メランジュにおける構造地質学-地球化学的特徴

キーワード:四万十付加体、メランジュ、熱圧化、流体-岩石相互作用
地震時の滑り挙動および流体-岩石相互作用の解明は,地震活動・地殻変動・物質循環の理解において極めて重要である.深海底掘削による地震発生帯試料の直接採取は実現していないが,陸上付加体は過去の地震の痕跡を保存している.そこで本研究では,紀伊半島四万十帯日高川層群美山累層の三尾海岸に分布するメランジュユニット(三尾メランジュ)を研究対象とし,フィールド調査での広域の地質図作成および変形構造の解析を実施した.なかでも滑りが集中しているゾーン(primary slip zone: PSZ)に着目し,顕微鏡観察と電子線マイクロアナライザ(EPMA)による元素濃度分析を行なった.フィールド調査の結果,三尾メランジュは海洋プレート層序である砂岩・泥岩・チャート・玄武岩が産出しつつ,それらが著しい変形を受けており,複合面構造の発達で特徴付けられる.顕微鏡観察とEPMA分析の結果,PSZにおいて顕著な細粒化,流理構造の発達,自形のドロマイト粒子の析出が確認された.先行研究でのイライト結晶度分析より,この地域の地層を含む美山累層の最大履歴温度は220−260℃と見積もられており,また先行研究でのPSZの微量元素・同位体分析より350℃を超える高温流体と岩石との反応が示唆されている.以上のデータをもとに考察すると,三尾メランジュはかつて地震発生帯に位置しており,地震時の断層滑りにおいてガウジの粘性流動化やCa, Mg, CO2に富む外部流体の流入を伴う間隙流体の高温化,すなわち高圧化が生じていたと推測される.特に後者の流体の高圧化は,剪断応力の弱化 (thermal pressurization)を引き起こした可能性を示唆する.