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[SCG46-P21] 海洋リソスフィアの蛇紋岩化反応による水素発生における岩相の影響
キーワード:海洋リソスフィア、蛇紋岩化反応、オマーンオフィオライト、水素生成
蛇紋岩化反応は、水素をエネルギー源とする熱水噴出孔におけるユニークな微生物群集の発見以来、脚光を浴びている(Kelley et al., 2001)。水素発生の鍵となる鉱物が磁鉄鉱と蛇紋石である。マグネタイトと蛇紋石の形成は、シリカの活性や温度によって制御されるため、岩相によって水素発生量が異なることが予想される。しかし、異なる岩相における蛇紋岩化反応による水素発生量の違いを天然試料から調査した例は少なく、その実態はよくわかっていない。本研究では、岩相の違いが海洋リソスフィアの蛇紋岩化反応における水素発生に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
本研究では、Oman Drilling Projectで得られたオマーンオフィオライトの下部地殻―上部マントルの連続掘削試料を対象として、鉄の酸化還元状態を含む全岩化学分析、磁化率の測定および岩石組織観察を行った。掘削試料は、主に斑れい岩からなる下部地殻、ダナイトからなる地殻マントル境界、ハルツバージャイトからなる上部マントルで構成されている。斑れい岩は、かんらん石がメッシュ状組織を伴いながら蛇紋岩化しており、一部の試料を除いて斜長石や直方輝石の変質は少ない。メッシュ組織は主に蛇紋石とマグネタイトで構成されており、ブルーサイトは少ない。変質が進んでいる斑れい岩は、マグネタイトが少なく、蛇紋石が鉄に富んでいる。ダナイトおよびハルツバージャイトのメッシュ組織にはNi-Fe合金(Awaruite)が観察され、蛇紋岩化反応が高い還元状態で進行していたことを示唆する。マグネタイト量は、ダナイトで最も多く、全岩のFe2O3含有量は磁鉄鉱含有量だけでは説明できない。これは、マグネタイト以外の鉱物(蛇紋石や風化鉱物)がFe3+を含んでいる可能性を示唆している。岩石中の鉄の酸化還元状態の空間分布を明らかにするために、PF-AR NW2Aで2次元イメージングXAFS測定を行った。その結果、メッシュ組織の蛇紋石およびバスタイト(蛇紋岩化した直方輝石)は岩相によらず、全鉄のうち25-46%がFe3+であることが明らかになった。
全岩組成分析と各鉱物の鉄の含有量、岩石組織の観察から、各岩相における磁鉄鉱と蛇紋岩の水素生成への寄与と水素生成段階について調べた。網目状の組織を持つ蛇紋岩化とそれ以降の磁鉄鉱脈での水素発生量をそれぞれ推定したところ、メッシュ状組織を伴う蛇紋岩化が主な水素発生ステージであることがわかった。メッシュ状組織を伴う蛇紋岩化では、斑れい岩は84 mM/kg rock、ダナイトは144 mM/kg rock、ハルツバージャイトは107 mM/kg rockの水素を発生したと推定された。蛇紋石とマグネタイトの水素発生に対する寄与を計算したところ、下部地殻の斑れい岩では、水素発生においてマグネタイトの寄与が大きいのに対して、ダナイトや上部マントルでは蛇紋岩の寄与が大きいことが明らかになった。これは、岩相によって水素発生量とそれを担う鉱物が変化し、マグネタイトが形成されにくい場合でも三価の鉄を含む蛇紋石の形成によって水素が発生することを示唆する。シリカに富む鉱物を多く含む斑れい岩において多くのマグネタイトが形成されていることは、シリカ活性が高い状況ではマグネタイトが形成されないという先行研究の主張とは一見相反する(Katayama et al., 2010)。シリカに富む鉱物が多い斑れい岩においても、マグネタイトが形成されるためには、かんらん石が選択的に反応する必要がある。熱応力によるき裂は、かんらん石内部に選択的なき裂を形成し、蛇紋岩化反応初期におけるかんらん石優位な反応を促進した可能性がある。その後、反応誘発応力によるき裂形成により、広範な蛇紋岩化と、シリカ活性の上昇が生じる可能性がある(Yoshida et al., 2020)。これらの結果は、ミクロなき裂形成メカニズムが全体としての水素発生量を制御している可能性を示唆する。
本研究では、Oman Drilling Projectで得られたオマーンオフィオライトの下部地殻―上部マントルの連続掘削試料を対象として、鉄の酸化還元状態を含む全岩化学分析、磁化率の測定および岩石組織観察を行った。掘削試料は、主に斑れい岩からなる下部地殻、ダナイトからなる地殻マントル境界、ハルツバージャイトからなる上部マントルで構成されている。斑れい岩は、かんらん石がメッシュ状組織を伴いながら蛇紋岩化しており、一部の試料を除いて斜長石や直方輝石の変質は少ない。メッシュ組織は主に蛇紋石とマグネタイトで構成されており、ブルーサイトは少ない。変質が進んでいる斑れい岩は、マグネタイトが少なく、蛇紋石が鉄に富んでいる。ダナイトおよびハルツバージャイトのメッシュ組織にはNi-Fe合金(Awaruite)が観察され、蛇紋岩化反応が高い還元状態で進行していたことを示唆する。マグネタイト量は、ダナイトで最も多く、全岩のFe2O3含有量は磁鉄鉱含有量だけでは説明できない。これは、マグネタイト以外の鉱物(蛇紋石や風化鉱物)がFe3+を含んでいる可能性を示唆している。岩石中の鉄の酸化還元状態の空間分布を明らかにするために、PF-AR NW2Aで2次元イメージングXAFS測定を行った。その結果、メッシュ組織の蛇紋石およびバスタイト(蛇紋岩化した直方輝石)は岩相によらず、全鉄のうち25-46%がFe3+であることが明らかになった。
全岩組成分析と各鉱物の鉄の含有量、岩石組織の観察から、各岩相における磁鉄鉱と蛇紋岩の水素生成への寄与と水素生成段階について調べた。網目状の組織を持つ蛇紋岩化とそれ以降の磁鉄鉱脈での水素発生量をそれぞれ推定したところ、メッシュ状組織を伴う蛇紋岩化が主な水素発生ステージであることがわかった。メッシュ状組織を伴う蛇紋岩化では、斑れい岩は84 mM/kg rock、ダナイトは144 mM/kg rock、ハルツバージャイトは107 mM/kg rockの水素を発生したと推定された。蛇紋石とマグネタイトの水素発生に対する寄与を計算したところ、下部地殻の斑れい岩では、水素発生においてマグネタイトの寄与が大きいのに対して、ダナイトや上部マントルでは蛇紋岩の寄与が大きいことが明らかになった。これは、岩相によって水素発生量とそれを担う鉱物が変化し、マグネタイトが形成されにくい場合でも三価の鉄を含む蛇紋石の形成によって水素が発生することを示唆する。シリカに富む鉱物を多く含む斑れい岩において多くのマグネタイトが形成されていることは、シリカ活性が高い状況ではマグネタイトが形成されないという先行研究の主張とは一見相反する(Katayama et al., 2010)。シリカに富む鉱物が多い斑れい岩においても、マグネタイトが形成されるためには、かんらん石が選択的に反応する必要がある。熱応力によるき裂は、かんらん石内部に選択的なき裂を形成し、蛇紋岩化反応初期におけるかんらん石優位な反応を促進した可能性がある。その後、反応誘発応力によるき裂形成により、広範な蛇紋岩化と、シリカ活性の上昇が生じる可能性がある(Yoshida et al., 2020)。これらの結果は、ミクロなき裂形成メカニズムが全体としての水素発生量を制御している可能性を示唆する。