日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG46] 岩石―流体相互作用の新展開:表層から沈み込み帯深部まで

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、片山 郁夫(広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、中島 淳一(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

17:15 〜 18:45

[SCG46-P23] オマーンのかんらん岩を用いた変形実験に基づく物性に対する炭酸塩化の影響

*久保田 慈苑1片山 郁夫1ジャヤウィクラマ エランガ1岡崎 啓史1 (1.広島大学)

キーワード:CO2鉱物化、CCS、かんらん岩、リスヴェナイト、三軸圧縮試験

気候変動対策の一環であるCCS(二酸化炭素回収・貯留)において、CO2鉱物化が新たなCO2貯留法として提案されている。この方法では、大気中に存在する、もしくは化石燃料の燃焼に伴い放出されたCO2を回収し、かんらん岩や玄武岩などの苦鉄質岩、超苦鉄質岩層にそのCO2を注入し、炭酸塩鉱物としてCO2を岩石内に貯留する。CO2鉱物化は従来の貯留法に比べ、CO2漏洩リスクの低さ、貯留ポテンシャルの高さなどのメリットがあり、実際にアイスランドのCarbFixというプロジェクトでは玄武岩層を用いたCO2鉱物化が2014年より実施されている。また、オフィオライトと呼ばれる、過去の海洋地殻が大陸地殻に衝上したことで形成される岩体では、マントルかんらん岩が広範囲に露出しているため、かんらん岩を用いた大規模なCO2鉱物化が可能であると予想されている。しかし、CO2を注入した後のかんらん岩内に存在する炭酸塩鉱物を定量する指標が未だに確立されていないなどの課題があり、実用化には至っていない。そこで本研究では、CO2注入後のかんらん岩内の炭酸塩鉱物を定量するにあたり、物性に着目した実験的研究を行った。

本研究の実験ではオマーンのオフィオライトから採掘された、炭酸塩鉱物の含有量が異なる5つのリスヴェナイト(炭酸塩化したかんらん岩)を用いた。試料の鉱物組成はEPMAのマッピングによって決定された。試料に含まれる炭酸塩鉱物はカルサイトとドロマイトで、各試料の炭酸塩鉱物の含有量はそれらの炭酸塩鉱物の合計値より算出し、0.3~95.8%となった。これらの試料を用いて、三軸圧縮試験を行い、歪み、軸方向の変位、弾性波速度を計測した。実験は室温のドライ条件で歪み速度が約10-6 s-1、封圧20 MPaの環境下で行った。

歪みの解析の結果、炭酸塩鉱物の含有量が52%以上の試料では、炭酸塩鉱物の含有量が多い試料ほどヤング率が低くなった。また、軸方向の変位の値から破壊強度を求めた結果、石英を25%以上含む3つの試料では変質を受けていないかんらん岩に比べ、破壊強度が増加した。一方で、炭酸塩鉱物を86%以上含む2つの試料では、破壊強度と炭酸塩鉱物の含有量に相関があり、炭酸塩鉱物の含有量が増加するにつれて破壊強度は低下した。弾性波速度については、どの試料も変質していないかんらん岩に比べ低い値を示したが、炭酸塩鉱物の含有量と弾性波速度の間に相関は見られなかった。ただし、蛇紋岩化したかんらん岩の弾性波速度と比較すると、蛇紋岩化したかんらん岩では変質していないかんらん岩に比べVp/Vsの値が増加したのに対し、リスヴェナイトでは同等、もしくは低い値を示した。

以上の結果より、かんらん岩の炭酸塩化により形成する石英と炭酸塩鉱物がリスヴェナイトの破壊強度に影響を与えることが推測される。したがってリスヴェナイトと変質を受ける前のかんらん岩の破壊強度を比較することで、リスヴェナイトの鉱物組成が推定、さらに炭酸塩鉱物を定量できる可能性がある。また、弾性波速度から炭酸塩鉱物を定量することは困難なものの、Vp/Vsの値を用いることで、かんらん岩が炭酸塩化作用と蛇紋岩化作用のどちらを受けたのかを推定できることが示唆された。これらの結果は、炭酸塩化が進んだかんらん岩のモニタリングに岩石の物性が有用であることを意味し、今後のかんらん岩を用いたCO2鉱物化の研究において重要な示唆を提供している。