14:00 〜 14:15
[SCG47-02] 琵琶湖深部湖底からの湧水・ガスの分布とその性質
キーワード:琵琶湖、湖底湧水、環境、メタン
1 はじめに
琵琶湖に流入する水の10-20%が,湖底からの湧水によるとされていて(滋賀県,2018),それは琵琶湖環境に無視出来ない影響を与えていると考えられる.しかし,深部湖底湧水の実態は明らかになっていない.琵琶湖では,一般に,春~秋に湖水が成層構造を形成し,冬に全層循環が起きてその成層構造が解消される.したがって,湖底深部で湧水があれば,春~秋の時期に深部湖底環境は大きく影響されることになる.加えて,2019年と2020年の冬は,暖冬のため全層循環が発生しなかった.地球温暖化も考慮すると,湖底環境保全のため,琵琶湖の深部湖底湧水を研究することが重要である.
Kumagai et al.(2021)は,水中音波探査,AUVによる湖底探索,湖底堆積物の温度勾配測定などによって,北湖西部(高島市沖)の琵琶湖最深部付近でメタン99%以上のガスを伴う深部湖底湧水を2009年に発見した(図1).Kumagai et al.(2021)の調査によれば,湧水孔や深部湖底湧水からのガスによると思われる鉛直方向の水中音響異常(以降,ガス音響異常)は,南北約10㎞の長さで概ね線上に並ぶ.ただし,ガス音響異常は湧水孔の分布よりもばらつく傾向にある(図1).Kumagai et al.(2021)は,この深部湖底湧水による湖底環境への影響を危惧しているが,2013年以降は,同湧水については十分な調査は行われていない.
以上を考慮して,我々は,この深部湖底湧水の実態と湖底環境への影響を明らかにすることを目的として,科学研究費補助金「20H01974: 琵琶湖深部湖底湧水の地下構造との関係解明および湖底環境への影響評価」および「23K03494: 琵琶湖深部湖底における湧水・メタンの形成機構と同湧水が環境に与える影響の評価」によって研究を行った.
2 方法
広範囲で網羅的な水中音波探査(図1)を2022-2023年に,CTD測定,3深度(5m, 50m, 湖底)での湖水の水質と水素・酸素同位体比測定をY1(北緯35度20.22-20.25分, 136度6.09-6.13分,水深約90-100m)とT1(北緯35度22.19分, 136度05.83分,水深約90m)付近で2021-2023年に行った.ガス音響異常が安定して検出される場所がY1であり,T1は,Y1と比較するための点で滋賀県立大学の定期観測点である.我々は,Y1での湖底温度勾配連続測定も2022年10月~2023年3月に行った.また,Y1において湖水表面で水上置換によってガスを2022年~2023年に3度採取し,その中のメタンの炭素・水素の同位体比の分析も行った.
3 結果と考察
ガス音響異常は広範囲に分布していて,Kumagai et al.(2021)の報告するような線上の配列にはならなかった(図1).CTD調査の結果や水質は,Y1とT1で概ね一致していたが,一部の時期で,湖底においてY1とT1で違いがみられた.採集したガスのメタン濃度は10〜60%程度であり,大気中のメタン濃度よりはるかに高い.検出したメタンは,そのメタン中の炭素及び水素の同位体比から,湖底堆積物に由来する有機起源のものであると判明した.2022年10月から2023年3月までY1での計測で得られた湖底堆積物中の温度分布は,この地点での熱流量が非常に高いことを示している.この高熱流量は,Y1近傍で堆積物中を流体が上昇して熱を輸送することで生じたと考えられる.
謝辞
熊谷道夫立命館大学教授には,琵琶湖湖底地形や湧出孔・ガス音響異常の位置について貴重なデータを頂いた.記して感謝の意を表します.
図1 T1,Y1と2022-2023年の我々の水中音波探査で検出されたガス音響異常(黄色い▲).T1は参照点でY1はガス音響異常が常時検出される点.2022-2023年の水中音波探査の領域を灰色で示す.Kumagai et al(2021)によって報告された2009-2012年の湧出孔(赤十字)と2012-2019年のガス音響異常(緑丸)も示した.灰色の線は等深度線で湖水表面を0mとしている.
琵琶湖に流入する水の10-20%が,湖底からの湧水によるとされていて(滋賀県,2018),それは琵琶湖環境に無視出来ない影響を与えていると考えられる.しかし,深部湖底湧水の実態は明らかになっていない.琵琶湖では,一般に,春~秋に湖水が成層構造を形成し,冬に全層循環が起きてその成層構造が解消される.したがって,湖底深部で湧水があれば,春~秋の時期に深部湖底環境は大きく影響されることになる.加えて,2019年と2020年の冬は,暖冬のため全層循環が発生しなかった.地球温暖化も考慮すると,湖底環境保全のため,琵琶湖の深部湖底湧水を研究することが重要である.
Kumagai et al.(2021)は,水中音波探査,AUVによる湖底探索,湖底堆積物の温度勾配測定などによって,北湖西部(高島市沖)の琵琶湖最深部付近でメタン99%以上のガスを伴う深部湖底湧水を2009年に発見した(図1).Kumagai et al.(2021)の調査によれば,湧水孔や深部湖底湧水からのガスによると思われる鉛直方向の水中音響異常(以降,ガス音響異常)は,南北約10㎞の長さで概ね線上に並ぶ.ただし,ガス音響異常は湧水孔の分布よりもばらつく傾向にある(図1).Kumagai et al.(2021)は,この深部湖底湧水による湖底環境への影響を危惧しているが,2013年以降は,同湧水については十分な調査は行われていない.
以上を考慮して,我々は,この深部湖底湧水の実態と湖底環境への影響を明らかにすることを目的として,科学研究費補助金「20H01974: 琵琶湖深部湖底湧水の地下構造との関係解明および湖底環境への影響評価」および「23K03494: 琵琶湖深部湖底における湧水・メタンの形成機構と同湧水が環境に与える影響の評価」によって研究を行った.
2 方法
広範囲で網羅的な水中音波探査(図1)を2022-2023年に,CTD測定,3深度(5m, 50m, 湖底)での湖水の水質と水素・酸素同位体比測定をY1(北緯35度20.22-20.25分, 136度6.09-6.13分,水深約90-100m)とT1(北緯35度22.19分, 136度05.83分,水深約90m)付近で2021-2023年に行った.ガス音響異常が安定して検出される場所がY1であり,T1は,Y1と比較するための点で滋賀県立大学の定期観測点である.我々は,Y1での湖底温度勾配連続測定も2022年10月~2023年3月に行った.また,Y1において湖水表面で水上置換によってガスを2022年~2023年に3度採取し,その中のメタンの炭素・水素の同位体比の分析も行った.
3 結果と考察
ガス音響異常は広範囲に分布していて,Kumagai et al.(2021)の報告するような線上の配列にはならなかった(図1).CTD調査の結果や水質は,Y1とT1で概ね一致していたが,一部の時期で,湖底においてY1とT1で違いがみられた.採集したガスのメタン濃度は10〜60%程度であり,大気中のメタン濃度よりはるかに高い.検出したメタンは,そのメタン中の炭素及び水素の同位体比から,湖底堆積物に由来する有機起源のものであると判明した.2022年10月から2023年3月までY1での計測で得られた湖底堆積物中の温度分布は,この地点での熱流量が非常に高いことを示している.この高熱流量は,Y1近傍で堆積物中を流体が上昇して熱を輸送することで生じたと考えられる.
謝辞
熊谷道夫立命館大学教授には,琵琶湖湖底地形や湧出孔・ガス音響異常の位置について貴重なデータを頂いた.記して感謝の意を表します.
図1 T1,Y1と2022-2023年の我々の水中音波探査で検出されたガス音響異常(黄色い▲).T1は参照点でY1はガス音響異常が常時検出される点.2022-2023年の水中音波探査の領域を灰色で示す.Kumagai et al(2021)によって報告された2009-2012年の湧出孔(赤十字)と2012-2019年のガス音響異常(緑丸)も示した.灰色の線は等深度線で湖水表面を0mとしている.