日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG47] 地殻流体と地殻変動

2024年5月28日(火) 13:45 〜 15:00 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、小泉 尚嗣(滋賀県立大学)、笠谷 貴史(海洋研究開発機構)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、座長:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

14:45 〜 15:00

[SCG47-05] 2016年熊本地震前後の熱水中の深部起源流体

*角森 史昭1森川 徳敏2高橋 正明2 (1.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設、2.産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

キーワード:深部起源流体、リチウム/塩化物イオン比、ヘリウム同位体比、水安定同位体、2016年熊本地震

熊本・阿蘇地域の3つの観測点に産出する熱水について、溶存ガスの希ガス分析および酸素水素同位体分析とイオン分析を行い、深部起源ガスおよび深部起源水が観測点の帯水層に供給されている状況を評価した。熊本地震の震源直下と阿蘇山直下にはマントルからの流体供給を示す導電性流体ゾーン(C1・C2, Aizawa+(2021))が観測されており、この地域の熱水には深部起源流体が付加されているものと予想される。これらの深部起源流体が2016年の地震によってどのように変化したかを考察した。
 各観測点において、大気に触れないように試料水を採取した。分析は産業技術総合センターで行った。
2013年から2021年の間の3He・4He・20Neの濃度の変化を見ると、20Neが2020年まで緩やかに減少しその後元のレベルまで回復する傾向が見られた以外は、概ね一定の値であった。この期間中の3観測点の、深部起源ガスの付加を示す3He/4Heの値は3~4Ra(Raは大気の3He/4Heの値)でほぼ一定であり、大気起源ガスの影響を示す4He/20Neの値は時間とともに変化した。これは熱水中の20Neの濃度の変化が反映したものである。20Ne濃度の変化は採水時に試料水が大気に曝露されると大きく影響を受けるが、20Neの時間変化がランダムでなく一定の傾向で変化することから、この20Neの変化は帯水層に対する深部起源ガスと大気起源ガスの混合状態が緩やかに変化したために起きたと解釈することができる。3He/4He値や4He/20Ne値は、2016年熊本地震前後で不連続な変化はみられなかった。これらのことから、3つの観測点の帯水層に対する深部起源ガスの供給状態は安定しており、2016年の地震によって影響されなかった、と考えられる。ただし、地震発生前後でこれらの値の非常に速い変化が起きていた可能性を否定するものではない。
 2013年から2021年の間のδD・δ18Oの値変化を見ると、ASOの熱水は天水起源である一方、KUMとOTNの熱水には有馬型熱水(深部起源水)の付加が認められた。ASOとOTNのδD-δ18O関係が時間とともに変化せず、KUMのそれは、採水初期には安定していたが近年になって天水に向かって変化をしているように見える。それでも、2016年の地震前後で大きな変化はみられず、帯水層への天水と深部起源水の供給状態は安定していたと言える。一方、有馬型熱水の付加を示す指標となるLi/Cl値は、ASOでは火山性熱水の性質を示し、KUMとOTNが有馬型熱水に近い地層水の性質を示して、いずれも海水の値に比べ高い値であった。これらの値も観測期間中安定していた。
 以上のことから、阿蘇熊本地域の3つの観測点の帯水層に対する深部起源水の供給状態は安定しており、2016年の地震によって影響されなかった、と考えられる。